5月下旬まで打率1割台だった昨季の本塁打王
実質、2年目のジンクスと表現して間違いないではないだろう。プロ入り7年目の31歳。昨季、6年目にして打率.301、32本塁打、83打点と大ブレークしたオリックス・杉本裕太郎外野手は、開幕直後から不振に苦しんできた。
交流戦直前の5月下旬まで打率は1割台に低迷。普通なら二軍調整となってもおかしくはなかった。4月の月間打率は60打数8安打で.133。持ち味のパワーもバットに当たらなければ発揮できず、本塁打も1本という状況だった。
それでも昨季、杉本を抜擢した中嶋聡監督は我慢強く起用し続けた。プレーヤーの立場からすれば、ゲームから外してくれた方が楽だったかもしれない。ただ、あえて試合に出し続けたのは、杉本をチーム浮沈のキーマンと考えているからだろう。
流れが変わるきっかけは交流戦にあった。杉本は5月24日から6月12日の3週間で開催された全18試合に出場。69打数27安打、打率3割9分1厘をマーク。この結果、交流戦の首位打者となり何とか感覚を取り戻した。
電話越しの切実な声「助けてください」
不振だった期間、杉本は“師匠”に助けを求めた。その人物とは昨季の大ブレークのきっかけを作ってくれた恩人・根鈴雄次氏(48)だ。同氏は元MLBエクスポズ傘下3Aオタワなどで活躍したバットマン。ラオウにアッパー気味の独特のスイング軌道を伝授した打撃理論の第一人者だ。
杉本は根鈴氏の携帯電話を鳴らし切実な思いをぶつけた。「打球に角度をつけるには、どうすればいいんでしょうか。本当に助けてください」。藁にもすがる思いだったはず。悩めば悩むほど泥沼にはまり込む。本来の力を発揮できず、精神的に押しつぶされそうな状態だったに違いない。
そんな杉本に根鈴氏が説いたのは初心に帰ることだった。平常心でイメージ通りにスイングすることができれば結果は出る。それは昨年の本塁打王という事実が証明している。だが、プロの世界は紙一重。少しでも弱みを見せれば、隙を突かれてドツボにハマってしまう。
根鈴氏は「大学、社会人を経てプロ6年目の30歳だった昨季は、ただ必死だったと思います。今季ダメなら最後だというくらいの気持ちで臨んだはずなんです。打球の角度とか、ホームラン云々ではなく、まずは必死に食らいついてヒット、粘って出塁という姿勢だったはずなんです。でも、今シーズンの序盤は打席内容も少し雑な印象でした」と話す。
本塁打ありきではなく、出塁、安打の積み重ね
根鈴氏自身、アメリカでルーキーリーグから3Aまで厳しいマイナー生活を経験している。チームにフィットしないと判断されれば、簡単に解雇される。昨日は隣のロッカーにいたチームメートが居なくなることは当たり前。本当の意味でのサバイバルを知っているからこそ、杉本には基本に立ち返ってほしいと願っていた。
「結果を出してしまうと、本人の中での基準が勝手に高くなってしまいます。昨年、30本のホームランを打ったから、今年もと思ってもプロは甘くないんです。ともすれば無条件で1シーズン500打席をもらえるという幻想を抱いてしまいがちですが、そんなはずはないんです。ホームランありきで打席に立つのではなく、出塁、安打を積み重ねてそこから感覚を取り戻していく。それが大事なんです」
根鈴氏の熱い思いが伝わったのか杉本は復調傾向にある。6月の打撃成績は打率.282、5本塁打、15打点、OPSは.902、得点圏打率.375と中軸として及第点の数字を残した。6月後半には22打席連続無安打も経験し、不安も残るところだが3、4月に比べれば雲泥の差だ。
オリックスは6月終了時点で36勝38敗で借金2のパ・リーグ5位。ただ、首位・ソフトバンクまでは6ゲーム差と混戦でリーグ連覇の可能性は十分に残されている。逆転での連覇のために不可欠となるのは4番・ラオウの完全復活。“2年目のカベ”を杉本がぶち破ることで、優勝戦線への準備が整うはずだ。
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