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ロッテにフライボール革命は起きたのか?今季の打球データを分析<後編>

2019 12/29 06:00青木スラッガー
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ロッテの本塁打激増は「ラグーン効果」ではなく「フライボール革命」?

本塁打を激増させたロッテ打線。今季からZOZOマリンスタジアムに設置された「ホームランラグーン」の影響が大きかったと考えるのが当然のように思えるが、実際は敵地での本塁打数も倍増している。「ラグーン効果」がそれほどでもなかったとすれば、本拠地が狭くなり、フェンスオーバーを狙いやすくなった心理的な変化が、ロッテ版「フライボール革命」を引き起こしたという可能性はあるだろうか。

前編では昨季からの打球データの推移をパ・リーグ各チームで比較し、ロッテはこの1シーズンで最もフライを増やしたチームであることがわかった。後編では打者個人の打球データを分析していく。

全体的にはフライが増えた傾向

今季250打席以上に立った主力打者9人の打球データを昨季から比較して見ていきたい。(レアードは日本ハム時代と比較)

データは今季の打席結果からフェアゾーンに飛んだ打球をゴロ(GB)・フライ(FB)・ライナー(LD)に分類し、その割合を示している。「GB/FB比率」はゴロとフライの比率で、ゼロに近づくほどフライの割合が高くなる。

主力打者9人 打球データⒸSPAIA

全体的な視点から見ると、フライ率が上昇したのは鈴木、中村、角中、清田、田村、藤岡の6人。ゴロ率が下がったのは井上以外の8人。GB/FBが低くなった(フライに対するゴロの比率が下がった)のは井上、レアードを除く7人。主力打者がフライを増やし、ゴロを減らした傾向にあることは確かだ。

フライ増加と成績の関連性は……

次に、本塁打を増やした打者から、フライ率の推移と成績の関係性を探りたい。

フライ率の推移ⒸSPAIA

フライ率が大幅に上昇したのは中村だ。41.47%から48.00%まで6.53%上がり、本塁打の増加数はチームトップの9本。17本塁打のうちZOZOマリンスタジアム以外で11本塁打を放っており、フライ率の上昇が本塁打増加につながったと読み取れる。

しかし、そのほかの打者のフライ率はというと、8本増の清田はプラス1.24%となったが、同じく8本増の荻野、7本増の鈴木はほとんど変わらず。レアードも日本ハムでの昨季からマイナス1.70%となっている。このように本塁打を増やした打者群が共通してフライを増やしていたわけではなかった。

昨季とあまり本塁打数があまり変わらなかった、または減らした打者のフライ率も並べる。

フライ率の推移ⒸSPAIA

1本増の角中はプラス1.37%とやや上昇。昨季と同じ24本をマークした井上はフライ率もほとんど同じ数字となった。

田村はプラス2.41%、藤岡はプラス6.19%と、下位打線の2人はフライ率が上昇。両選手は今季の打席数が少なかったため、Isop(長打率と打率の差で、より純粋な長打力を評価する指標)を比較すると、田村は.089から.081とほぼ変化なし。プラス6.19%のフライ率上昇があった藤岡のIsoPは.075から.088とやや上がったが、それほど大きな変化ではない。

ここまで主力打者の打球データを見てきたが、フライ率の上昇と本塁打の増加に関連性はあまりなさそうだ。中村のようにフライ率の大幅な上昇と本塁打増加がリンクする例もあったが、大リーグのアストロズなどのように、チーム全体でフライボール革命が実践されたとは言い難い結果になった。

打線強化につながったのはフライではなく「ライナー」か

本塁打増加に関連性が深そうなのは、フライではなくライナーである。

ライナー率の推移ⒸSPAIA

荻野、清田、鈴木、レアードはいずれもライナー率が上昇している。特に打率.315をマークして首位打者争いにも絡んだ荻野は、昨季から4.47%もライナー率を上昇させた。

3つの打球種別の中で、ヒットになる確率が最も高いのはもちろんライナーだ。ライナーを高い確率で打っていくことが打撃の基本となる。実際、上記の4人は本塁打と合わせて打率も向上。ライナー率が昨季から3.13%下がった中村は、本塁打は倍増したものの打率は5分2厘下げている。

フライを狙いにいくフライボール革命は「ホームランの打ちそこないがヒット」という考え方になるだろう。しかし今季のロッテの場合は主力打者がライナー打球を増やし、「ヒットの延長がホームラン」の理屈で、フライボール革命とは逆のアプローチが成功したようにも思える。

外野フェンスが近く低くなり、本塁打が出やすくなったという気持ちのゆとりが、打撃をそのように導いたのかもしれない。