ベンチから外れた春にパワーアップ
大阪桐蔭の世代ナンバーワン投手、前田悠伍(3年)が最後の夏へ、ラストスパートをかけている。
「去年の夏の甲子園で悔しい負け方をして、そこから新チームが始まって。最後、自分たちの代の夏っていうところで正直、本当に1年経つのは早いなと思っています。悔いのないようにやりきるというか、力を出し切って、いい結果を出したいです」
苦しい1年間だった。昨秋、新チームになって以来、コンディションがなかなか整わなかった。今年春の甲子園では貫禄の投球を見せる一方で、準決勝の報徳学園戦は終盤に勝ち越し点を許して、ベスト4で敗退した。明らかに精彩を欠いていた。
「センバツでなかなかいい結果が出ずに悩みました。まだまだ、自分の力不足を感じました。もっともっとトレーニング、フォームとか、全て一から見直さないといけない、と。それがいい方向にいけばいいなと思っています」
甲子園の直後に開催されたU18日本代表候補合宿で紅白戦に登板したが、それ以来、前田は実戦から離れた。春季は大阪、近畿大会ともベンチから外れた。主将を笹井知哉内野手(3年)に譲ると、試合には同行せず、練習でもリーダー役を降りた。
プロの主力選手がシーズン中に再調整を行う「ミニキャンプ」のようなイメージか。西谷浩一監督(53)は「前田は下級生の時から十分に経験を積んできた。それなら、春はほかの選手にしっかり経験をさせようと思った」と説明する。コンディションを万全に戻しながら、さらにパワーアップを目指す期間になった。
「ジャパン合宿の時に、筋肉の付き方が劣っているなと思いました。仙台育英の高橋(煌稀)や享栄の東松(快征)ら投手陣はみんな下半身がごっつくて、体がしっかりしていた。僕は全然、細かった。まだまだだなと。追い越したかった」
この合宿で、前田はダントツで注目される立場だったにも関わらず、自らの足りない部分を謙虚に受け止めた。同学年のライバルたちからトレーニング方法を聞き込んだ。春季大会を欠場している間、走り込みと並行してウエートトレーニングを飛躍的に増やした。体重はセンバツから4キロ増。制服がきつくなるほど、太ももはたくましさを増した。
6月中旬の東京遠征で、センバツ以来の実戦マウンドに立ち、そこから少しずつ実戦を重ねている。「そんなに力を入れなくても球がいくようになった」と成長を実感する日々だ。