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阪神・矢野監督×SPAIA②「勝っても負けてもファンに感謝を伝えたい」

2019 2/1 15:00SPAIA編集部
矢野監督2人,ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA


阪神タイガースの矢野燿大監督がSPAIA編集部を訪れ、株式会社グラッドキューブ代表取締役CEOの金島弘樹と対談した。進行役は矢野監督をよく知る市川いずみフリーアナ。監督就任にまつわる裏話から今季への意気込み、プライベートに至るまで濃密な対談を全5回でお届けする。第2回は2軍監督として培った育成論やコーチングについて。


《対談シリーズ》
阪神・矢野監督×SPAIA①「監督要請を受けた時、金本監督に会いに行きました」

「星野監督を恐れて消極的になったこともあった」

市川いずみ(以下、市川):理想の監督像はありますか?

矢野燿大(以下、矢野):星野(仙一)さんみたいに魅力ある男になれるもんならなりたいし、野村(克也)さんには頭を使ったり、工夫したりして、うまい選手に勝つ方法を教えてもらいました。吉田(義男)さんも明るい監督だったし、岡田(彰布)さんは何も言われないという信頼関係がありました。いろんな人から学んだことは自分の中に沁み込んでいます。

でも、最終的に僕は僕。かっこつけて言うと、理想は僕らしいというか、選手のためにいいと思ってやっていることが結果的に矢野の野球と思ってくれたらいいです。

市川:そもそもプロ野球の監督はやりたかったんですか?

矢野:すごくやりたいと思ってた訳じゃないです。解説者の頃から2軍監督はやりたいとずっと言ってました。子供たちと野球教室してる時、めちゃ楽しいんです。その延長と言うと怒られるけど、感覚的には似ています。分からないけど、将来的に高校野球とか、子供たちに教えるとか、楽しいと思いますね。

市川:2軍監督をされて一番の収穫は?

矢野:解説者の頃から、こうやった方が選手にとっても、僕らにとっても、ファンにとってもいいやろなと思っていたことをぶつけたら選手は返してくれました。ファーム日本一になれたし、盗塁数もあんなことになった(12球団最多163盗塁)。選手がいい顔でプレーしていたし、それが想像以上だった。失敗を怖がったり、楽しくなさそうにプレーしてるのって、選手にもファンにもプラスにならない。僕らが可能性を抑えつけている部分があったんじゃないかと思いました。

それだけが全面に出ると、ひ弱というか、楽しければいいのかと思われるでしょう。もちろん、プロとして恥ずかしくないプレーをしないといけないし、チーム内のルールは必要だと思う。でも、大きいところで言うと、失敗を恐れずにやったらこんな風になった、これでいいんやと確認できたのが一番大きかったです。

市川:解説者の頃からとおっしゃいましたが、現役の頃も感じてたんですか?

矢野:それもあるし、解説の時間で学べたこともあります。両方です。星野監督は愛情があったし、お世話になったけど、存在が大きすぎて、怖がってプレーした部分もありました。星野監督に怒られるから初球は振らないとか、捕手としても打たれたら怒られるから、怒られないための配球を考えたり。僕は抑えることを考えないとあかんのに、怒られへんことや打たれ方を考えるのはおかしいと。

市川:言い訳をつくると?

矢野:そうそう。よくないなと思って。解説者時代にいろんな人に会わせてもらって、スポーツでも仕事でも消極的にやって成功してる人おれへん。自分のためだけにやると、いつかモチベーションが下がったり、壁にぶつかったりするでしょう。誰かのためになってるとか、胸を張れたら違うモチベーションが見つかると思うんです。

2軍監督は「体育の先生みたいだった」

市川:育成の楽しさとは何でしょうか?

矢野:去年も(2軍から上がった選手が)1軍で活躍するのが一番嬉しかった。2軍でも結果が出ないとテンションは上がらない。あきらめかけてる選手を前に向かせるとか、そういうのは楽しかったです。僕は体育の先生に興味があったんですけど、ほんまに体育の先生みたいやなと思いました。役職は違うけどよく似てますよ。

市川:去年もそう思ってたんですか?

