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希少価値高い「打てる捕手」 通算OPS8割以上は阿部慎之助らわずか4人

2022 3/21 06:00広尾晃
巨人の阿部慎之助
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ⒸSPAIA

チームを優勝に導いた名捕手たち

捕手というポジションは、野手の中で最も重労働だとされる。投手の球を受けて返球する動作を毎試合100回以上繰り返す。加えて、打球の処理や盗塁阻止、内外野の守備位置の指示を出すなど守備面で多くの重要な仕事をするとともに、打者として他の野手同様、打席にも立たなければならない。それだけにチームへの貢献度が高い。名捕手のいるチームは強いチームだと言ってよいだろう。

NPBで捕手としての出場試合数10傑を挙げると以下のようになる。その捕手が在籍中のチームのリーグ優勝、日本一の回数も載せている。

捕手出場試合数10傑の在籍中の優勝、日本一回数,ⒸSPAIA


1位は横浜、中日で27年にわたってマスクを被った谷繁元信。捕手としてだけでなく全選手の通算試合数でも史上1位。2位の野村は谷繁に抜かれるまで1位、ただし捕手としての先発出場数は依然として史上1位。3位の伊東勤までが、捕手として2000試合に出場している。

MLBでもイヴァン・ロドリゲス(2427試合)、カールトン・フィスク(2226試合)、ボブ・ブーン(2225試合)の3人が捕手として2000試合に出場しているが、2500試合出場を果たした捕手はいない。

10傑にランキングされた捕手全員がリーグ優勝を経験している。優秀な捕手が永年マスクを被るチームは強いことがわかる。

森昌彦は20年で16回のリーグ優勝を経験。1965年から73年は空前のV9(9年連続のリーグ優勝、日本一)を経験している。伊東勤は西武の正捕手として14回のリーグ優勝と8回の日本一を経験。このうち86年から94年までは森昌彦(監督就任後は森祗晶)が監督だった。21世紀以降では2001年に巨人に入団した阿部慎之助が8回優勝を経験。このうち日本一は3回だ。

野村克也は南海のテスト生から正捕手の座を獲得し、鶴岡一人監督時代に5回、自身がプレイングマネージャー時代に1回リーグ優勝をしている(※1955年は一軍の試合に出ていないので、この年の南海のリーグ優勝はカウントしていない)。その野村克也を恩師と仰ぐ古田敦也はヤクルトで5回リーグ優勝を経験、このうち4回は野村監督時代のもの。谷繁元信は横浜時代に1回、移籍した中日で3回リーグ優勝を経験している。

希少価値の高い「打てる捕手」

捕手は守備の要であり、投手の投球内容を大きく左右する存在なので、多少打撃が悪くても、それに目をつぶって起用する傾向がある。だが、打撃も良い捕手は、打線に穴が開かないだけでなく、打撃面でもチームリーダーになることが多い「鬼に金棒」的な存在だ。

前述の試合出場の多い捕手も好打者が多いが、1000試合以上マスクを被った打者のOPS(出塁率+長打率、打撃の総合指標)上位10傑を作ると下表のようになる。

捕手で1000試合以上出場した選手のOPS10傑,ⒸSPAIA


OPSは8割あれば強打者とされる。史上2位の657本塁打を打ち、三冠王1度の野村克也が1位、そして巨人では王貞治(868本)、長嶋茂雄(444本)に次ぐ史上3位の本塁打数を誇る阿部慎之助、ダイエー・ソフトバンク、MLBのマリナーズ、阪神で強打の捕手として活躍した城島健司、さらには首位打者も獲得した古田敦也、ここまでがOPS8割以上だ。8割以下の面々を見ても、打率はそれほど高くないが、一発の長打力を持った捕手が並ぶ。

こうしてみると「打てる捕手」の有用性がわかる。ただし、捕手に限っては「多少の守備のまずさには目をつむり、打撃に期待して起用し続ける」ということはあまりない。打撃で貢献できても、守備面で足を引っ張る捕手はチームではマイナスなのだ。

阪神の田淵幸一は王貞治との本塁打争いに勝って本塁打王に輝いた屈指の長距離打者だったが、捕手としての能力は次第に衰えたため、捕手での出場が減り、西武に移籍後は一塁手、DH専門になっている。通算OPSは.896にもなるが捕手としては944試合の出場にとどまった。

2000安打を打った打者でも、衣笠祥雄、小笠原道大、松原誠、和田一浩と捕手から他のポジションにコンバートされた選手がいる。現役でも、若き侍ジャパンの4番打者・村上宗隆、3割の常連、近藤健介などが捕手からの転向組だ。

現役では西武の森友哉が代表的な「打てる捕手」だ。首位打者1回、3割2回、MVP1回。彼も打撃を活かすために外野にコンバートされた時期があるが、辻発彦監督が捕手に戻した。森の場合、打撃ではなく「守備が進化した」ことで、正捕手の座を得たと言えるだろう。

一方「捕手か、他の野手か」の岐路に立っているのが、昨年セの打率2位になった広島の坂倉将吾だ。守備面に問題がないのなら捕手で起用したいところだが、パスボールが多いなど正捕手の曾澤翼と比較してやや不安があるため、昨年は一塁でも起用され、今年のオープン戦では三塁でも試されている。今年あたりが「打てる捕手」になるか、「強打の内野手」になるかの分かれ目だろう。

今も昔も、希少価値のある「打てる捕手」、今年は誰が活躍するだろうか。

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