初対決は佐々木朗希に軍配
2021年10月14日は壮大な物語の幕開けだったのかも知れない。
ロッテ・佐々木朗希とオリックス・宮城大弥。2001年生まれの2人のホープが初めて同じマウンドに上がった。
結果は6回無失点の佐々木が5回5失点の宮城に投げ勝ち、チームの優勝マジックを点灯させた。ストレートの最速は158キロを記録した。
試合後、佐々木は「チームとしても個人としても負けられなかったので、本当に今日は良かったなと思います」と話した。どちらが勝ってもマジックのつく可能性のあった試合。チームに勝利をもたらすのはもちろんだが、同学年の宮城に投げ負ける訳にはいかなかった。
大船渡高時代に163キロをマークし、一躍「時の人」となった。ついた異名は「令和の怪物」。しかし、日本中の注目を集めた3年夏の岩手大会決勝は登板せずに敗れ、甲子園には行けなかった。
高校日本代表でチームメイト
一方の宮城は興南高時代、1年夏と2年夏に甲子園出場。1年夏は1回戦で智弁和歌山に、2年夏は初戦突破したものの2回戦で木更津総合に敗れた。3年夏は沖縄大会決勝で沖縄尚学に敗退。好投手として評価は高かったが、甲子園を沸かせた星稜高・奥川恭伸(現ヤクルト)、創志学園高・西純矢(現阪神)らに比べると、全国的に目立つ存在ではなかった。
夏の甲子園終了後にはU-18ベースボールワールドカップに出場する高校日本代表として、佐々木と宮城は同じユニフォームを着た。奥川や西、後のドラフトで宮城と同じオリックスに指名される津田学園・前佑囲斗も一緒だった。
オープニングラウンドは4勝1敗で勝ち上がったものの、スーパーラウンドで敗退。頂点には届かなかったが、沖縄出身で朗らかな宮城と東北出身で朴訥な佐々木は馬が合ったという。
秋のドラフト。佐々木には4球団競合の末、ロッテが当たりくじを引いた。宮城は東邦高・石川昂弥(現中日)とJFE西日本・河野竜生(現日本ハム)を外したオリックスが外れ外れ1位で指名した。
プロ入り後は宮城が先にブレイク
しかし、プロ入り後に立場は逆転する。ロッテは線の細い佐々木を大切に育てようと、1年目は一軍に帯同させながら体作りに専念させ、実戦のマウンドには上げなかった。
一方の宮城はウエスタン・リーグで13試合に登板し、リーグ最多の6勝をマーク。10月には一軍デビューし、11月6日の日本ハム戦でプロ初勝利を挙げた。
そして今年の大ブレイク。開幕から白星を積み重ね、8月には両リーグ10勝一番乗り。人懐っこい笑顔とチームの好調さも相まって一気に同世代の出世頭となった。
佐々木も今年5月に一軍初登板を果たし、登板間隔を空けながら3つの白星を積み上げてきた。とはいえ、10月14日の試合前の時点で9試合登板、3勝2敗。宮城は21試合登板で12勝3敗だった。
表情からは感情の起伏が少ないように見える佐々木も、内心穏やかではなかっただろう。置いてけぼりと感じたとしても不思議ではないし、逆に何も感じなければプロとして失格だ。
セ・リーグの同世代も活躍
今回の登板は明暗がくっきりと分かれたが、10試合目の登板だった佐々木と今シーズンをフルに戦ってきた宮城では疲労度が違う。失点の差が実力差という訳では決してない。
今季は奥川恭伸も成長の跡を見せており、ヤクルトの優勝争いに貢献している。横浜高時代に佐々木、奥川、西とともに「BIG4」と呼ばれた阪神・及川雅貴も一軍で活躍している。同期生の活躍は2人にとっても刺激になるだろう。ただ、リーグが違うため、移籍しない限り投げ合う機会はそう多くない。
佐々木と宮城が同じパ・リーグの球団に所属し、同じ年に優勝を洗っているのも偶然ではなく、運命な気がしてならない。14日の初対決は将棋で言えば、佐々木が初手で「歩」を動かしただけだ。
これから何度となく、見たことのないような一手で両雄は我々を驚かせてくれるだろう。パ・リーグの新たなライバル物語が幕を開けた。投了まで存分に楽しみたい。
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