オリックスとの間に感じた力の差
今年のクライマックスシリーズ(CS)は、ファーストステージもファイナルステージも初戦を勝利したチームが勝ち抜けた。
パ・リーグでは、絶対的なエース・山本由伸、主軸に首位打者の吉田正尚、本塁打王の杉本裕太郎を擁し、総合力に優れたオリックスが、ファイナルステージを勝ち上がってきたロッテを2勝1分けで退け、日本シリーズへ進出。ここぞといった場面での値千金の一発をはじめ、シーズン中から見せていた相手の隙を突く戦術も見事にハマるなど、大技・小技で力の差を見せつけた。
対して、昨季に引き続きファイナルステージに進出するも、再び1勝もできずに終わったロッテ。「短期決戦に強い」と言われたのも今は昔。善戦はするものの勝ちきれない要因は何だったのか考察する。
プレッシャーを与えられない打線
ロッテとオリックスの大きな違いの一つが、打線の“中軸の厚み”だ。ロッテには、レオネス・マーティンとブランドン・レアードといった一発を期待できる打者がいるが、彼ら以外は小粒感が否めない。
今季9本塁打をマークし、ファーストステージでも本塁打を放つなど大器の片鱗を見せた山口航輝や、シーズン序盤は多くの打点を挙げるなど活躍した安田尚憲ら将来の大砲候補はいるが、まだまだ計算できる戦力とは言いきれない。
その点でオリックスは、吉田や杉本、T-岡田を中心に、ランヘル・ラベロまたはスティーブン・モヤの外国人助っ人がいる。さらには二桁本塁打をマークした紅林弘太郎ら長打を期待できる打者が中軸から下位にかけてズラリと並び、2番の宗佑磨も9本塁打をマークした。
短期決戦で調子が上がらないまま終わる打者も多いが、駒が多ければ多いほどそのリスクは少なくて済む。また、長距離砲が多いと相手投手も長打を警戒して四球が増えるため、多くの好機を作れる。
ファイナルステージ第1戦では、先発の石川歩が初回に宗に四球。続く吉田は抑えたものの、杉本を警戒した結果四球を与え、二死一、二塁に。迎えたT-岡田に先制点および決勝点となる適時打を打たれたのは、その最たる事例だろう。強打者が続き、息をつく暇がないというプレッシャーが、投球のかたさや力みに影響したことは否めない。
なおかつ吉田と杉本は長打力に加え、打率、出塁率も高く、ケースによって打撃のスタイルを変えられる柔軟性も併せ持っており、投手にかけられるプレッシャーは大きい。結果的にロッテはリーグ1位の得点を挙げたが、その割に打線に厚みがないのがウイークポイント。外野の頭を越えるほどの長打が打てる打者が他チームに比べて少なく、相手に強いプレッシャーをかけられていなかった。
勝負どころで力を発揮できるマネジメントを
2連敗して後がなくなった3戦目、ロッテは代走・守備固め要員として起用してきた和田康士朗を2番・中堅でスタメンに抜擢。第2打席で先制点につながる二塁打を放つなど一定の存在感を見せたが、以降の打席は力なく凡退した。
今季の和田はわずか24打席でほとんどをベンチで過ごしたが、CSで先発起用するのであれば、レギュラーシーズン中にももう少し場数を踏ませておきたかった。
和田はあくまで一例であるが、シーズン中は調子やコンディションの良し悪しにかかわらず、メンバーはほぼ固定。選手層という観点から、長いシーズン中に色々な選手を試してこなかったツケが、CSのような短期決戦に回ってきたという見方もできる。
かつてロッテの指揮官を務めたボビー・バレンタイン(1995年、2004年~2009年)は、西岡剛と小坂誠を二塁と遊撃、堀幸一を二塁で起用し、3人をシャッフルして休ませながら使った(他のポジションでも選手を都度入れ替えて休ませた)。シーズン終盤の勝負どころで、温存させていた体力を発揮できるようにマネジメントしていたのだ。
今季も二塁で全試合出場(4年連続)を果たした中村奨吾はCSでいい打撃を見せていたが、勝負どころの9月の月間打率が.214と不振に陥り、チームの得点力低下の大きな要因となった。だがそうなった時、代わりを務められる選手がいない。
今年のドラフトでポスト中村と目される池田来翔(国士舘大)を獲得したが、二塁である程度の出場機会を与えるなど、チームマネジメントと育成を視野に入れた起用を考えていきたいところだ。
主力野手が不振に陥った際、同等またはそれに近い力のある選手が控えているか否かは長いシーズンでも短期決戦でも、状況を打開するためのバリエーションになり得る。また、各選手が長いシーズンでコンディションをキープしていく上でも、好ましいことだろう。
オリックスは吉田が右手の骨折で離脱した際、それまでは8番で経験を積んでいた紅林が3番に抜擢され、重要な試合で勝利に貢献する働きをした。強いチームは穴が開いても、それを埋めるための準備をしているし、そういうプレーヤーが出てくる。
一軍で戦力になるレベルの選手を増やすこと
一方の投手陣は、レギュラーシーズンでもポストシーズンでも及第点の活躍を見せたと言える。多少の波はあれど、シーズンを通じて幾度となくチームを勝利に導いた益田直也や佐々木千隼らリリーバーや、佐々木朗希や小島和哉ら若手先発投手の台頭など、来季に向けてもある程度の期待と計算ができるだろう。
問題は打撃陣だ。オリックスの吉田やソフトバンクの柳田悠岐、ヤクルトの村上宗隆、巨人の岡本和真など、絶対的な強打者が育てばそれに越したことはない。だが、それよりも重要なことは「絶対的な打者がいなくても一軍で戦力になるレベルの選手を数多く揃えていること」だ。
使える駒が増えれば攻撃のバリエーションは増え、コンディションのいい選手をタイムリーに起用することができ、個々の状態の浮き沈みはあっても、チームとしていい状態をキープできる。そのために必要なのがシーズン中のチームマネジメントだ。
和田、小川龍成、三木亮のように代走や守備固めに終始した選手、安田や藤原恭大のように好調の波が短期間で終わった選手を長いシーズンでどのように運用していくのか。もちろん役割を明確にし、スペシャリストとして起用する効果も当然あるが、ただ走れる、ただ守れるだけの選手は怖くなく、選手層も薄いままになる。未熟な点や好不調の波が大きいことは覚悟しつつ、時には我慢して起用し続けることも求められる。
近年ソフトバンクが短期決戦で無類の強さを見せている要因は、紛れもなく選手層の厚さゆえの攻守でのバリエーションの多さだ。選手層が薄ければ戦術のバリエーションも限られるため、行き詰まった時に状況を打開しにくい。マーティンやレアードが離脱すると得点力が一気にダウンするといった状況を避けるためにも、荻野貴司や中村の代わりを務められる野手の育成は必要だ。
先制点を挙げるも、その後に追加点を奪えずに試合を優位に進められないまま、最後にリリーバーが打たれる。このような展開はシーズンでもCSでも度々見られた。だが、点差に余裕がなければ投げていて苦しくなるのは当然だ。どの選手が出ても遜色のない得点力をキープできること、そのためのチームマネジメント、育成、既存戦力の底上げは喫緊の課題だ。
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