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新生デビスカップでは選手負担、集客の課題を解決できず ITF、ATP間の協力も必要か【男子テニス】

2019 12/1 11:00橘ナオヤ
2019年デビスカップで優勝したスペインチームⒸゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

新フォーマットで目指す大会の地位向上

スペインのマドリッドで11月18~24日に行われた男子の国別対抗戦デビスカップby Rakuten決勝大会は、開催国スペインの8年ぶり6度目の優勝で幕を閉じた。国際テニス連盟(ITF)主催の国別対抗戦として伝統ある同大会は、FCバルセロナのスペイン代表CBジェラール・ピケが代表を務めるコスモス・グループが出資し、ピケのビジネスパートナーである三木谷浩史氏が会長を務める楽天がスポンサーとなり、今大会からフォーマットを大きく変えた。この新フォーマットを巡っては大会前から賛否両論が巻き起こったが、大会が終わった今だからこそ見えた改善点がある。

今回から導入された新フォーマットと旧フォーマットとの最大の変更点は、これまでシーズン中にちりばめられていたデビスカップの試合が、予選と決勝の2つのフェーズに集約されたことだ。旧フォーマットでは、決勝まで勝ち進んだ場合、年に4度も週末に試合が組まれていた。もちろんツアーの最中を縫っての大会参加となるので、選手の肉体面への負担は深刻。そんな問題もあり、トップ選手の参加率が落ち込んでいた。

新フォーマットでは、2月に予選ラウンド、11月に決勝ラウンドを集中開催することで、従来の懸念とされた選手の負担を抑える狙いがあった。また、決勝ラウンドには強豪国が一堂に会するため、観客はこれまでと違い、複数国のスター選手を見ることができる。さらにITF主催のため、デビスカップ出場は、来年の東京オリンピック出場要件にも組み込まれた。結果、今大会では多くのトップランカーが出場した。

短期集中の結果、翌日未明まで続いた試合も

こうした狙いは達成された部分もあるが、まだまだ課題も多い。まずは試合時間だ。1戦あたりシングルス2試合とダブルス1試合を戦い、2勝した国が勝利する。試合が5セットマッチから3セットマッチと短くなった。これにより、これまで3日間かけてシングルス4試合とダブルス1試合が、シングルス2試合とダブルス1試合となり、1日で決着がつくメリットがある。

一方で、1日で決着をつけるため、リーグ戦は平日開催。それも第1試合は早朝にスタートするので、集客はいまいち。対照的に第3試合は深夜まで続くものがあり、ひどい場合にはゲームセットを迎えたのが翌朝4時という試合もあった。これでは選手はもちろん、観客にとっても優しいものではない。

会場のラ・カハ・マヒカが、テニスコートを3面しか使えなかったことも影響した。集約された短期決戦を行うには、テニスコートの数が十分ではなかった。午前中に第1試合を始めても、第3試合が深夜まで対戦が終わらない事態が複数生じた。会場のサイズとスケジュール設定の両面でこうした課題が表面化した。ITFとコスモスは、今後より大きな会場と、余裕を持った大会日程を検討するだろう。

また、ホスト国の絶対的優位性が集客と、大会の熱狂にも影響した。開催国スペインのファンは試合に詰めかけ会場は満席になるが、その他の組み合わせの試合では空席が目立った。旧フォーマットでは、一方の国で開催されたため、必ずホーム&アウェーの空気感が漂っていたが、新フォーマットではホスト国以外その空気を味わうことができない。大会の知名度や地位向上に伴って集客は挽回できるかもしれないが、大会前から指摘されたこの問題が、改めて課題として浮き彫りになった。

トップ選手の負担はむしろ増加?

3つ目として、選手の負担軽減への疑問が生じた。旧フォーマット以上に一部のトップ選手の負担が増えたのだ。決勝大会では6日の日程で優勝まで4戦を戦う。ナダルやジョコヴィッチといったエースはファーストシングルスプレーヤーであるが、戦いが第3試合のダブルスまでもつれた場合、ダブルスにも出場する可能性が高い。実際にナダルはシングルス5試合、ダブルス3試合を戦った。

決勝大会に進出し、トーナメントに勝ち上がる国には、当然だが彼らのようなATPツアーのトップランカーがいることが大きい。ATPファイナルズを戦うような選手たちだ。このフォーマットになった結果、彼らの負担はむしろ増してはいないか。これでは、過密日程を嫌って参加を見送っていたトップ選手が前向きに参加する大会に変わったとは言い難い。オリンピックに影響しない来年はトップ選手の参加率低下もあり得る。

ATPカップとの兼ね合い、将来的な統合は

最後に、国別対抗戦の立ち位置の問題がある。デビスカップは国別対抗戦として長らく続いてきた伝統の戦いであり、フォーマットが変わっても国を背負う名誉は変わらない。だが、2020年からは新たな国別対抗戦、ATPカップが開催される。それも、デビスカップ終幕から6週間後の1月3日からだ。

両大会にはいくつか違いがある。デビスカップはITF主催で、オリンピック出場のために出場実績が要件とされているが、ATPカップにはオリンピックとの関係はない。デビスカップは新フォーマットになるにあたり賞金総額が約2020万ドルと非常に高額になったが、選手に贈られるのではなく国のテニス協会に支給される。一方、ATPカップも賞金総額は1500万ドルと、新デビスカップには及ばないが高額で、こちらは参加選手たちに分配される。さらにデビスカップはATPツアーポイントの付与はないが、ATPカップではATPツアーポイントが付与される。

インセンティブに違いがあるため、国を代表する選手でも、不参加となる者が出てくるだろう。しかもシーズン半ばの過密日程は緩和したかもしれないが、シーズンの最終盤と最序盤に負担が増え、オフが圧迫されている。これで負担減とは言い難い。

ジョコヴィッチはこの点をこう指摘する。「長期的な視野で見れば、この2大会が共存できるとは思えない。これでは、過密日程の問題は解決していない。僕個人の意見としては、デビスカップとATPカップは、将来的に統合するのが良いと思うよ」

ITFとATPの間に確執があるとされて久しい。コスモスの介入から動き出したテニス界の改革だが、その手はじめに行われた新生デビスカップの開催で、改革を進めるためには両組織の協力が不可欠であることが改めて明らかになったと言える。