今季5勝と不調のエース菅野
巨人・菅野智之が11日に海外FA権を取得した。菅野は昨オフにポスティングシステムを申請。メジャー移籍を目指して自ら渡米したが、新型コロナウイルスの影響などもあってポスティングは不成立となり、巨人に残留した。
順調に登録日数を消化できれば海外FA権を取得できることが分かっていた今季はしかし、14勝2敗で最多勝と最高勝率の2冠に輝いた昨季とは別人のように苦しんだ。3月30日、5月8日、6月16日、7月2日と4度も登録抹消。侍ジャパンにも選出されていたが、東京五輪は辞退し、体のメンテナンスを施しながら長期離脱はせずにプレーしてきた。
ここまで17試合に登板して5勝7敗、防御率3.30とエースとしては物足りない成績に終わっている。
今年の投球をメジャー各球団がどう評価するかだが、これまでの実績を考えれば評価が暴落することはないだろう。プロ9年間で通算106勝56敗、防御率2.39。平均147.4キロのストレートと変化球もスライダー、カットボール、フォーク、シュート、カーブを操る。球威だけではメジャーの強打者にかなわなくても、投球術も含めて結果を出してきた実績は色褪せるものではない。
意外に多いメジャー移籍前年に成績を落としていた投手
主な日本人投手がメジャー移籍前年の日本での成績とMLB移籍1年目の成績を比較したのが下の表だ。
いずれも球史に名を残す名投手ばかりだが、移籍前年は成績を落としていた投手が意外に多い。「トルネード投法」でプロ入り1年目から18勝、17勝、18勝、17勝と4年間で計70勝を挙げていた野茂英雄は、5年目の1994年は8勝7敗だった。それでも海を渡り、ドジャース移籍1年目は13勝をマーク。これまで日本人最多のメジャー通算123勝を挙げている。
斎藤隆は横浜時代、35歳だった2005年に3勝4敗だったが、オフにメジャー挑戦を直訴して自由契約となり、ドジャースに移籍。MLB1年目にいきなり6勝2敗24セーブをマークした。
ルーキーイヤーに20勝を挙げた上原浩治も巨人時代のラストイヤーは6勝5敗1セーブ5ホールド。オリオールズ1年目の2009年は2勝4敗だったが、その後クローザーとしてワールドシリーズで優勝するなど実績を残した。
2008年に21勝を挙げた楽天・岩隈久志は6勝どまりだった2011年オフにFA宣言。マリナーズ1年目の翌2012年に9勝を挙げ、その後MLB通算63勝をマークした。
今をときめく大谷翔平も、日本ハム5年目はケガもあって5試合登板で3勝2敗。打者としても8本塁打どまりだった。2018年のエンゼルス移籍後の活躍は説明の必要もないだろう。
NPB→MLBで2年連続2桁勝利は6人だけ
逆に日本でピークとも言える活躍をした年にメジャー移籍した選手は、渡米後に苦戦する例も少なくない。阪神・井川慶は2003年に20勝して優勝に貢献。2006年も14勝を挙げてポスティングでヤンキース入りしたが、MLBではわずか2勝だった。
最近では西武・菊池雄星も14勝を挙げた2018年にポスティングでマリナーズに移籍したものの、メジャー1年目は6勝11敗。巨人・山口俊は15勝4敗で最多勝、最高勝率、最多奪三振の3冠に輝いた2019年にポスティングでブルージェイズ入りしたが、メジャーでは2勝に終わり、今年6月に巨人復帰している。
移籍前年に日本で2桁勝利を挙げ、メジャー1年目にも2桁勝利をマークした投手は石井一久、松坂大輔、高橋尚成、ダルビッシュ有、田中将大、前田健太の6人のみ。中でも移籍前年より白星を増やしたのは石井(2002年=14勝)と前田(2016年=16勝)だけだ。
日本球界を代表するような投手でも簡単には活躍できないメジャーリーグ。身体能力だけでなく、ボールやマウンドの違いに適応する必要もある。故障に苦しむ例も多い。
ピークで渡米したからと言って、まさか油断はないだろうが、日本で成績を落としている方が相当な覚悟を持って背水の陣で臨める分、好成績につながっているのかも知れない。
もちろん、日本で調子を落とすことによってメジャーからの評価が落ちたり、契約年数や年俸に影響するマイナス面もあるだろう。ただ、ポスティングと違ってFAは本人の意思。挑戦するのも、自重するのも自由だ。
菅野は32歳と決して若くない。少なくとも成績低迷を理由にメジャー挑戦を断念、もしくはもう1年延期する必要はないだろう。まだ意思を明確にしていないが、オフの決断が注目される。
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