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十両→序の口→新小結の竜電ら 絶対に諦めない苦労人力士たち

2019 7/18 15:00柴田雅人
名古屋場所でも苦労人と呼ばれる力士が奮闘しているⒸゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

山梨県出身では富士桜以来47年ぶり三役

現在行われている大相撲名古屋場所(愛知・ドルフィンズアリーナ)に先立ち、先月24日に行われた番付発表。先場所優勝の朝乃山が平幕に据え置かれる一方で、阿炎と共に新小結に昇進したのが竜電だった。

山梨県出身の28歳は、中学卒業後の2006年春場所で初土俵。そこから約6年を費やし2012年九州場所で晴れて新十両となったが、同場所で右股関節を骨折。その影響で思うような成績が挙げられなくなり、2014年秋場所時点では西序の口17枚目まで番付を落としていた。

しかし、ここで諦めなかった竜電は2016年九州場所で十両の座を取り戻すと、約1年後の2018年初場所には新入幕。その後も幕内の座を守りながら徐々に力をつけ、今場所ついに新三役の地位まで辿り着いた。

高田川親方(元関脇安芸乃島)の指導を受け、山梨県出身力士としては富士桜(元関脇/1972年秋場所)以来47年ぶりの快挙を成し遂げた竜電。予期せぬ怪我を乗り越えた遅咲きの苦労人が、ここからこの両名の番付に並ぶ、もしくは追い抜く可能性も決してゼロではないだろう。

迎えた今場所は残念ながら11日目に8敗目を喫し負け越しが決まってしまったが、その一方で2大関1関脇(高安・栃ノ心・玉鷲)に土をつけてもいる。来場所以降の巻き返しにも、十分に期待が持てるのではないだろうか。

幕下転落で引退も考えた栃ノ心

苦労人と呼ばれている力士は竜電だけではない。ここでは、現在でも幕内で戦う力士の中から、栃ノ心、豊ノ島、玉鷲の3人をピックアップして紹介したい。

先の夏場所で2ケタ勝利を挙げ関脇から大関に復帰したジョージア出身の栃ノ心は、今から13年前の2006年春場所で初土俵。柔道やサンボといった格闘技の経験も手伝ってか、そこから所要11場所で新十両、その2場所後には新入幕とスピード出世を果たし幕内に定着した。

しかし、2013年名古屋場所で右ひざの靭帯を断裂する大けがを負い、翌場所から3場所連続で全休。この間、番付も西前頭11枚目から西幕下55枚目まで転落した。後の報道によると、この頃は現役引退も考えていたという。

ただ、親方の叱咤激励もあり現役を続行した栃ノ心は、全休明けの2014年春場所から4場所連続優勝(幕下2場所・十両2場所)を果たし幕内に復帰。こうした経緯もあり、2018年初場所での初優勝は「苦労人の復活V」として多くのファンに感動をもたらした。

アキレス腱断裂で2年間も幕下だった豊ノ島

2004年秋場所で新入幕力士となった豊ノ島は、その後2016年名古屋場所まで3場所を除き一貫して幕内・三役に在位。2016年初場所では、優勝を果たした琴奨菊に唯一土をつけた力士としても話題を集めた。

ところが、前述した2016年名古屋場所前の稽古中に左足のアキレス腱を断裂するアクシデントに見舞われ、2場所連続全休後の同年九州場所では西幕下7枚目まで転落。当時は「このまま引退するのではないか?」といった思いを抱くファンも少なくなかった。

怪我の影響はやはり大きく、その後約2年間幕下から抜け出せなかったが、昨年九州場所で十両に戻ると、今年の春場所で遂に幕内に帰還。夏場所では十両に落ちたが、今場所は再び幕内力士として相撲をとっている。

ホテルマン目指していた遅咲きの玉鷲

今でこそ三役常連の実力者として知られる玉鷲だが、入門以前はホテルマンを目指していたという異色の経歴の持ち主。スポーツ経験がないことも影響したのか、なかなか平幕の壁を破れずにいた。

ただ、2015年春場所でようやく新三役の座を掴むと、2016年九州場所以降からは平幕上位~関脇の間に定着。年を経るごとに実力が増した遅咲きの苦労人は、今年の初場所で歴代2番目の34歳2カ月という高齢で初賜杯を手にするところまで辿り着いた。

どれほどの困難に見舞われても、逃げずに立ち向かえばその先に必ずいいことがある。竜電を含めた彼ら4人の苦労人は、諦めないことの大切さを土俵の上から教えてくれている。