東海大学が女子初の4強
ゴールデンウィークの風物詩、高校、大学の強豪、Vリーグのチームが参加する「第70回黒鷲旗 全日本男女選抜バレーボール大会(黒鷲旗)」が3年ぶりに開催された。今大会は、大学勢がV1(Vリーグ1部)チームに勝つ試合がいつも以上に多かった。下剋上にひと役買ったのが3セットマッチだった。
5月5日で終了した黒鷲旗は、男子はサントリーサンバーズが、女子は東レアローズが優勝した。大会を盛り上げたのが、大学チームの奮闘。特に女子は、東海大学が準決勝で東レアローズに0−3で負けたものの、大学女子チームとして初の4強入りという歴史的快挙を成し遂げた。
東海大学の中川つかさ主将は「(ベスト4は)は嬉しく誇らしい。こんなにV1のチームとできる機会はないので、良い影響となった大会」と晴れやかな表情。高校バレーの名門・金蘭会出身だけに「自分が金蘭会高校にいた頃は、どういう大会でも色々注目して頂いたが、高校から(有力選手が)Vリーグに進む選手が多いということもあって、大学バレーの知名度が低いのかなと個人的に感じていた。その中で、大学がこういう結果だったり、良いバレーをした。色んな人に影響を与えられるようなプレーをコート上で見せていけたと思います」と思いを明かした。
筆者提供
女子では東海大学以外にも、筑波大学が予選グループを突破。V1が3チームいる厳しいグループだったが、NECレッドロケッツには1−2で負けたものの、日立Astemoリヴァーレを2−1、ヴィクトリーナ姫路を2−0で破り、見事に準々決勝に進出した。
日本体育大学も予選突破こそできなかったが、V1のKUROBEアクアフェアリーズに2−1で勝利した。
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男子では、インカレ5連覇中の早稲田大学が、大会初日にV1・6位(10チーム中)のJTサンダーズ広島を2−1で破り、V1男子チームの選手や監督たちを驚かせた。早稲田大学は前回大会でも予選3連勝で話題を呼んだが、今回はVリーグ屈指の大砲である元オーストラリア代表のトム・エドガーを含め、ほぼベストメンバーで試合に臨んでいたJTに勝利したこともあって衝撃だった。
中央大学も、リーグ優勝したばかりのサントリーサンバーズから第1セットを奪って、最終的に1−2で敗戦したが、国内トップチームを脅かし、予選3試合目の大分三好ヴァイセアドラーには2−0で力勝ちしている。
コロナ禍の影響で予選グループは3セットマッチ
今回の黒鷲旗は日本代表の国内合宿と時期が重なっていた。多くのV1のチームが代表合宿に選手を派遣していたこともあって、リーグ戦と異なるメンバーで臨む必要があった。また、リーグ戦で活躍していた外国人選手が、黒鷲旗には出場しなかったチームもあった。
しかしながら、大学も同様に、早稲田大学は東京オリンピック代表だった大塚達宣、筑波大学は佐藤淑乃、東海大学は宮部愛芽世といったチームの中心選手たちが、代表合宿に招集されて不在。黒鷲旗は過去大会でも代表選手たちの不在はあったものの、今大会のようにここまで複数の大学チームがV1から勝利を飾るのも珍しい。
波乱の要因となったのが、2セット取得で勝利となる3セットマッチ。コロナ禍の影響もあって、今大会は予選グループのみ3セットマッチだった。Vリーグも大学もリーグ戦は通常5セットマッチ。どちらのカテゴリーのチームにとっても普段とは異なる形式だが、より影響を受けたのがV1勢だった。
V1チームの選手や監督たちに、3セットマッチについて質問してみると、やり辛いという声が目立った。
早稲田大学に負けたJTサンダーズ広島の山本将平は「(3セットマッチは)特に下のカテゴリー、高校や大学とは、データがないままなんでやり辛かった。試合のペース配分が分からない時もある。ただ、それがあるとはいえ、負ける言い訳にはならない」と悔しさを噛み締めていた。
東海大学に0−2で敗れた埼玉上尾メディックスの岩崎こよみ主将は「やったことないチームとやる上で、慣れる前に対応しきれずに終わってしまう。対応を早くしないと、こういう展開になるのはあると思います。でも、最初からわかっていることなので、そのせいでって言い訳はできない」と話した。
1セットを取られるとプレッシャー
学生たちの向かってくる勢いに、普段より短い間に修正や対応をしないといけないことが焦りに繋がるという。
「大学生とか高校生とかカテゴリーの違う相手とやるのはやりにくさがある。自分自身、以前の黒鷲旗で大学生に負けた経験があった。特に今年は3セットマッチで、試合の出だしを間違えるときつい。5セットマッチは、1セットを取られても『まだ3セットある』となるけど、3セットマッチは1セットを取られると『王手を掛けられた』となる。3セットマッチで、別のカテゴリー相手にやるのは難しい」(堺ブレイザーズ・山口頌平)
