関メディベースボール学院中等部の安芸キャンプに帯同
新型コロナがなければ、東京オリンピックや全米オープンゴルフの撮影をしているはずだった時期。あらゆる予定がキャンセルとなったが、8月中旬の1週間、ご縁があって関メディベースボール学院中等部(兵庫県西宮市)のキャンプに帯同した。
MLBオフィシャルカメラマンとしてイチローの引退試合を撮影したり、リオデジャネイロ五輪やロシアワールドカップなども撮影してきたが、中学野球のキャンプは初めて。驚いたのは、関メディの中学生たちが阪神タイガースの2軍キャンプ地としてお馴染みの高知県の安芸市営球場のメイン、サブ、室内練習場を使ってキャンプをすることだ。
それだけではなく、宿泊するホテルも阪神タイガースの選手たちと同じ。そんな環境に恵まれた中学生たちが、何を目指し、何に向かってキャンプを迎えるのかが非常に楽しみだった。
元阪神の伊藤敦規氏ら豪華コーチ陣
キャンプ初日、関メディが所有する神戸の深江浜にある室内練習場から選手たちと一緒にバスで移動したのだが、そこで関メディの選手が本気で野球をしていることはすぐに分かった。
中学1年生から3年生の選手や中等部スタッフ16人が朝6時に集まると、同行するコーチ陣が日本中探しても関メディ以外で揃えることは不可能ではないかと思うくらい豪華だったのだ。
昨年まで阪神タイガースのコーチをしていた伊藤敦規さん、元近鉄コーチの谷真一さん、女子野球界のレジェンド・小西美加さんら、そうそうたるメンバー。さらにプロ野球選手のケアをしているトレーナーまで帯同していた。元近鉄、オリックスの選手で、現在は同学院の総監督を務める井戸伸年氏の人脈で集まった豪華スタッフ。私が知り得る限り、これほどの環境で野球をしている中学生は他にないだろう。
少々前置きが長くなったが、このエリート中学生たちがどこに向かっていくのか、私自身が寝食を共にして聞いたことや感じた事を伝えたい。
プロと変わらない練習メニュー
中学生といえども練習内容はプロ野球と何ら変わらない。
まずは1年生から3年生まで全員でアップを行い、その後、走塁練習組と特守組、特打組に分かれて汗を流す。午後からは各チーム練習試合を2試合ほど行う。さらに課題がある学年は、室内練習場で各自の課題をクリアするための練習に取り組む。
Ⓒ小中村政一
私が見ている限り、日本のプロ野球のキャンプと内容はほとんど変わらない。もちろんプロとはレベルが違うゆえ練習の質は違ってはくるが、中学生がこのメニューを1週間やり続けたことは立派の一言だ。
3学年が寝食を共にしたからこそ学べること
また、どの年代やどのチームでも共通していることとはいえ、挨拶に始まり、挨拶に終わることが徹底されている。関メディは入団テストもなく誰でも入れるが、子供たち一人一人が監督やコーチ、スタッフも含めて全員に挨拶するようにきちんと教育されている。
挨拶ができたからと言って、野球がうまくなる訳ではない。しかし、野球という団体競技を通して、忍耐力や協調性、思いやり、ルール、礼儀を学ぶ場所になっていると感じた。本来は家庭で学ぶべきものを、この場で学んでいるのかも知れない。
いつもは別々に練習をしている、最近まで小学生だった1年生と、もうすぐ高校生になる3年生が寝食を共にする。
1年生は緊張と不安もあるだろうが、3年生の練習姿勢や生活態度を見てリスペクトもするし、反面教師になることもある。逆に3年生は下級生に野球だけではなく生活態度について指導したり、率先して掃除したりすることで、普段では感じない責任感が芽生えたような気がした。
教えるという行為は、自分でその意味を理解してなければならないし、教わる方も教わる態度で接しなければ成立しない。それは先輩が尊敬の対象だったり、憧れという立場であれば、なお効果は絶大だということを、私は子供たちに教わった気がする。
自ら厳しい環境に身を置く中学生の視線の先にあるもの
日本の野球が世界に通用する根源となっているのは、関メディで言えば、やはり朝9時から17時まで、ランチタイム以外休みのない練習だと思う。
長時間のトレーニングには賛否両論あるが、無理して練習させているわけではない。キャンプに来ている子供たちは、親に言われて参加しているのではなく、プロ野球選手やメジャーリーガーを目指して自らの意思で厳しい環境に身を置いているのだ。
野球を愛し、野球がしたくてたまらない子供たちの集まり。だからこそ、一日中白球を追いかけて、泣き言も言わずにバットを振り続け、走り続けることが、後の人生を変えていくことも知っている。
Ⓒ小中村政一
ピッチャーは一番うまいバッターと対戦したがり、バッターは一番速いボールを投げるピッチャーと対戦したいと口を揃えて言う。それはなぜかと問いただすと、強い相手と対戦していくことにより、その先が見えてくるからだ、その子を打てないとプロになれる訳がないからなどと答えが返ってくる。みんなが現実的に将来を考えて野球をしている。
日本が強いのは中学、高校で精神力を鍛えるから
私自身、このキャンプに帯同して、強豪と言われる他のチームのキャンプも見てみたくなった。関メディが全てではないことは理解しているし、関メディより強いチームがあることも理解している。もしかすると、監督が絶対的権力を持ち、体罰などがいまだに横行しているチームもあるかも知れない。
それを見て見ぬふりをしてでも、我が子をプロ野球選手にしたいと願う親はたくさんいるだろう。暴力を肯定するつもりは全くないが、日本における野球はそれほど大きな意味を持つスポーツだと言える。
世界の色々なスポーツを撮影してきて思うことは、日本が強いスポーツは根底に武士道、仲間に対する「忠義」というものが少なからずあることだ。実力が同じなら最後は精神力、気力がモノを言う。どのスポーツにせよ、それを学ぶのが中学、高校ではないだろうか。
野球に限らず、日本の全てのスポーツは、精神力を鍛えるところからだと僕は思うし、これからもそうであってほしい。
日の丸を背負って世界で戦う選手をたくさん見てきたカメラマンとして、心からそう思う。
Ⓒ小中村政一
《ライタープロフィール》
小中村政一(こなかむら・まさかず)1979年6月18日、兵庫県西宮市出身。MLB(メジャーリーグ)、FIFA(国際サッカー連盟)、USGA(全米ゴルフ協会)公認カメラマン。3団体の主催試合を撮影できる世界でも数少ないフリーカメラマン。サッカーワールドカップやイチロー、ダルビッシュらも撮影。