「武豊さんは騎手が楽しいと言ってました」
市川いずみ(以下、市川):矢野監督は読書家としても有名ですが、最近読んだ面白い本はありましたか?
矢野燿大(以下、矢野):最近でもないけど、樺沢紫苑さんの「神時間術」や「アウトプット大全」とか「読んだら忘れない読書術」とか。面白いですよ。
市川:私も矢野監督のお話を聞いて、年明けから数えて4冊目を読んでます。
矢野:1カ月で10冊読んだら日本の中の3.4%に入るらしいですよ。5、6冊でも7%か8%くらい。それだけみんな読まないんです。読めば得しかないのに。
市川:本を買ってみて、思っていたのと違う場合もありますね。
矢野:実際に全部インプットするのは無理です。3つだけあればいいとか、本から7%取れたらいいから飛ばし読みしなさいとか書いてあります。
ただ、インプットしてもアウトプットしないと意味がない。インプット3、アウトプット7でいい。僕もいっぱい読んで自己満足してるけど、どこまで身になってるか。周りに話すことでアウトプットしてます。それが自分のためになるんです。
市川:去年は何冊くらい読みましたか?
矢野:100冊くらいかな。さすがに12月に本を整理しました。気に入った本を目の前に置いて、興味のないやつは処分しました。ひすいこたろうさんの「ものの見方検定」という本があるんですけど、秋元康さんがアメリカに着いてタクシーから降りた一歩目に犬のフンを踏んだ時、「ヤッター!」って喜んだそうです。

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市川:フンを踏んでも感動できると?
矢野:そうそう。どっちをチョイスするかは自分次第。大体の人は「最悪や、なんてついてないねん」というチョイスをするけど、秋元康さんみたいに「この確率は凄い、俺どれだけもってんねん」という方をチョイスしたら旅も楽しい。結局、ものの取り方なんです。
市川:楽しくできて結果が出たら、それ以上はないですね。
矢野:ほんまにすごい人は楽しんでますよ。この前、武豊さんに騎手って楽しいですかって聞いたら、「めちゃ楽しいです。関係ないときも馬のこと考えてます」と言ってました。だから疲れないし、もっとうまく乗るにはどうしたらいいやろと考えるんです。仕事となると重いし、やらされてる感じが出てくるけど、好きなことやってるときは時間が経つのが早いでしょう。
楽しくやるって究極やと思うんです。チャンスで打席が回ってきた時、ゲッツー打ったらどうしようと思っていたら、結果が出ても「ああよかったな」で終わるし、出なかったら「やっぱりあかんわ、チャンスに弱いわ」と自分で決めてしまうんです。でも、打ったらヒーローやと思って結果が出た場合は心の底から嬉しいし、ゲッツーに終わっても悔しさが倍増して、もっと練習しようとなるんです。
印象深いデニー友利からのサヨナラヒット
市川:矢野監督がそういう考え方をできるようになったのはいつからなんですか?
矢野:めちゃ偉そうに言ってるけど、辞めてからやな(笑)。
市川:現役時代はできなかったんですか?
矢野:(2003年6月17日の横浜戦で)デニー友利さんからサヨナラヒットを打った時は、打てたらヒーローだとポジティブに捉える方をチョイスしたの覚えてます。2点差で満塁で打席に立ち、カウント3-1になって押し出しが頭をよぎったんです。ゲッツー打ったらどうすんねん、フォアボール選んだら押し出しやぞと、無難な方を選択しようとする自分と、お前振れよ、なんのために練習してきたんや!と思う自分が両方いました。
その時、マウンドの友利さんを見たら不安そうに見えたんです。それまで自分のことしか考えてなかったけど、よく考えたら友利さんの方が窮地に追い込まれてる。ボールを投げたら押し出しやし、打たれたらピンチが広がるし、ストライクを放るしかない状況。そこで振らんのかと自分に言い聞かせて振ったら右中間に飛んだ。サヨナラは頭になかったけど、一塁ランナーまで帰って逆転サヨナラになったんです。
時々そういうチョイスもしてるけど、考えが明確になったのは辞めてからです。いろんな人に話を聞いたり、本を読んだりしながら、やっぱりそっちの方がいいんだなと。
市川:若い選手でも自分なりの考え方で20年くらい生きてきてるので、指導によって考え方を変えさせるのは難しいんじゃないですか?
