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東京五輪重量挙げに史上初のトランスジェンダー選手、不公平と批判も

2021 6/17 06:00田村崇仁
ローレル・ハバードⒸゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

男子から女子に変更、NZのローレル・ハバード

国際重量挙げ連盟(IWF)は6月11日、東京五輪の出場権獲得選手を発表し、性別適合手術で男子から女子に競技する性別を転換したトランスジェンダー選手、ローレル・ハバード(ニュージーランド)が女子87キロ超級でランキング入りした。性別変更を公表したトランスジェンダーの選手が五輪に出場するのは史上初めてとなる。

185センチ、130キロと堂々たる体格。43歳のハバードは、2013年に性別適合手術を受けるまでは男子として国内ジュニア記録を持つなど活躍した。性別への違和感から20代で一度引退したが、30代に入って女子選手として競技を再開し、2017年と2019年世界選手権に出場して好成績を残してきた。

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を理由に簡素化された新たな予選方式で関門を通過。今後、ニュージーランド・オリンピック委員会が、付与された出場権の行使を確認するなどの手続きを経て正式決定となる。

IOCが新たなガイドライン策定

心と体の性が一致しない選手を男女どちらの区分で競技させることが公平なのか-。「新時代のアスリート」と彼女をサポートする声もある中、ライバルとなる一部の女子選手からは不公平だとして批判の声も広がっている。同選手の身体的優位性を指摘し「競技が公平でなくなる」といった不満だ。

ベルギー選手の1人は「トランスジェンダーを全面的に支持する」とした上で「重量挙げという特殊なスポーツでは断固反対」との姿勢を強調した。

国際オリンピック委員会(IOC)は2015年、トランスジェンダー選手の女子競技参加に関して、男性ホルモンのテストステロン値が12カ月間、一定以下なら認めるとする新たなガイドラインを策定した。

ハバードはこの基準を満たして国際大会に出場してきたが、専門家からは、男性として成長した選手の身体的優位性を軽減する効果はほとんどないとの厳しい指摘も出ている。

ラドクリフさんらIOCに書簡提出も

ホルモン治療を受けたトランスジェンダー女性が競技上、有利になるとの科学的根拠は、既存の研究データとしてまだ見つかっていないとされる。ただスポーツ界の論争は収まらず、英BBC放送によると、女子マラソン元世界記録保持者のポーラ・ラドクリフさんら約60人のスポーツ関係者がIOCにガイドラインに関して再考を求める書簡を提出している。

ラドクリフさんは「男性として生まれ男性として育った人間が、性自認が女性であるというだけで女子スポーツに出場することはあってはならない」「スポーツにおける男女の定義を台無しにしてしまう」との立場をツイッターで表明した。

日本では元フェンシング女子代表の杉山文野さんが公表

生まれながらの性別と自認する性別が異なるトランスジェンダーとは、同性愛者のレズビアンやゲイ、両性愛者のバイセクシュアルらとともに総称で呼ばれる性的少数者の一つ。英語の頭文字をとってLGBTとも言われる。最近は性自認や性的指向が特定の枠に属さない人や、分からない人を含めて「LGBTQ」と表現する場合もある。

日本のスポーツ界で例は少ないが、元フェンシング女子日本代表の杉山文野さんが心と体の性が一致しないトランスジェンダーを公表しており、6月に日本オリンピック委員会(JOC)の新理事にも選ばれる見通し。東京五輪・パラリンピックでもLGBTなど性的少数者の情報発信拠点「プライドハウス東京レガシー」が初めて設置され、こうした理解増進を図る動きが広がりつつある。

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