ジョコビッチ「クレイジー」と決定を批判
テニスの四大大会で最古の歴史を持つウィンブルドン選手権(6月27日開幕・英国)が重い決断を下し、波紋が広がっている。
長引くウクライナの軍事侵攻を受け、大会主催者は4月20日、ロシアとベラルーシの両国選手の参加を認めないと発表。テニスで両国の個人選手を出場禁止としたのは初めてで、男子世界ランキング2位のダニル・メドベージェフ(ロシア)や女子世界4位のアリーナ・サバレンカ(ベラルーシ)らトップ選手も対象となる。国や政府の責任を個人の選手にも負わせた今回の決定にはテニス内でも賛否両論で、対応は真っ二つに分かれている。
英BBC放送によると、男子の世界ランク1位に返り咲いたノバク・ジョコビッチ(セルビア)は、この決定に「クレイジーだ(狂っている)」と反発。内戦が続いた母国で育った経験を踏まえ「私はどんなときでも戦争には反対。戦争がどれほどの感情のトラウマを残すのか知っている。それでも政治がスポーツに干渉することは良い結果を招かない。テニス選手やアスリートは戦争に関係ないから」と批判した。
女子テニスの元名選手でチェコと米国の国籍を持つマルチナ・ナブラチロワも「間違った決定だと思う。テニスは民主的なスポーツ。政治がそれを破壊するのを見るのは心苦しい」と反対した。
個人の締め出し、ATPとWTAも反対
スポーツ界がロシアとベラルーシの締め出しを強化する中、テニスは戦争を強く非難する一方で、これまで個人の選手について国名や国旗の使用を禁じながらも参加自体は容認してきた。
テニスは国を背景とせず、プロ選手という個人の単体事業者が競うことで発展してきたという意識が高い背景もあった。主催者によると、大会が開幕する6月までに状況が大きく変化した場合はそれに合わせた対応をとるとしているが、男子ツアーの統括団体ATPは「一方的な決定は不当であり、このスポーツに有害な前例を作る可能性がある」と指摘。「国籍に基づく差別は、選手のエントリーがATPランキングのみに基づくとするウィンブルドンとの合意への違反に当たる」と訴えた。
女子ツアーを統括する女子テニス協会(WTA)は「非常に失望している。選手個人は、出身地や当該国政府の決定を理由に罰則や出場阻止の対象となってはならない」とする声明を出し、除外の決定を批判。この決定について「次のステップとどのような措置が取れるかを検討する予定」と何らかの行動を取る可能性があると表明した。
それぞれのツアーでは両国選手の個人での出場を引き続き認めるとしている。
ロシア猛反発、損害賠償求める意見も
ウィンブルドンの厳しい方針に、ロシアでは反発の声が沸騰している。
地元メディアによると、ペスコフ大統領報道官は「アスリートを政治的陰謀の人質にすることは受け入れられない」と反発。メドベージェフが損害賠償を請求すべきと訴える意見も出ている。
一方、ウクライナの女子選手、エリナ・スビトリナは「ウィンブルドンのように、あらゆる国際大会からも除外されることを求める」と今回の決定を歓迎した。本来は連帯を示す場となるスポーツ界でも「分断」の波は加速している。
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