冨安健洋が加入した「ガナーズ」
開幕3連敗と不安定な立ち上がりを見せたものの復調し、現在プレミアリーグ5位にまで順位を上げてきたアーセナル。今シーズンから日本代表DF冨安健洋が加入して国内でも注目度が高まっているが、03-04シーズンを最後にプレミアリーグのタイトルから遠ざかっているのは周知の事実である。
近年では4位以内までに与えられるCL出場権獲得すら困難な状況が続いており、「ビッグ6」の冠を返上か?とも言われている。彼らの十数年の軌跡を辿ってみる。
「ガナーズ」の歴史を語る上で欠かすことのできない男が、現在はFIFAで要職を務めるアーセン・ベンゲルだろう。95年から名古屋グランパスで指揮を執ったことでもおなじみのフランス人はJリーグで成功を収めると96年10月、アーセナルの監督に就任した。当初は懐疑論もあったが、同氏は結果で周囲を黙らせる。就任直後の97-98シーズンはリーグとFA杯のダブルを達成した。
そんなベンゲルが能力を発揮したのが、才能ある若手を見出す目だ。「高価な選手だからと言って移籍先での活躍が保証されているわけではない。ワールドクラスの選手は自ら育てるのだ」と語る通り、当時主力を担ったパトリック・ヴィエラやエマニュエル・プティ、二コラ・アネルカらを破格の移籍金で獲得し、育て上げる手腕を見せた。
安く選手を釣り上げ、世界的な名手に育て上げるという経営的に見ても優しいやり方は、ストラスブール大学で経済学をを学んでいる経験が発揮されたと言えるだろう。
03-04シーズンに無敗優勝
数々の金の卵を一流に育て上げたベンゲルだが、その最高傑作と言えるのが、03年に開催されたU-17W杯でMVPと得点王を獲得し、全世界がその動向に注目していたスペイン代表MFセスク・ファブレガスだろう。
半ばバルセロナから強奪するような形で同選手を獲得し、秘蔵っ子として重宝した頃にはチームは黄金期を迎えており、03-04シーズンはプレミアリーグで無敗優勝という偉業を成し遂げる。王朝はどこまで続くのかと期待を持たせたが、風向きが変わったのもこのシーズンでもあった。
同じロンドンのチェルシーがアブラモヴィッチの手によって買収されるとプレミアリーグは「金のなる木」へと変貌。テレビ放映権料の高騰によるバブルで有力選手が次々に流入してくるようになった。もはや、期待値の高い若手選手をそろえるだけで太刀打ちすることはできないリーグへと一段レベルが上がったのだ。
さらにこの頃、クラブは収容人員の少ないハイバリーから本拠地を移転する計画をしていた。もちろん、さらなる入場料収入を見込んでのことだったが、結果的にはこのプロジェクトが彼らの足を引っ張ることになってしまう。
巨額のスタジアム建設費は2029年まで残る負債となり、財政を圧迫。他クラブが「爆買い」ブームの流れに乗って補強に巨額の資金を投下する中、ベンゲルは理想と緊縮財政を強いられるクラブ事情の中でのチーム運営という現実の中で板挟みになり、チームとともに神経を擦り減らせていった。毎シーズンのように続出するけが人もそれに輪をかけたと言っていいだろう。
もっとも、2011年からクラブの筆頭株主となり、実質的経営権を握っていたクロエンケも非難されるべきだろう。NFLロサンゼルス・ラムズのオーナーでもある同氏だが「ガナーズ」を商売道具としてしか見ておらず、予算の投下に消極的だった。これがシティやチェルシーとの差を決定的にした大きな要因だ。
やがて主力FWロビン・ファン・ペルシーや、MFサミル・ナスリまで売却せざるを得なくなり、戦力値を落としていく。ヴェンゲルとアーセナルにとってその晩年は非常につらいものとなってしまった。
スミス・ロウ、ウーデゴールらの活躍で復活の兆し
プレミアリーグはそれだけ厳しいリーグなのだ。130年以上の歴史を誇る同リーグで4連覇以上を成し遂げたチームは1チームもない。つまり、どんなチームも栄光と衰退を繰り返すということだ。ファンにとってはしばらく我慢の日々が続くかもしれないが、強いガナーズが帰ってくる兆しはある。
選手選考にも「フレンチコネクション」と言われるフランス人、もしくはリーグアンで活躍する無名のアフリカ人の補強といった名伯楽の影響が色濃く反映されているであろう戦略がしばらく続いていた。しかし、近年のチームはついに「ヴェンゲルの呪縛」から解放されたようなチーム編成となり、野心に満ち溢れたチーム構成となっている。
守護神のラムズデイルは3月に行われていたU21欧州選手権でイングランド代表としてゴールマウスを守るなど、日の出の勢いだ。さらに中盤には今季から10番を背負うスミス・ロウ、ノルウェーの未来を背負うウーデゴールとまだ20歳そこそこの選手が決定的な働きを見せ、チームをけん引している。もちろんエース、ラカゼットやDF冨安の働きも注目だ。
チームへの影響力が絶大なベンゲルの意向が反映された選手の獲得より、より現場の必要性に応じたピースを当てはめていくことこそ、復権への足掛かりとなるだろう。
まずはここ数シーズン遠ざかっているCLへの復帰、これは達成しなければならないミッションだ。
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