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オリックス山本由伸「15年にひとりの大投手」を証明する「投手五冠」

2021 12/7 11:00山田ジョーンズ
オリックスの山本由伸,ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

「記録の神様」が語る意義深い「投手五冠」

山本由伸(オリックス)が打者の三冠王にあたる「投手五冠」に輝いた。投手四冠は「最優秀勝率」「最優秀防御率」「最多勝利」「最多奪三振」。「最多完封」はNPBの正式なタイトルではないからか、「投手五冠」については扱っているスポーツメディアは意外にも少ない。

NPB・BISデータ本部初代室長で「記録の神様」と呼ばれた故・宇佐美徹也氏は、「投手四冠に最多完封を加えた投手五冠は、打者の三冠王に匹敵する」と述べている。

宇佐美氏は1984年に福間納(阪神)が、61年稲尾和久(西鉄)のシーズン最多登板78試合の記録に迫ったとき、当時の安藤統男監督に「稲尾の78試合は先発・抑えにフル回転し、42勝400イニング以上に投げたもの。ワンポイントリリーフ中心で稲尾の78試合に並ぶのはいかがなものか」という趣旨の手紙を送った。

好々爺然とした穏便な性格の宇佐美氏だが、「野球は記録のスポーツとはいえ、記録を作るためだけのプレーはよろしくない」というスタンスを貫いた人だった。84年の福間の登板は77試合で終わっている。

38勝杉浦、「怪物」江川の投球

「投手五冠」は長いプロ野球の歴史でも、沢村栄治(巨人)・スタルヒン(巨人)・藤本英雄(巨人)、杉下茂(中日)、杉浦忠(南海)、江川卓(巨人)、斉藤和巳(ソフトバンク)、そして今回の山本と、8人8度しか達成していない。2013年24勝0敗の田中将大(楽天)でも五冠ではなかったのだ。

「江夏の21球」で知られる往年の名投手・江夏豊の、「長嶋さん出現の1958年以前は投高打低、以降は打高投低。野球を分けて考えないといけない」の言葉に従って、杉浦忠以降を紹介する。

・杉浦=1959年 38勝4敗、勝率・905、336奪三振、防御率1.40、完封9。
・江川=1981年 20勝6敗、勝率・769、221奪三振、防御率2.29、完封7。
・斉藤=2006年 18勝5敗、勝率・783、205奪三振、防御率1.75、完封5。
・山本=2021年 18勝5敗、勝率・783、206奪三振、防御率1.39、完封4。

杉浦の恋女房役の野村克也は述懐した。

「あいつはアンダースローだったが、下から投げるオーバースローという感じだった。低めのボール球がホップして空振りしたバットの上を通過する。カーブは右打者がぶつかると思って尻もちをつくのを尻目に、鋭角に曲がってストライクゾーンに入ってくる。ワシのサインなんか関係ない。受けていてつまらなかった。38勝もすごいが、4つしか負けていないのがすごい」

江川は阪神にドラフト1位指名されたが、禁じられている「新人トレード」で巨人に移籍したため、当時は江川のすごさを素直に認めない雰囲気が充満していた。しかし、82年に三冠王を獲得した落合博満(ロッテ)だけは「球界で一番すごい投手? そりゃ江川でしょ」と真実を語っていた。

通算167打数48安打、打率.287、14本塁打21三振。江川のライバル・掛布雅之の評価はこうだ。

「ストレートとカーブだけで、80年から82年まで3年連続沢村賞でもおかしくない成績だった。ベンチの指示で江川は僕を一度だけ敬遠したことがある。そのときの無言の抗議のストレートの速かったこと、速かったこと。江川はとてつもない投手なんだと変なところで実感した」

前出の江夏も「あの3年間は怪物だった。オレの言う怪物とは、打者がストレートを待っている場面でストレートを投げて牛耳れる投手のことだ」。

三冠王は7人のべ11度、トリプルスリーは10人のべ12度

斉藤は190センチを超す長身からストレートとフォークを投げおろした。通算79勝23敗、勝率.775を誇り、「負けないエース」の異名を取った。

翻って山本だ。06年斉藤の成績と、21年山本の成績はほぼ同じ。ストレート、シュート、カットボール、フォークボール、スライダー、カーブの6球種を操る。そのどれもがカウント球になり、ウイニングショットにもなる。特に156キロのストレート、146キロのカットボール、同じスピードのフォークボールをミートするのは難しい。

プロ野球の解説者がよく「次は内角へのシュートでしょう」「次は外角へのスライダーでしょう」と予想する。テレビで観ているほうからすれば「プロは来た球を打てるだろうに、なぜそんなところを細かく解説するんだろう」と思う。だが、打率3割を5度マークしたことがあるプロ野球OBでも「来た球を打てるのは首位打者クラスの天才だけ。普通の3割打者ではコースと球種にヤマを張らなきゃ打てやしないよ」と正直に打ち明けてくれた。

初の本塁打王を獲得した村上宗隆(ヤクルト)は、シーズン中、「格が違う」「モノが違う」打撃をいかんなく見せつけたが、村上ほどの打者でも日本シリーズでは山本に簡単に手玉に取られた。

思えば、やはり金メダルに輝いた2019年プレミア12の投球で、野球評論家の宮本慎也や里崎智也が「プロ3年目にして山本は日本のエースです」と絶賛していた。東京五輪で米国のストッパーだったマクガフ(ヤクルト)も、「こんな投手が日本にいたら勝てないわけだ」と再認識したのではないだろうか。

三冠王は7人のべ11度、トリプルスリーは10人のべ12度なのに「投手五冠」は8人のべ8度。いずれも偉業だが、投手五冠はひとりが複数回達成できない大偉業だととらえることもできる。

「15年に一人しか出現しない大投手」山本の投球を見られる喜びを実感しながら、来季の投球を観戦してほしい。

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