矢野:難しいと本人が思ってるだけでしょう。去年の2軍でもそうでしたが、「あかん」と言うだけでなく、あのプレーはどういう考えでやったのかとか、本人と話していけば、そっちを選択した方がいいのかなと選手たちも思ってくれる。ところが、「何してんねん、ゲッツー打ちやがって」と言ったら、選手は前向きになれない。僕らがアプローチしていくことで、前向きな方を選択して、打てなくても練習するぞと言えばいいだけなんです。
市川:なかなか積極的にならない選手はいなかったですか?
矢野:人によって差はありますよ。思うようにいくことはないけど、雰囲気やムードは大事なんで2軍の時はどんどん発信したし、結果がダメでもアプローチがよかったら褒めました。ゲッツーを打っても、そこまでのことの方を大事にせなあかん。打席に向かう姿勢とかね。よく言われるけど、野球は失敗のスポーツ。10回中7回失敗しても(打率3割なら)いい選手なんだから、あんまりそこだけを言わないようにしています。
「ヘタを自覚している選手ほど頑張る」
金島弘樹(以下、金島):同じことをしても活躍できる人とできない人がいます。ポテンシャルは高いのに活躍できない人は矢野監督からどう見えてるのでしょうか?
矢野:僕の感覚では、能力が高い選手は意外に残りません。「うさぎとかめ」と一緒でおごりがあると思います。うまい選手は早くできるので苦労してないし、へこむことがないから落ちると弱いんです。ヘタを自覚してる選手は身に着けるためにすごい頑張るんです。僕も金本も下柳もヘタというのがあったと思います。もっと能力が高い選手はいっぱいいました。
金島:なるほど。最初からうまくいく人よりいっぱいヘタうって、いろんなことを学んだ方が精神的にも強くなっていくと。
矢野:そうですね。僕はそう感じてます。能力が高い選手って、落ち出したときに土台がない。本人は頑張ってるけど、僕らから見たらもっとできると見えるんです。すぐ、いっぱいいっぱいになる。

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市川:ファンからの質問なのですが、選手の態度を見てやる気がないと感じる時もあると思います。監督が感情のまま怒ることはないと思うのですが、どんな風に声をかけますか?
矢野:まず話を聞きます。相談することないか?とか、どういう風に野球に向き合ってるか?とか。
市川:それでもテンションが低くて「別にないっす」という感じで終わったらどうしますか?
矢野:ずるいようですけど、それならそこまでですよ。わざわざ拾い上げる必要はないんです。高校野球は違うけど、僕らプロやから。それに気付けなかったら本人が苦労するだけなんです。東大に入るより難しいと言われるプロ野球で頑張らないのはもったいないと思います。その選手に時間をかけるなら、へたくそでも頑張る選手に時間をかけたいです。
市川:指導や育成するにあたって、一番の軸は何でしょうか?
矢野:やらされないこと。自分からやる方向にもっていきたいですね。やらされてる時ってうまくいく感じがないけど、自分からやればメンタルも変わるんです。失敗したらめちゃ悔しくなるし、自分のふがいなさに腹が立って、うまくなりたいという気持ちが湧くんです。
この春季キャンプでも、朝の早出で打ちたい選手は打てばいいし、トレーニングしたい選手はやればいいし、守備をやりたい選手はやばれいい。俺が引っ張ってやるのではなく、選手に選択させます。そうしないと、指示待ちになりますからね。自分で動き出すのは大切です。
今あることも健康も当たり前やと思ってるけど、生まれてくる確率って、1億円の宝くじが100万回連続で当たる確率らしいです。生まれてきた時点で奇跡なんですよ。選ばれた存在なのに、そこに気付けてない。怪我した時に健康のありがたさに気付くことはあっても、普段は気付かない。だから本を読むことは大事やと思うんです。
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〜 阪神・矢野監督×SPAIA⑤「日本一になってパレードしたい」に続く