佐藤が兵庫県予選で涙を吞んだ5年前の夏
開幕から新人離れした活躍を続けている阪神・佐藤輝明。近畿大時代に二岡智宏(元巨人)が持っていた関西学生リーグ記録を更新する14本塁打をマークし、昨年ドラフトで4球団競合したのは周知の通りだ。
しかし、高校時代は無名だったため、当時について語られることも少ない。それもそのはず、兵庫県西宮市にある私立校・仁川学院の3年生だった2016年、最後の夏は県予選で初戦敗退だったのだ。
甲子園では作新学院がエース今井達也の力投で全国制覇。注目選手が多く、甲子園が連日満員の観衆で膨れ上がった5年前の夏を振り返り、その後の足跡を辿る。
仁川学院は明石清水に5回コールド負け
2016年7月12日、明石トーカロ球場。後にタテジマのユニフォームを着て甲子園で大暴れする17歳の佐藤は、仁川学院の4番として第99回全国高校野球選手権兵庫大会の初戦に臨んだ。
初戦の相手は明石清水。ともに甲子園出場経験のない無名校同士だ。当事者以外にとっては、熱心なファンでもさほど注目しない、1回戦の数ある試合のうちの1試合にすぎなかった。
2年生だった前年の2015年夏は兵庫県大会4回戦(ベスト32)まで勝ち上がった仁川学院。佐藤にとっては最後の夏だけに期するものがあっただろう。
しかし、初回に明石清水に2点を許すと、2回、3回に4点ずつ、4回にも1点を失う。佐藤は3打数2安打と4番の意地を見せたものの、仁川学院は1点を返すのがやっとだった。
1-11で5回コールド負け。佐藤の最後の夏はあっけなく終わった。
甲子園では「BIG4」が活躍
仁川学院に勝った明石清水は2回戦で兵庫商に敗退。その後、激戦区・兵庫を勝ち上がったのは市立尼崎だった。決勝で同年春のセンバツでベスト8入りした明石商を3-2で破り、ヤクルトで「ブンブン丸」と呼ばれた池山隆寛を擁して出場した1983年以来、実に33年ぶり2度目の甲子園を決めた。
2016年夏は全国からハイレベルの高校が甲子園に集結した。すでに全国区のスターだった早稲田実の2年生・清宮幸太郎は、西東京大会準々決勝で八王子に敗れたが、「BIG3」と呼ばれた履正社・寺島成輝(現ヤクルト)、横浜・藤平尚真(現楽天)、花咲徳栄・高橋昂也(現広島)ら好投手が目白押し。優勝した作新学院・今井達也も含めて、秋のドラフト時には「BIG4」と呼ばれた。
その作新学院に準々決勝で敗れた木更津総合のエースが、現在楽天で大活躍中のルーキー・早川隆久だった。また、準優勝した北海の右腕・大西健斗も端正なルックスも手伝って大ブレイク。他にもベスト4入りした秀岳館の九鬼隆平(現ソフトバンク)や2回戦の八戸学院光星戦で大逆転劇を演じた東邦・藤嶋健人(現中日)、広島新庄の左腕・堀瑞輝(日本ハム)ら印象に残る選手が多かった。
令和版「BIG3」は山本由伸、佐藤輝明、早川隆久
あれから5年。直接プロ入りした選手もいれば、大学を経てプロの門を叩いた選手もいる。それぞれの野球人生を歩み、状況は大きく変わった。
高校時代に「BIG3」と呼ばれた寺島、藤平、高橋の3人はプロでいまひとつ素質を伸ばし切れていない。1998年度(1998年4月から1999年3月)生まれの世代で令和版「BIG3」を挙げるなら、都城高時代は甲子園に出場できなかったオリックス・山本由伸、そして佐藤、早川の3人だろう。
たった5年前、人知れず涙を呑んだ佐藤は、今や世代のトップランナーの一人に急成長を遂げた。他にも埋もれているスター候補が今後出現するかも知れない。これからの日本球界を担っていくであろう「黄金世代」を注視していきたい。
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