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第50回全日本大学駅伝① 区間距離変更がもたらす影響とは

2018 10/26 07:00鰐淵恭市
ランナーたち
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前半偏重型から後半偏重型へ

大学駅伝日本一を決める「全日本大学駅伝対校選手権」は今年、50回目の節目を迎える。半世紀の歴史を数えるこの大会は、11月4日(日)に例年通り、名古屋・熱田神宮~三重・伊勢神宮のコースで行われるが、今年は大きな改革が行われた。8区間、106.8キロで行われることに変わりはないが、七つの区間で距離が変更された。そのことがレース戦略にどんな影響を及ぼすのだろうか。

まずは、これまでの区間距離と新しい区間距離を比較してみる。

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表の通り、最終8区以外は全て距離が変わっている。また、区間の距離を長い順に並べると次のようになる。

旧:8区、1区、4区、2区、6区、7区、5区、3区
新:8区、7区、6区、5区、3区、4区、2区、1区

一目瞭然だが、昨年までは前半に長い区間が多く、今年からの新区間では後半に多い。事実、旧区間では13キロ以上の区間が四つあったが、そのうち三つが前半の4区までにある前半偏重型だった。ところが、新区間では13キロ以上の区間は二つだけで、その二つが最後の2区間になる。また、12キロ以上でみると、後半の4区間だけになり、新区間は後半偏重型になっていると言える。

この変更がいかなる変化をもたらすのだろうか。

先行逃げ切りという定石は通用しない

駅伝の定石は先行逃げ切りだ。序盤にリードすることで、後半は自分たちの力を出すことができる。追い上げるチームはオーバーペースになりがちだから、本来の力が出せないままで終わる、というものだ。

この先行逃げ切りという形が最もはまるコースが、昨年までの全日本だった。前半4区間のうち3区間が長距離だったため、各校ともエースを前半に配置していた。最長区間は8区だが、そこまでで勝負の行方は決まっていることが多く、アンカーに必ずしもエースを置く必要がなかった。スタミナがあり、大崩れしないランナーの方が重宝されたのである。もちろん、アンカーでトップに躍り出た昨年の神奈川大のように逆転劇がないわけではないが、前半でおおよその勝負がつくことが多かった。

ところが、新しいコースではそうはいかない。

長い2区間は、7区の17.6キロと8区の19.7キロ。スタミナが要求される箱根の1区間を少しだけ短くした距離である。この2区間でタイム差がつきやすいため、力のある選手を配置しなければならない。とはいえ、前半を軽視して序盤で追う展開になると、終盤に配置した選手が力を発揮できない展開になってしまう。指揮官の思案のしどころである。

長距離勝負の関東とスピード勝負の関西 レース展開への期待

区間の距離変更で、勝負が後半までもつれる展開が予想されるため、これまでより面白いレースが見られそうである。

ただ、距離変更のメリットはこれだけではないと思う。

日本一を決める全日本の特徴は、全国各地の代表校が集まるレースであるということ。ただ、実力のある選手は箱根を目指して関東の大学に集中しており、関東の選手は箱根を走るため、20キロが走れる練習をこなしてくる。

一方、関東以外の選手はそんなに長い距離の練習はせずに、スピードを磨いてくる。通常はトラックの1万メートルぐらいが長い距離にあたる。

これまでの全日本では1区が2番目に長い14.6キロ、2区が4番目に長い13.2キロだった。これは関東以外の大学には酷だった。そこまで長い距離を走れる選手がいないだけに、序盤で関東に大差をつけられてしまう展開になりがちだった。

ところが新しい区間では、1区が最も短い9.5キロ、2区が2番目に短い11.1キロ。力のある関東以外の大学が、序盤から大差をつけられにくい区間変更になっている。もちろん、最終的には力の差が出て、かなりのタイム差がでるだろうが、少なくとも序盤でやる気を失うような展開にはなりにくいかもしれない。

その意味でも、50回目を迎える今年の全日本は今まで以上に面白いレースが期待できそうだ。(続く)