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大阪桐蔭・前田悠伍、センバツから体重4キロ増で挑む「進化の夏」

2023 7/7 06:00柏原誠
大阪桐蔭の前田悠伍,ⒸSPAIA(撮影・柏原誠)
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ⒸSPAIA(撮影・柏原誠)

ベンチから外れた春にパワーアップ

大阪桐蔭の世代ナンバーワン投手、前田悠伍(3年)が最後の夏へ、ラストスパートをかけている。

「去年の夏の甲子園で悔しい負け方をして、そこから新チームが始まって。最後、自分たちの代の夏っていうところで正直、本当に1年経つのは早いなと思っています。悔いのないようにやりきるというか、力を出し切って、いい結果を出したいです」

苦しい1年間だった。昨秋、新チームになって以来、コンディションがなかなか整わなかった。今年春の甲子園では貫禄の投球を見せる一方で、準決勝の報徳学園戦は終盤に勝ち越し点を許して、ベスト4で敗退した。明らかに精彩を欠いていた。

「センバツでなかなかいい結果が出ずに悩みました。まだまだ、自分の力不足を感じました。もっともっとトレーニング、フォームとか、全て一から見直さないといけない、と。それがいい方向にいけばいいなと思っています」

甲子園の直後に開催されたU18日本代表候補合宿で紅白戦に登板したが、それ以来、前田は実戦から離れた。春季は大阪、近畿大会ともベンチから外れた。主将を笹井知哉内野手(3年)に譲ると、試合には同行せず、練習でもリーダー役を降りた。

プロの主力選手がシーズン中に再調整を行う「ミニキャンプ」のようなイメージか。西谷浩一監督(53)は「前田は下級生の時から十分に経験を積んできた。それなら、春はほかの選手にしっかり経験をさせようと思った」と説明する。コンディションを万全に戻しながら、さらにパワーアップを目指す期間になった。

「ジャパン合宿の時に、筋肉の付き方が劣っているなと思いました。仙台育英の高橋(煌稀)や享栄の東松(快征)ら投手陣はみんな下半身がごっつくて、体がしっかりしていた。僕は全然、細かった。まだまだだなと。追い越したかった」

この合宿で、前田はダントツで注目される立場だったにも関わらず、自らの足りない部分を謙虚に受け止めた。同学年のライバルたちからトレーニング方法を聞き込んだ。春季大会を欠場している間、走り込みと並行してウエートトレーニングを飛躍的に増やした。体重はセンバツから4キロ増。制服がきつくなるほど、太ももはたくましさを増した。

6月中旬の東京遠征で、センバツ以来の実戦マウンドに立ち、そこから少しずつ実戦を重ねている。「そんなに力を入れなくても球がいくようになった」と成長を実感する日々だ。

プロでも武器になるチェンジアップ

7月上旬のデータ計測から「総仕上げ」の段階に入った。ネクストベース社のアナリストが、測定分析機器のラプソードを設置。主力投手から詳細なデータを取り、本人やコーチにフィードバックする。

前田は得意のチェンジアップが「プロの投手に交じっても武器になる球。(右打者の外角に)大きく逃げていく軌道が特長的。直球に対しての変化もバランスがよく、制球も含めて、現時点では文句のつけようがない」と絶賛された。

体をやや横にひねり、腕の角度もスリークオーター気味に下げるフォーム。一般的には直球がシュートしがちだが、シュート成分がありながらそのまま伸びていく軌道で、これもまた理想に近いと評された。1年秋から見せてきた圧倒的なボールの「正体」がデータで証明されたわけだ。

実はこの時期に行う計測で、歴代の先輩たちも最後の「ひと伸び」に成功してきた。春夏連覇した18年から始まったが、21年の松浦慶斗(日本ハム)はリリースの悪癖に気付かされ、安定してスピードが出るように変わった。昨年の別所孝亮(慶大)も同様。データと体の使い方に興味を持ち、引退後も成長を続けた。

前田へのフィードバックの内容は伏せられているが、クレバーで貪欲なエース左腕のこと。もう1段階上にいくための重要なヒントをつかんでいるはずだ。

「もう不安はなくて、いい感じに合わせられているかなと思います。7月の最後の方、大阪の一番しんどい時期に合わせて、マックスをもっていきます」と話す前田の表情はどこか吹っ切れたものを感じさせた。初戦は16日に寝屋川―早稲田摂陵の勝者と対戦予定。本領発揮の夏にする可能性は十分ありそうだ。

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