「バレーボールは流れのスポーツなんで、(高校、大学のチームのアタックが)思ったよりえぐいコースで点を取ってくると、一気に相手が勢いに乗ったりする。それでも、5セットマッチだと、力の差があれば、例え第1セットは相手に決められていても、第2セット以降にはこちらも慣れてブロックで捕まえられたりしていける。また、1セットを取られても残りの3セットで勝てばいいとなる。しかし、3セットマッチは、相手が1セットを取ると、あと1セット頑張れば勝てるというテンションで、もっとすごいプレーを見せてくる。『高さがさらに上がってるあいつ…』みたいなのがあった」(堺ブレイザーズ・千々木駿介)
パナソニックパンサーズは、JTを破った早稲田大学と大会第2日に当たったが、2−0で貫禄勝ちした。しかし、元日本代表・清水邦広は「油断できなかった」という。
「学生との試合って僕らV1にはやりづらい。僕たちのバレーをしたら負けないとは思っていたが、勢いに乗ったら怖い。3セットマッチは相当やりづらい。1セット分のプレッシャーを特にVリーガーは感じると思う。5セットマッチの第5セットの15点勝負で、どっちが勝つかわからないというのが、3セットマッチでは第1セットからそういう状態になる。本当に何が起こるかわからない。逆に学生とか下のチームはやりやすいのでは」
やはり、負けて元々という気持ちで相手に向かっていける分、大学チームには勢いで押し切れる3セットマッチはより有利だったのだろう。
東海大学の中川主将は「(3セットマッチへの変更は)大きい。5セットマッチとなるとVリーグのチームは意地であったり、技術力以上なものが出てきて負けてしまうパターンというのが、高校生の時(金蘭会高校)から黒鷲旗に出て感じていた。3セットマッチだと、最初の勢い、それだけではないですけど、勝てるすごい大きなチャンスと感じた」と振り返った。
早稲田大学の松井泰二監督は「あまり気にしなかった」とは話したものの「3セットマッチは勝てるチャンスがありますよね」と話し、さらに有観客だった会場の雰囲気も大きかったのではと指摘した。「観客は意外と学生びいきなところがあるので、V(リーグのチーム)さんは逆にやりづらいんだろうなとは感じた」
Vリーグは2021・2022年シーズンは無観客試合が一部あったものの、基本的には有観客試合に戻っていた。一方で、大学勢、例えば関東大学リーグにおいては、黒鷲旗前に小田原アリーナで有観客試合を経験しているが、それ以外の大学体育館が会場の試合は無観客。昨年末のインカレで準決勝・決勝は有観客ではあったが、それ以前もずっと無観客の中での試合だった。今回、久しぶりに多くの観客の前でプレーするということ自体、大学生たちの勢いを後押ししている部分はあったようだ。
強豪大学の選手素材が上がっているのも要因?
大学勢との試合はなかったが、トヨタ車体クインシーズの印東玄弥監督は、3セットマッチ以外の点で興味深い指摘をした。
「(高校の有力な女子選手が)大学かV1で進路を選択する時、結構、大学進学を選ぶ。筑波にしても東海にしても。また、昔は身長が180cmあったら(V1のチームに進み)大学にいく人はなかなかいなかった。今回例えば、ヴィクトリーナ姫路より筑波大学の方が平均身長で勝っている。(大学の強豪とV1で)素材は変わらない」。事実、オフィシャルプログラムにあるチームのスターティングメンバーの平均身長では、筑波大学は173.1cmでヴィクトリーナ姫路の172.1cmを上回っている。
また、大会に臨む上で、リーグ戦を終えて、代表選手たちが抜けた中で急ピッチで仕上げたV1チームと、年明けから春季リーグ戦に向けて準備してきた大学では、チームの完成度が異なるという。
「(黒鷲旗で大学勢がV1相手に勝つことを)ジャイアントキリング呼ばわりしているが、そもそもV1のチームとはいえ、リーグ戦で試合に出ていない選手が多く出たり、リーグ戦でトスを多く打っていた外国人選手がいない選手構成だったり。一方で大学側はインカレが終わって、新チームに切り替えて1、2、3月と春季リーグに向けて準備してきていた。チームの練度も違うのでは」
確かにそういった側面も否めない。今回の黒鷲旗で、より大学チームが躍進した背景には、3セットマッチの変更に加えて、選手の素材やチームの完成度の面においてもV1相手に十分戦えるレベルだったのかもしれない。
来年は予選を再び5セットマッチに戻すのではと言われている。しかし、今大会の盛り上がりを見ると、引き続き3セットマッチのままの方が、見る側としては楽しめるのも確かだろう。
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