11人の日本人世界王者を輩出した帝拳
キックボクシングからボクシングに転向した那須川天心(24=帝拳)が日本ボクシングコミッション(JBC)のB級プロテストに合格した。
東京・後楽園ホールには報道陣が大挙終結。デビュー前から「天心フィーバー」とも言える加熱ぶりで、注目度の高さだけで比較すれば井上尚弥(29=大橋)のデビュー当時よりはるかに上だ。
今春にもデビュー戦のリングに上がる予定で、今後は世界への階段を一歩ずつ上がっていくことになる。
所属する帝拳ジムは国内有数の名門だ。公式HPによると、設立は1946年8月。ジム初の世界王者は1970年にフライ級王座を奪取した大場政夫だった。チャチャイ・チオノイを逆転KOした5度目の防衛戦から3週間後に交通事故で急死し、「永遠のチャンピオン」と呼ばれた。
以降、衝撃の1回KOでスーパーライト級王座を強奪した浜田剛史、スーパーバンタム級王座を7度防衛した西岡利晃、2階級を制覇した粟生隆寛、「ボンバーレフト」の三浦隆司、五輪金メダリストから転向してプロでもミドル級のベルトを巻いた村田諒太ら日本選手だけで11人の世界王者を輩出している。
村田諒太vsゴロフキンを実現した本田明彦会長
多くの世界王者を育て上げたのには理由がある。充実した設備やトレーナー陣はもちろん、1965年に先代の本田明会長が死去したため、当時高校3年で新会長に就任した本田明彦氏は今や世界的なプロモーターだ。世界各国に張り巡らされた太いパイプを活かして対戦相手を呼び、所属選手をキャリアアップさせるのが抜群にうまい。
ボクシングが1対1の格闘技である以上、マッチメークは極めて重要だ。相手が強すぎると所属選手が潰れるリスクがあるし、逆に弱すぎるとステップアップできない。程よい相手を選び、なおかつボクサーとして噛み合うかどうかを見極める眼力も求められる。
しかも、天心のような世界を目指す選手となると、海外の世界ランカーや世界王者と何度も対戦する必要があるため、太いパイプと資金力が必要。小さなジムだと世界戦を1試合組むだけでも大変だが、帝拳には実績がある。ファイトマネーが6億円とも言われた村田諒太とゲンナジー・ゴロフキンの試合が実現したのも本田会長の手腕があってこそなのだ。
天心も今後はジムが用意するレールの上を走っていくことになる。5戦目で世界王者になった田中恒成(27=畑中)の日本記録更新を期待する声もあるが、最速記録にはこだわらずキャリアを積んでいくべきだろう。
数年後に井上尚弥挑戦の可能性も
天心の帝拳ジム所属でさらに夢が広がるのは「夢の対決」への可能性を残したことだ。デビュー戦はバンタム級かスーパーバンタム級が予定されており、今や世界ボクシング界のトップクラスに君臨する井上尚弥と階級が近い。
同じジムの選手同士で試合を組むことはできないが、井上は大橋ジム所属。かつてはフェザー級まで上げて5階級制覇を目指したい意向も示唆していたものの、1月の会見では「スーパーバンタム級が最終章」と話している。
つまり、バンタム級に続いて2階級での4団体統一を果たしても、その後もフェザー級には上げずに防衛戦を重ねる可能性があるとも受け取れる。天心がデビュー後も順調に連勝街道を突き進んで世界ランカーとなれば、数年後の井上尚弥挑戦もあながち夢物語ではないのだ。
2022年6月19日に行われた武尊との一戦は、東京ドームに5万6399人が押し寄せた。最高300万円のチケットが早々に完売するなど、とてつもない興行規模だった。
もし、井上尚弥vs那須川天心が実現すれば「THE MATCH 2022」を超えても不思議ではない。そんな夢を見させてくれる天心は、プロのリングでどんなファイトをするだろうか。井上尚弥の出現で日本のファンの目も肥えてきている。まずはデビュー戦を注視したい。
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