誰もが実感したセッター竹下佳江の存在感
全日本女子バレーの司令塔というと、竹下佳江の姿を思い浮かべるバレーボールファンは多い。竹下佳江と言えば、159cmというバレーボール選手としては致命的にも思える小柄な体から繰り広げられる、コート全体を使った華麗なトス回しである。
竹下は自身3度目の出場となったロンドン五輪で、選手のよさを引き出しつつ観客を魅了するトスによって日本を28年ぶりの銅メダルに導いた立役者でもある。そんな竹下佳江が2013年に引退した時、日本のバレーボールファンは誰もが思ったことだろう。「竹下佳江の代わりを務められるセッターはどこにいるのか」と。
セッター不在で戦い続けた8年間
竹下佳江の引退後、日本代表では司令塔であるセッターが定まらなかった。当時、全日本チームの監督を務めていた眞鍋政義氏もセッター選びに頭を悩ませていたようで、大会ごとに違うセッターを招集しており、なかなか軸となる正セッターが定まることはなかった。
そんな中、東京五輪に向けて2017年に中田久美が監督就任。中田久美と言えば、自身もセッターとして3度の五輪を経験しており、言わずと知れた日本のレジェンド的な存在である。そのため、監督交代当初から、「中田久美が選ぶセッターは誰なのか」「これで正セッターが決まるのではないか」と期待されていた。
中田久美監督はリオ五輪に出場した宮下遥や佐藤美弥を何度も招集していたが、大会により違うメンバーがトスを上げており、誰も正セッターのポジションを奪取できずにオリンピックイヤーを迎えた。
20歳の若き司令塔・籾井あきの登場
東京五輪が2021年に延期となり、新たに日本代表メンバー選出が行われた2月。司令塔であるセッターの1人として初めて招集されたのが、20歳の籾井あきだった。所属チームのJTでは、2020‐2021シーズンのチーム連覇に貢献しており、176cmという高身長を活かした早いコンビトスが高く評価されての選出だった。
中田久美監督は東京五輪メンバー発表の際に、籾井のことを「チームを勝たせられるセッター」と公言しており、世界との対戦経験の少ない代表初選出の20歳を正セッターにすることに対しては「思い切ったことをしなければ日本バレーの発展はない」と語っている。
籾井の速いトスとポジティブな姿勢が日本の勝利の鍵
2021年6月、東京五輪の前哨戦として開催されたネーションズリーグで籾井あきは正セッターとして出場した。大会開催前、籾井の選出に伴い、JTでのチームの大エースに偏ったトス回しが懸念されていた。
しかし、実際にネーションズカップが幕を開けると、バックアタックやオポジットを速いトスで多用して世界の高い壁を翻弄し続け、籾井の活躍もあって4位という好成績を残すことができた。この大会で籾井は一気に世界から注目を集めた。プレースタイルはもちろん、世界を魅了したのは籾井の貪欲な勝利への姿勢である。
国際バレーボール連盟が運営している公式メディア「バレーボール・ワールド」の中でも籾井の特集が組まれており、最年少でありながらも堂々と振る舞う籾井を高く評価している。チームメイトの石井優希も、籾井のことを「自分の考えを持っている積極的なセッター」と評しており、年齢や経験に関わらず勝利のために自己主張する姿は、往年の中田久美や竹下佳江を彷彿とさせる。
東京五輪でメダル予想に入っていなかった日本がメダルを手にすることができるのか。その鍵はニューフェイスの司令塔、籾井あきにかかっていると言っても過言ではない。
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