矢野:思ってました。ミーティングで最後に僕がしゃべるんですけど、体育の先生みたいやなと。

僕が初めて出した戦力外選手の一人の西田(直斗)には、先生気分で「卒業生」とLINEで送りました。西田がどう受け止めたか知りませんけど、戦力外とか、辞めたという言い方より卒業とした方が西田も次に向かえるんじゃないかと思って。

野球でクビになっても、第二の人生で頑張る方がもっとすごいと。社会は厳しいけど一回諦めたら、どんどん諦めるサイクルになってしまうから、ここで頑張る力をつけて第二のステージで頑張ったら、プロで活躍するよりすごいことやと送りました。

矢野監督市川アナ,ⒸSPAIA

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市川:2軍は雰囲気がよかったので、鳴尾浜に行くのが楽しみでした。

矢野:プロ野球で20年やる選手が何人おんの?という話をしたんですが。

計算したら2月1日から9月末まで250日くらいで、月曜休みとしたら220日くらい。逆算してみなさいと。今年も来年も野球をできると思ってるかも知れないけど、毎年10人くらいクビになる。じゃあ、220日をどう過ごすか。無駄に過ごすのか、目いっぱいやるのかで全然違います。

言っていることが学校の先生みたいでしょ(笑)。

市川:先生ですね。体育の授業ではないですね。道徳。ホームルームですね(笑)。小学生からやってきた野球をあと220日しかできないと思うと過ごし方は変わるでしょうね。ホームルームのような話は2軍の時は毎日されてましたが、1軍でもしたいですか?

矢野:どこまでできるか分かりませんけど、共有していきたいですね、チーム全体として。

今年は勝っても負けても、ホームの時は挨拶しようかなと思ってます。ファームではやってましたが、1軍は勝った時しか挨拶してなかったでしょう。負けたらヤジられるけど、勝った時しかしないのはどうかなと思って、ファームの時はやってたんです。来てくれてありがとうという意味で頭を下げるのはいいんじゃないかと。挨拶して全員が集まってるところで、ちょっとの時間ミーティングもやれたらいいかなと思ってます。

市川:負けてもファンの前に並ぶと?

矢野:まだ確定ではないけど、僕の中ではそう思ってます。

「僕が最高のメンタルトレーナーになれれば」

金島弘樹(以下、金島):レギュラー、晩年、コーチ、2軍監督、監督と立場が変わってきてますが、一番声をかけやすいのはどれですか?監督になるとプレッシャーも違うと思いますが。

矢野:全く気にしません。僕が頑張らせるんじゃなく、コーチや選手自身がどうすんねん、お前は何がやりたいの?と。

金島:コーチングですね。

矢野:まさにコーチングなんですよ。本人がやりがいを見つけないと続かないです。

金島:企業経営者も一人で考えるか、取締役会で考えるしかないんです。創業時は誰も言ってくれません。コーチングのプロを呼んで自分を引き出す質問をされてアウトプットして、初めて気付きを得るんです。アメリカでは当たり前ですが、日本でも浸透してきました。

矢野:まさに今、その勉強をしてます。自分が通ってきた道やから相手の気持ちも分かるので、僕が最高のメンタルトレーナーになれたらいい。今までの指導者はやってきたことだけでアプローチしてたので、成功の道は一つしかない感じで教えられましたが、成功の道はいっぱいあって、こちらが提案していく。まず、その前に本人が何をしたいか。まさにコーチングです。

金島:人のことは気付くけど、自分のことは気付かない人が多いです。

矢野:めちゃ多いと思います。

金島:先日、「ジョハリの窓」の話をしたんですが、顕在意識と潜在意識に分かれていて、自分が知ってる自分と、他人から見えていて自分は知らない自分、自分は知っていて他人が知らない自分、自分も他人も知らない自分がいる。経営者は自分を一番知らないといけないし、他人にどう見られてるか気付かないと、成功体験を積んでも再現能力が下がってしまうと。自分のことを分かってないのに他人は分かっている場合がほとんどだそうです。コーチングの技術はスポーツ界でもIT業界でも取り入れられています。

矢野:ほんとにいいと思います。僕はたまたま野球をやっててチームをまとめる立場にいるけど、違うところに行ってもチームをまとめる仕組みは一緒だと思います。

金島:そこに気付いたのは引退してからですか?

矢野:そうですね。知ってることだけで教えるのは限界があると思ったんです。体の特徴も考え方も違うし、いろんな打ち方してるのに、これしか正解がないということはない。そういうのは辞めてからもっと勉強したいと思って、やってました。

金島:打撃、守備、走塁、いろいろなコーチがいますが、ある程度コーチングして任せていくんですか?

矢野:コーチングまではできてないですけど、2軍で一緒に1年間やったコーチ陣なんで、監督のやりたいことは分かってもらってると思います。コーチ陣もチャレンジして失敗しても咎めることはありません。

金島:そういう指導者は少ないイメージです。私も高校まで野球をやってましたが、トップダウンのイメージしかないですから。

矢野:実績がある人は実績でできますけど、僕は実績がある訳じゃないんで、勉強しないと指導できない自覚はあります。


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〜 阪神・矢野監督×SPAIA③「シーズン開幕へ良いイメージしかない」に続く