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【大学ラグビー】帝京「第二の黄金期」はいつまで続くのか…来季は正念場?

2024 1/16 06:00江良与一
優勝した帝京大,ⒸJRFU
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ⒸJRFU

大学ラグビー選手権で帝京大が12回目の優勝

1月13日に行われた第60回全国大学ラグビー選手権大会決勝で帝京大学が34-15で明治大学を破って優勝した。試合途中の雷雨で1時間近い中断を挟むという異例の決勝戦に勝利した帝京大学は2009~17年の9連覇に続いて2度目の3連覇を達成、通算優勝回数を12回とした。

2020年シーズンから秋の関東大学ラグビー対抗戦、全国大学選手権では無敗を誇り、今季も対抗戦の早稲田大学戦、大学選手権準決勝の天理大学戦など競った試合は何度かあったものの、危なげなく勝ち進んだ。この堂々たる戦いっぶりはまさに「第二の黄金期」と呼ぶに相応しい。

勝ち方の明確化とそこに特化した強化方針

帝京大学はゲームで勝利することの必要条件を、接点でのコンテストで勝利し続けることだと見定め、そこに特化した対策を重ねてきた。接点でのコンテストの勝利とは、相手よりも少ない人数で接点をコントロールすることだ。

マイボールは確保し、敵ボールは奪い取ることを常に狙い、奪い取れないまでも相手の球出しを遅らせ、相手より多くのプレーヤーを密集に参加させる。こうしたプレーを続けることにより、常に「次のプレー」に参加できるプレーヤーが相手よりも多い状態を作り出していくのだ。

こうしたゲームプランを実現するために、まず強いフィジカルを作り上げた。強い身体を作るトレーニング方法や食事に関しては、学内の医学部から全面的な援助を受け、他大学の追随を許さない充実した内容となっている。

その上で、ポジションに関係なく日々の練習で、走り負けないフィットネスと、ジャッカルやカウンターラックといった密集戦のスキルを磨いた。試合を行う会場の周りを、ベンチ入りしない選手たちが必ず清掃するのはよく知られた話だが、こうした日頃からの精神修養が、密集で反則やミスを犯さない規律性を高めることにもつながっている。

2022年まで26年間チームを率いた前監督の岩出雅之氏、後任の相馬朋和現監督ともにこの指導方針はブレておらず、この指導方針の下の修練はここ15年で12回の優勝を果たすという、圧倒的な強さをもたらした。2023年のW杯の代表スコッドにも出身大学別では最多となる7名の選手を送り込んでいる。

帝京大学の強さが遺憾なく発揮された決勝戦

決勝の相手となった明治大学も「重戦車」と称されるFWを表看板に掲げる、パワー重視のチームだ。ただ、多少のミスには目をつぶって、とにかくFWを前に出すというプレースタイルが伝統であるため、帝京大学に比べるとやや接点でのバトルの精度に欠けるきらいがある。

この日も前後半ともに3度づつ、計6回密集でのターンオーバーをくらった。さすがに、そのままズルズルとトライを奪われるというような展開にまでは至らなかったが、攻めている最中に一気に状況をひっくり返されるターンオーバーは精神的にも肉体的にも大きなダメージとなる。

こうしたダメージの蓄積は特に精神面でチームの「勢い」の差になって現れる。後半の後半で帝京大学が2トライを追加し、突き放すことができたのはこの勢いの差だったと思う。

密集戦を戦い抜くためのフィジカルの強さはまた、モールの強さとセットプレー、特にスクラムの強さにもつながっている。スクラムを組み合う前の細かな駆け引きで、両チームともに反則を取られる場面が散見されたが、しっかりと組み合った際には常に帝京大学が明治スクラムを捲り上げていた。

またラインアウトからのモールで2本のトライを奪った。時に点差を詰められることはあっても、帝京大学にはどこか余裕が感じられたが、この余裕は、絶対的な優位に立てるプレーがあるという安心感がもたらしたものだったのだろう。

スタメン15人中10人が4年生

安定したセットプレー、強靭なフィジカルを前面に押し出した接点での優位性の保持継続、高本、小村というスピード、ステップワークともに優れたWTBの存在、山口という精度の高いプレースキッカー……、これらの特色は、レベルこそ違うものの、2023年W杯で栄冠をつかんだ南アフリカのチームカラーによく似ている。

現時点で、試合に勝つために最適なプレースタイルを体現するためのチームが見事に作り上げられ、優勝を果たした。指導体制が継続され、高校日本代表クラスの有望選手が多数入学し続けている現状を鑑みるとしばらく帝京大学の天下は続きそうな気配はある。

しかし、来季は早くも正念場を迎える。まず第一の問題は学生チームの宿命である選手の入れ替わりだ。

今回の決勝戦、スターティングメンバー15人中10人が4年生だった。当然来季はこの10人はいなくなる。特に8名中6名が4年生だったFWをどう鍛えていくのかが、来季の帝京大学の命運を左右する。場合によっては、今季の強み全てが発揮できなくなる可能性もある。

「打倒・帝京」を果たすためのチーム作りとは?

第二はライバルチームの進化だ。進化には二種類ある。

一つは帝京大学と同じようなプレースタイルで帝京大学を上回るチームを作り上げること。今回の雪辱を期す明治大学や京都産業大学、天理大学などの関西勢は、真っ向からのパワー勝負を挑んでいくことが予想される。

もう一つはスピードに特化したチームを作り上げることだ。今回の決勝戦、明治大学の最初のトライは、接点を全く作らず、オフロードパスを重ねてボールをつなぎまくり、テンポダウンすることなく、最後はスピードで帝京ディフェンスを振り切って挙げた。

デカい、強い肉体はスピードに欠けるというデメリットも持ちあわせている。帝京の弱点を見事に衝いたプレーだったが、残念ながら今季の明治大学はスピードに特化したチーム作りをしておらず、1本だけで終わってしまった。帝京大学のパワーをうまくかわして、スピードでトライを量産するチームの出現を是非とも望みたい。第一候補としては早稲田大学ということになるだろうか。

いずれの選択をするにせよ、帝京大学を脅かすようなチームは一朝一夕で作り上げられるものではないが、こうしたせめぎ合いこそが大学ラグビー全体のレベルの底上げにつながるし、ひいては日本代表チームの充実や画期的な戦法開発にもつながっていく。帝京大学の一強を許さない「戦国時代」の到来を期待したい。

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