“赤土の王”圧巻の全仏3連覇、12回目の戴冠
2019年全仏オープン男子シングルスは、ラファエル・ナダル(スペイン)がドミニク・ティーム(オーストリア)を3-1で下し優勝した。ナダルはこれで全仏3連覇。キャリア通算12度目の全仏優勝とし、自身が持つ大会記録を更新した。大会中の6月3日に33歳の誕生日を迎えた“赤土の王”ナダルの勢いは衰えを知らない。初出場から15年、彼はローランギャロスで伝説を打ち立て続けてきた。
ナダルの全仏初出場はプロ転向3年目の2005年。初出場だったこの年にいきなり初優勝を果たす。この「初出場で初優勝」は、ナダルと1980-90年代のレジェンド、マッツ・ビランデル(スウェーデン)の2人だけが成し遂げた偉業だ。
それから毎年出場を続け、15大会の通算成績は92勝2敗1棄権、勝率は驚異の97.8%と他の追随を許さない。この最多勝利数と最多勝率も大会記録だ。ほぼ負けなし、これはテニスの成績としては異常な数字と言って良い。
またナダルはグランドスラム全大会で計18回優勝しているが、これはロジャー・フェデラー(スイス)に次ぎ2位。このうち全仏が12回(全豪1回、全英2回、全米3回)。優勝回数のほとんどを全仏で積み上げている。グランドスラムの単一大会で12回優勝した男子シングルス選手はナダルだけで、全仏5連覇(2010-14年)の記録もナダルだけが持つ。
得意のサーフェスでの成績は圧巻
ナダルは全仏決勝に12回進出し、そのすべてで優勝した。彼がクレーコートでいかに強いか。それは全仏だけでなく、彼のプロキャリア全体を見てもわかる。
ナダルは05年のプロデビュー以来、ATPツアー大会のシングルスで119回決勝に進出し、その戦績は82勝37敗。これをクレー大会に絞ると、67回の決勝進出で優勝が59回と、決勝戦で約88%の勝率を誇る。
彼のライバルであるフェデラーとノヴァク・ジョコヴィッチ(セルビア)ですら、二人が最も得意とするハードコートの決勝勝率はそれぞれ72%(97戦70勝)、74%(74戦55勝)にとどまる。偉大なライバルたちを上回る成績を残している。
1セットも落とさず優勝したことも
ナダルは全仏で負けないだけでなく、セットを落とすこともほとんどない。全仏の15大会で通算94試合を戦ったナダルだが、落としたセットは通算でわずか27個。一大会平均2セットを切るのだ。
さらに、1セットも落とさずに優勝したのが3回(08年、10年、17年)。これも全仏の大会最多記録だ。逆に最も落とした年でも4セットだけ。それは準決勝でジョコヴィッチと4時間37分の激闘を繰り広げた13年と、準々決勝でジョコヴィッチにストレート負けを喫した15年でのことだ。
もちろん、各セットをひも解けば一進一退のものやタイブレークに突入したものもある。だがセットを落とさなければそれだけ試合時間は短くなり、体力を温存できる。1回戦から決勝まで7試合の5セットマッチをわずか2週間の間に戦うグランドスラムでは、前半戦で試合時間を短くすることが上位進出よりさらに上の結果を残すためには不可欠だ。セットを落とさずリードを続けることで、ナダルは常に試合の主導権を握ってきた。
大記録達成を遅らせたナダルの存在
15年にわたり全仏に君臨するナダルに、ライバルたちは記録を阻まれてきた。
その一人がフェデラーだ。彼はナダルが4回戦で大会を去った09年に全仏初優勝。03年のウィンブルドン優勝からキャリア・グランドスラム達成まで6シーズンを要したのは、ナダルが立ちはだかったためだ。事実、06年大会から3年連続でナダルに決勝で敗れている。特に06年の全仏で優勝していれば、フェデラーはグランドスラム4大会連続優勝を達成できるはずだった。
また、ジョコヴィッチもナダルに記録を阻まれ続けた。彼は16年に全仏の初タイトルを掴んだが、この優勝でキャリア・グランドスラム、そしてより難しいグランドスラム4大会連続優勝の偉業を達成した。ジョコヴィッチは4大会連続優勝のチャンスを12年にも掴んでいたが、それを阻んだのはもちろんナダルだ。結局ジョコヴィッチの4大会連続優勝は、ナダルが3回戦で棄権した16年まで待つこととなった。
敗戦すら記録に残る
僅か2敗しかしていないのだから、敗退したことすら記録に残る。過去にナダルが全仏で敗れたのは09年大会の4回戦、15年の準々決勝、また敗戦とは記録されていないが、翌16年では3回戦を怪我のため棄権した。
09年は両ひざに負傷を抱える中、ロビン・ソダーリング(スウェーデン)に1-3で敗退。初出場で初優勝を果たした05年から積み上げてきた全仏連覇は4、連勝記録は31で途絶えた。
15年は足首の負傷をきっかけに調子を崩し、準々決勝でジョコヴィッチにストレート負け。この時は連覇が5で途絶え、連勝は39でストップした。翌16年は左手首の負傷により3回戦で棄権。ナダルが全仏のタイトルから2年連続で離れたのはこれが初めてのことだ。この左手首の怪我にはその後も苦しめられたが、シーズン終盤を治療に当て、翌シーズンには復活を遂げた。
興味深いことに、ナダルという全仏で最も強大な壁を破った両選手は、いずれも全仏のタイトルにはあと一歩で届かなかった。ソダーリングはフェデラーに、ジョコヴィッチはスタン・ワウリンカ(スイス)にそれぞれ決勝で敗れている。
全仏でナダルを倒せると期待されたのはフェデラーとジョコヴィッチ、そして“ネクストクレーキング”と目されるティームだった。ティームはこれまでクレーコートで4度ナダルから勝利を挙げている。だが結果は知っての通り。2年連続で決勝に立ったもののナダルには歯が立たなかった。これで全仏では4連敗。
今年の全仏でも、ナダルの覇権が揺らぐ気配はまったく感じられなかった。王位の交代は、まだ起きそうにない。