四大大会23勝、最適な言葉は「引退でなく、進化」
女子テニスの元世界ランキング1位で「史上最強の選手」と称され、四大大会通算23勝の実績を残している40歳のセリーナ・ウィリアムズ(米国)が8月9日、米ファッション誌「ヴォーグ」の最新号で現役引退の意向を表明した。
「引退という言葉は好きではない。私には現代的な言葉とは思えない。私がやろうとしている最適な言葉は進化かもしれない」とし、テニスを離れて次のステージに進む考えを示した。
セリーナといえば、四大大会通算7勝の姉のビーナスとともに「ウィリアムズ姉妹」として一時代を築き、女子テニス界に強打を武器とするパワーテニス革命を起こした。
五輪でも2012年ロンドン大会のシングルスなど4個の金メダルを獲得。露骨な黒人差別とも闘い、スポーツ界におけるジェンダー平等の推進でも積極的にメッセージを発言した。8月29日開幕の四大大会、全米オープン(ニューヨーク)が最後の舞台になるとみられ、地元の思い出深い大会で頂点に立てば、四大大会の優勝回数で24度のマーガレット・コート(オーストラリア)の偉業にも並ぶフィナーレとなる。
映画「ドリームプラン」で成功導いた父も話題
女子テニス界の歴史にその名を刻んだビーナスとセリーナのウィリアムズ姉妹は、映画「ドリームプラン」でもウィル・スミスが演じた父リチャードに導かれ、成功への道を歩んだ物語が話題になった。
米カリフォルニア州コンプトンの裕福とはいえない家庭環境で生まれ育ち、型破りな父親はテニス未経験ながら、姉妹が生まれる前から「ドリームプラン(夢の計画書)」を作成。無償で引き受けるコーチを見つけるため2人の紹介ビデオを作って売り込み、白人ばかりのテニス界での黒人差別や逆境を一家で乗り越えて夢を現実にした話だ。
この映画で主演男優賞を受賞したウィル・スミスがアカデミー賞の式典で、コメディアンのクリス・ロックさんを壇上で平手打ちする騒動もあったが、セリーナは「このスポーツは私に多くのものを与えてくれた。テニスから離れなければならないことを、自分にも誰にも認めたくない」と引退への葛藤を隠さず、競技への思いを語っている。
大坂なおみも憧れの存在、ビジネスにも参画
コート上で感情をむき出しにして戦うセリーナは、元世界ランク1位の大坂なおみにとっても憧れの存在だった。
最近は娘オリンピアの育児と並行して、ベンチャーキャピタルの経営にも参画し、ビジネスでも活躍の場を広げている。
「ヴォーグ」のエッセイでは「私は勝つこと、戦うこと、人を楽しませることが大好き。いつもストイックで上品なビーナスとは違って、私は感情を抑えることが苦手だった。ビーナスの敗戦から教訓を学び、ランキングを上げることができるようになった」と姉を教科書に成長してきた思い出を吐露。
女子テニス協会(WTA)を創設した元名選手のビリー・ジーン・キングの名を挙げ「彼女はあらゆるスポーツにおける男女平等のパイオニアとして、私にインスピレーションを与えてくれた」と競技人生で影響を受けた背景も説明した。自身の去就を巡っては、友人というゴルフのタイガー・ウッズに相談したことも明かしている。
今年の四大大会は全豪、全仏オープンに出場せず、ウィンブルドン選手権では1回戦敗退。「お別れを言うのは大の苦手」というセリーナの最後となる雄姿が見られるのは全米オープンだろう。「ビリー・ジーン・キング」の名を冠したナショナル・テニスセンターは、これまでにない「セリーナ・コール」の熱狂に包まれそうだ。
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