東京五輪前までに20本塁打もまさかの大スランプ
振り返っても入り口は、もう見えない。それほど長く暗い“トンネル”だった。
阪神タイガースの佐藤輝明が、5日のDeNA戦で60打席ぶりの安打を放った。初回、2点を先制してなお2死一、二塁の好機で迎えた第1打席。左腕・坂本裕哉のカットボールを引っ張った打球は一塁手のわずか左を抜けて右前へ。
1軍では8月21日の中日戦の第4打席にセンターへ放って以来の快音。塁上では自分以上に喜ぶチームメートに向かってガッツポーズした背番号8は「必死だったんですごくうれしい。みんな待ってくれていたんで。やっと出せてよかったです」と安堵すると同時に「いろいろ意地だったり、長いシーズンでプロ野球は難しいなとすごく思いました」と44日間も立ちはだかってきた“プロの壁”について口にした。
ぶつかることはあっても、ここまで険しい壁になるとは思っていなかった。春から「怪物ルーキー」を地で行く活躍でアーチを量産。ただの一発ではなく、1試合3発、初の4番起用でのグランドスラムなど「インパクト」も加わり、球団の新人記録を次々に塗り替えていった。打率・267、20本塁打、57打点で五輪ブレークに入った佐藤輝の新人王は揺るがぬものであるはずだった。
急浮上してきたハマの怪物・牧秀悟
しかし、大本命の長い“沈黙”が近年稀に見るハイレベルな争いへ戦況を一変させた。同期の苦闘をよそに疾走を止めなかったのはドラフト6位ルーキーの中野拓夢。遊撃のレギュラーをあっさり奪い去ると、糸原健斗の離脱で抜てきされた2番にも定着し、シーズン規定打席、100安打もクリアした。
俊足も大きな武器で26盗塁(11日現在)は、昨年まで2年連続で盗塁王を獲得している2位の近本光司に3個差をつける。記憶に残る数々の好守とともに、タイトル獲得となれば佐藤輝をしのぐ票を集める可能性も十分にある。
ただ、「本命」は阪神勢とも言えない情勢になってきている。野手ではベイスターズの牧秀悟が打率、安打数、打点で佐藤を上回り、本塁打も2本差で追う21本。2軍降格は1度もなく、シーズン通して活躍しているという点では中野と双へきと言える。
12球団屈指のクローザー栗林良吏と精密機械・奥川恭伸
また、投手陣では広島の栗林良吏がクローザーとして出色のスタッツをマーク。プロ野球史上3人目となるルーキーでの30セーブをクリアし防御率は脅威の0点台だ。
11日時点で失点したのはわずか2試合で、被本塁打も0と新人というカテゴリーを取り払い12球団屈指の守護神にまで登り詰めている。他にもヤクルトの高卒2年目・奥川恭伸は規定投球回にこそ到達していないが、9勝を挙げ与四球率は0.82とリーグ最高レベルの制球力で首位のチームに貢献している。
阪神では伊藤将司も4月からローテーションを守り、8勝を積み上げている。ヤクルト、阪神は熾烈な優勝争いを繰り広げているだけに頂点に立ったチームのルーキーが新人王レースでも“追い風”を受けることがあるかもしれない。いずれにしても、新人離れした“1年生”たちによる1つのイスを巡る戦いもペナントレース同様、最後の1試合まで見逃せない。
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