dTVのドキュメンタリー番組で注目の発言
12月13日に東京・有明アリーナで行われるプロボクシングのWBA・WBC・IBF世界バンタム級王者・井上尚弥(29=大橋)対WBO同級王者ポール・バトラー(34=イギリス)の4団体統一戦を独占生配信する動画配信サービス「dTV」で、ドキュメンタリー番組「井上尚弥 Rord to Undisputed Champion~12.13への誓い~」が配信されている。
井上が9月に臨んだ米ロサンゼルス合宿やトレーニング風景、両選手の試合への意気込みなどが紹介されているが、その中で井上の興味深い発言があった。バトラー戦を「長引く想定」と語っているのだ。
拳2つで戦うボクサーは本能的に「勝ちたい」「倒したい」と考えるのが普通で、闘志をみなぎらせながら感情をそのまま口にすることが少なくない。しかし、世界の猛者を相手に無敗レコードを更新し続ける井上は冷静沈着だ。頭の中で勝つまでのプランができているのだろう。
23戦全勝(20KO)とKO率87%を誇る井上でも、足を使って距離を取るボクサーを倒すのは簡単ではない。向かってくる相手ならカウンターも当てやすいが、下がる相手にクリーンヒットしてもダメージは半減される。
バトラーは元々そういった戦い方をするボクサーだけに、井上相手に玉砕覚悟で前に出てくる可能性は極めて低い。軽いパンチでも当てることができればポイントになるため、井上のハードパンチを浴びることを極力避けながら判定に持ち込むことも念頭に置いているのではないか。
仮にバトラーが判定負けしても、パウンド・フォー・パウンド1位にもランクされた井上を相手にフルラウンド戦えば、逆に評価を上げる可能性がある。同じイギリス人の元WBAバンタム級王者ジェイミー・マクドネルは井上にわずか1回で倒されたのだ。英国内で比較されることを考えれば、世界最強王者に善戦したという事実は決して小さくない。
もちろん、ハナから負けることを想定して戦うボクサーはいないが、仮に善戦の末の判定負けなら、その後の世界ランキングもそれほど下降せず、再び世界戦の機会に恵まれる可能性も残す。バトラーにとっては、距離を取って戦うことがいろいろな意味で最もリスクが小さいのだ。
倒しにくいバトラーをいかに倒すか
井上の発言はそこまで計算した上でのことだろう。そのためスタミナや筋力の強化を図ってフィジカルトレーニングにも重点を置いているという。中盤から後半に持ち込まれてもノックアウトできるだけのパワーとスタミナをつけておくためだ。
井上は試合前になると「相手を過大評価する」という言葉をよく使う。油断や慢心しないように、最大限のリスペクトを払い、自分にとって最悪の試合展開も想定しながらプランを組み立てる。
その上でいかにしてノックアウトするか、ファンを喜ばせるかということも意識する。バトラーとの実力差から見れば、たとえ判定までいったとしても井上が負けることは考えにくい。しかし、「モンスター」が判定勝ちで満足することは決してなく、いかにKOに持っていくか、あらゆるパターンを想定しているはずだ。
最近の井上の試合では、2020年10月のジェイソン・モロニー戦が7回KO、2021年12月のアラン・ディパエン戦が8回TKOだった。いずれも一発の怖さはないもののディフェンスが固く、「倒しにくい」相手だった。バトラー戦を前に井上が「長引く想定」と口にしたのは、過去のそういった経験も関係しているだろう。
前回のノニト・ドネア戦はあまりにも見事な2回TKO勝利だったが、最初のダウンはドネアが打ちに来たところに強烈なカウンターを決めて奪ったものだった。今回はバトラーが不用意に出てくるとは考えにくいため、井上は自ら仕掛けて倒す必要がある。それには多少の時間がかかる可能性があるのだ。
焦点はKOラウンド
パーフェクトレコードを誇る日本ボクシング界の至宝に抜かりはない。あらゆるパターンを想定し、そこから逆算して入念に準備していく姿勢には、井上の「ボクシングIQ」の高さと地道な努力を厭わない人間性が出ている。
12月13日の4団体統一戦はdTVおよび、ひかりTVで独占配信され、PPVではなくサブスク料金で視聴可能。dTVなら月550円(税込)で、初回入会なら最長12月28日まで無料だ。もちろん、井上が「長引く想定」と発言した先述のドキュメンタリー番組も視聴できる。
バトラー戦の最大の焦点は勝敗ではなく、KOラウンドと言っても過言ではない。井上の想定通り、中盤から後半までいくのか、あるいはまたしても前半で倒してしまうのか。歴史的瞬間をこの目に焼き付けたい。
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