ヴォレアス北海道との入れ替え戦に辛勝
バレーボール男子VリーグのV1(1部)最下位(10位)だったVC長野トライデンツは、神奈川県の小田原アリーナでV2(2部)優勝のヴォレアス北海道と入れ替え戦のチャレンジマッチに臨み、V1残留を決めた。
第1戦(4月9日)は2−3、第2戦(4月10日)は3−2で並び、最後は合計得点の差で辛くも残留。チームの窮地を救った1人が、インドネシア代表リヴァン・ヌルムルキ(26)だった。
リヴァンは2試合でスパイク、サーブ、ブロックと大活躍し、計57点。試合後の会見では「初めてチャレンジマッチに臨んで厳しい試合だった。第2戦は最後のセットは流れをつかむ良い瞬間もあったり、半分ラッキーもあって勝てた」とほっとしていた。
リヴァンが魅せたビッグプレー
攻撃力を期待されるポジションのオポジットを担うリヴァンは、高い身体能力を活かし、エースとして上がってくるボールを打ち続けた。
第1戦は2−3で負けはしたものの、アタックで30点、アタック決定率は63.8%とハイスコアを記録。第2戦は相手からの厳しいマークもあって、アタックが18点、決定率が51.4%と苦しんだが、第5セットの序盤に2連続ブロックでチームに勢いと勇気を与えた。特に第5セット1−1の場面でとびだした、リヴァンのワンハンドブロックが大きかった。
そのシーンを振り返る。VC長野が相手のスパイクをなんとか拾ったものの、コート外にボールが飛び、味方が辛うじてリヴァンに向けて高く上げた。しかし、そのボールがわずかにネットを超えて相手コートへ。それをヴォレアス北海道のエースで台湾代表の張育陞(チャン・ユー・シェン)がダイレクトで打ちにいった。
ところが、スパイクを打つための助走に入っていたリヴァンが、とっさにプレーを切り替えて右手だけ出しにいった。すると張が打ち放った強打に、リヴァンの右手が間に合って、見事なブロックとなった。
筆者提供
味方のつなぎミスからの得点となれば、相手に勢いを与えただけに、リヴァンのプレーが余計に光った。松本隆義監督代行も「あれは大きかったし、あれを見てヴォレアスは焦っているなと思った」と試合後に明かした。
そして第2戦第5セットの最後、VC長野の三輪大将が相手コートから返ってきたボールを、ダイレクトで打ち込んで得点した瞬間、チームの残留が決まった。リヴァンはガッツポーズをした後、笑顔でチームメイトたちと抱き合った。そして、この試合での引退を発表していたヴォレアス北海道の元日本代表・越川優のもとへ歩み労っていた。
筆者提供
苦難のシーズンを過ごした2シーズン目
ただ、リヴァンにとって2シーズン目となった今シーズンは苦しいものだった。
まず、お世話になった恩師との突然の別れ。今シーズン開幕直前、引き抜き行為をしたとしてアーマツ・マサジェディ監督(当時)が解任された。
リヴァンにとってアーマツ前監督の存在は大きかった。プレーへのアドバイスだけでなくリヴァンが慣れない異国でのプレーを助けるため、アーマツ前監督はリヴァンを週に数回、自宅に招いて食事をご馳走するなど、精神面でもサポートしていた。
アーマツ前監督が解任でチームを離れた後は、戸嵜嵩大が代わりに積極的に声掛けするなどサポートしていたが、その戸嵜もシーズン途中の12月にインドネシアのチームへ移籍していった。
ただでさえ、チームからインドネシア語の通訳をつけてもらえずコミュニケーションに苦労していたリヴァンは、英語もさほど話せず、ストレスの溜まる状況だった。それらが影響していたのか、リーグ戦でのプレーも本来持つ能力を出せているとはいいがたく、表情も曇っていた。
しかし、年が明けてから、気持ちが切り替わったのか徐々に本来のプレーを見せ始めた。また、試合中に若手選手たちへ積極的に話しかけるようになっていった。入れ替え戦第2戦の試合後に「今シーズンは難しかった。多くの選手が途中で抜けて、新しく若い選手が途中から加入した。ただ、魂のこもったプレーをチームは見せられたし、来シーズンはより良くなる」と片言の英語で話した。
リヴァンのバレーの原点はストリート
母国インドネシアでは国民的人気選手であるリヴァンは、東南アジアのバレーボール界においても、スター選手として一目置かれている。インスタグラムではフォロワー数が67万を超える。そのリヴァンのバレーボール選手としての原点が、インドネシアでのストリートだ。
筆者は様々なバレーボール動画をSNS上で見ていた時に偶然、リヴァンが屋外で試合をしている動画をいくつか目にした。屋外で行われている試合は、床がコンクリートと思われるコート、また土のコート。そのコートを囲むように観衆が、リヴァンのプレーや試合に一喜一憂している様子が映っていた。関連動画の中には、リヴァンこそ映っていなかったが、道路上をコートに仕立てて試合を行っている映像もあった。
日本でも体育の授業などで屋外でバレーをすることはあるが、映像にあるような屋外で本格的に試合をする光景は珍しい。リヴァンに聞いてみると「インドネシアではストリートでバレーをするのが盛んなんだ。6人制だったり、時には4人制で試合をしているね」と教えてくれた。
インドネシア各地にチームがあるようで、リヴァンも母国に帰った時は、地元チームに参加してプレーしているという。「遊びだよ」(リヴァン)というには本格的な試合に見えるし、レベルも低くない。
そもそもコンクリートや土の上で、ジャンプするのはかなり足に負担がかかるはず。リヴァンが日本で時折見せていた野性味溢れるプレーは、こういった環境でのプレー経験が背景にあるからかもしれない。
「日本では高校や大学でアリーナや体育館でバレーをするけど、インドネシアではジャカルタのような大都市以外ではあまり体育館がないから外でするのが一般的なんだ。ストリートでバレーの技術を磨いてクラブチーム(インドア6人制チーム)へステップアップする」(リヴァン)
まるでブラジルのストリートサッカーみたいと伝えると、リヴァンは「そうだね。日本は体育館でバレー選手が育つけど、インドネシアではストリートからバレー選手が出てくるね」と笑った。
リヴァンに来季もVC長野でプレーするのか質問すると「わからない。インドネシアでの所属チームや代理人たちが話し合うことだから。もう2シーズンも日本でプレーしていて、インドネシアの所属元からも声が掛かっているし」と去就については明言しなかった。ただ、「フィリピンやインドネシアのリーグのレベルはまあまあだけど、日本のリーグはアジアで一番レベルが高い」と日本でのプレーが成長に繋がっていると実感しているようだ。
「黒鷲旗全日本男女選抜バレーボール大会」が4月30日からあるが、リヴァンはこれには参加せずに帰国し、5月にベトナムで開催される東南アジアのスポーツ大会「SEA games」に備える。
チームの強化費が限られているVC長野にとって、リヴァンのような選手と契約できていたことは非常に大きい。来季も日本でプレーする姿を見られることに期待したい。
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