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「マダックス」は技巧派投手の勲章、さらに難易度高い「100球未満の完投」

2021 10/16 06:00広尾晃
ヤクルトの石川雅規,ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

山本昌はマダックスのノーヒットノーラン達成

阪神の高橋遥人が10月2日の中日戦で2試合連続の完封勝利を記録した。投球数は97だった。

100球未満で完封することを「マダックス」という。1986年から2008年までカブス、ブレーブスなどで投げて、通算355勝した大投手グレッグ・マダックスがこれを得意にしていたからだ。

9回を投げて100球未満とは、1イニング当たり平均11球以内で投げるということだ。今季のNPBの先発投手のイニング当たりの平均投球数は16.5、投手コーチは「15球以下で投げることができれば優秀」と言う。これを見ても平均11球は極めて難しい記録だと言える。

2002年以降のNPB20シーズンで「マダックス」は35回出ている。同時期にノーヒットノーランは13回だから、それには及ばないが、レアな記録だと言えよう。

この期間で、最も少ない投球数は2002年4月10日、日本ハムのカルロス・ミラバルがロッテ戦で記録した80球。この試合、ミラバルは8回までパーフェクトだったが、9回先頭の吉鶴憲治に安打を打たれて大記録はなくなったものの後続3人を凡退させ「準完全」を記録した。28人の打者に対し1被安打5奪三振、自責点0。80球での完投は1977年7月2日、阪神の江本孟紀がヤクルト戦に記録して以来だった。

また2011年9月8日の中日戦で巨人の澤村拓一は、10回を96球で投げている。ただこの試合は延長12回0-0で引き分け。澤村は11回から久保裕也に救援を仰いだため「マダックス」にはなっていない。

ここ20年の「マダックス」の中で、ノーヒットノーランは中日の山本昌だけ。2006年9月16日の阪神戦で97球を投げ、無安打、無四球1失策の「準完全」を記録した。

マダックスで2桁奪三振は新垣渚のみ

「マダックス」を達成するにはいくつか条件がある。

まず制球力が良いこと。無駄球が多い投手は球数が嵩むため難しくなる。当然ながら与四球が少ない方が良い。被安打が多いと対戦打者数が増えるので達成は難しくなる。

しかし同時に奪三振が多すぎる投手も「マダックス」は難しくなる。三振は最低でも3球を要する。27個のアウトをすべて3球三振で切って取るとしてもそれだけで81球になってしまう。三振は投手の勲章ではあるが「マダックス」を達成するには良くないアウトの取り方なのだ。

ちなみにここ20年、35回の「マダックス」のうち、二桁奪三振は2006年5月9日の広島との交流戦を96球で完封したソフトバンクの新垣渚だけ。この試合で12奪三振を記録した。それ以外の投手はすべて一桁奪三振だった。

また「マダックス」を2回記録したのは中日の平井正史(2003年9月9日広島戦93球、同年9月30日広島戦91球)、木佐貫洋(オリックス時代の2012年4月8日楽天戦95球、日本ハム時代の2013年6月13日阪神戦91球)の2人だ。

マダックス以上にマダックスを記録したのは?

「マダックス」は2017年4月14日に当時オリックスの金子千尋がソフトバンク戦で92球で記録して以来出ていなかった。 しかし今季は、ここまで4回も記録され、思わぬ「マダックスラッシュ」になっている。

2021年NPBで記録されたマダックス


いずれも本格派の先発投手だ。被安打、奪三振、与四死球共に少ない。楽天の早川隆久は新人で記録している。なお山本由伸は0-0の引き分けだったため勝ち星はついていない。

「マダックス」の名前の由来になったグレッグ・マダックスはカブス時代の1990年4月29日、ドジャース戦で96球での完封を記録したのを皮切りに、通算13回記録している。

このうち6回が30代になってからだった。31歳の1997年7月2日には、当時ブレーブスのマダックスはインターリーグのヤンキース戦で自己最少の84球で完封している。

速球は140㎞/h台前半だが、高速シンカー、サークルチェンジ、カットボールなどすべての球種でストライクが取れて、打者を意のままに切って取ったマダックスは「史上最高の技巧派投手」と言ってよい。マダックスは通算35完封しているがその37%の13完封が「マダックス」だった。

ただ「マダックス」のMLB記録保持者がグレッグ・マダックスその人なのかどうかはわからない。MLBで投手の投球数をしっかり記録するようになったのは1980年代半ばからであり、それ以前の投球数は不明な部分があるのだ。

20世紀以降のMLBでの通算最多完封記録は、記録サイトBaseball Referenceによればウォルター・ジョンソン(1907~1927)の110だが、恐らくその中には相当数の「マダックス」が含まれていたと思われる。

同様にNPBでも昭和の時代の投球数ははっきりしない部分がある。NPBの最多完封記録(NPBの場合完封勝利)は、ビクトル・スタルヒン(1936-1955)の83、続いて金田正一(1950-1969)の82だが、この中にもかなりの数の「マダックス」が含まれていたはずだ。

ロッテ・石川歩は97球で2失点完投

ところで10月13日に「マダックス」よりもさらに難易度が高い記録が生まれた。

京セラドーム大阪で行われたオリックスとロッテの首位攻防第2戦で、ロッテの先発・石川歩は9回2死まで92球で抑えていたが、オリックスの3番・紅林弘太郎に2球目を安打される。続く4番・杉本裕太郎の2球目に右越え2ランを被弾。しかし5番スティーブン・モヤを1球で一飛に仕留め、97球で2失点完投勝利を記録した。

少ない球数で投げることを考えれば、失点しない方が有利だ。失点した上で完投して100球未満で投げるのは「マダックス」よりも難しいと言えよう。

石川の「100球未満完投」は、2019年5月22日、広島の大瀬良大地が中日戦で99球、自責点1で勝って以来の記録。2002年以降の20年でも「マダックス」より少ない29回目というレアな記録だった。

ヤクルト・石川雅規は当代一の技巧派

ヤクルトの石川雅規は2007年9月28日の広島戦で「マダックス」を記録、「100球未満完投」は3回記録している。

石川雅規のマダックスと100球未満完投


41歳になる石川は現役最多の177勝を記録しているが、同時に当代一の「技巧派投手」だと言えよう。

投手の分業が進む中で、MLB、NPBともに投手の完投数、完封数は減少している。「マダックス」は、今後もレアな記録であり続けるだろう。

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