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復活狙うプレミアの古豪ニューカッスル、資金力による選手乱獲は混乱を招かないか

2021 11/15 11:00中島雅淑
ニューカッスルのエディ・ハウ監督,Ⓒゲッティイメージ
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Ⓒゲッティイメージズ

アラン・シアラーらタレント揃えた1990年代後半

そのクラブがイングランドの頂点に立ってからはや100年近くの年月が経とうとしている。ニューカッスル・ユナイテッド。同国北東部に本拠地を構え、熱狂的サポーターに支持される人気クラブだ。しかし、典型的な「古豪」に成り下がってしまった感は否めない。

92年からのプレミア創設時のメンバーには入れなかった「マグパイズ」であったが、90年代後半には、プレミアリーグ歴代最多得点記録保持者アラン・シアラーを筆頭に随所にタレントを揃えるチームに成長。特に95-96、96-97シーズンは連続2位でフィニッシュするなど当時覇権を独占していたマンチェスター・ユナイテッドとも激しく優勝争いを繰り広げた。

欧州カップ戦にも顔を出すなど、我々日本人にもなじみのあるクラブである彼らだったが、00年代前半を最後に上位争いより下位が指定席となりつつある。これには06年最大の得点源だったエース、シアラーの現役引退によるクラブそのものの求心力低下の影響もあるだろうが、プレミアリーグの環境変化が大きくかかわっている。

「オイルマネー」による環境の変化

03年、チェルシーがロシアの大富豪、ロマン・アブラモヴィッチによって買収され、それ以降いわゆる「オイルマネー」がプレミアリーグを席巻するようになってきたのだ。

チェルシーは強力な資金力を元に、次々とタレントを獲得。プレミアリーグやCLのタイトルを獲得し続け、一気にプレミアの盟主の座に上り詰めた。また、数年後にはマンチェスター・シティも、実質的経営権をUAEの投資家グループに譲渡し、後に続けと言わんばかりに選手獲得に大枚をはたくようになった。

現在のプレミアリーグは「黒船襲来」により、資金力を「持つ者」と「持たざる者」に完全に分断され、数年前レスターが起こしたような「おとぎ話」は起きないような世界へと変わってしまった。 

しかしながら、UEFAが定めるFFP(ファイナンシャル・フェア・プレー)により、過度にオーナーの資金に依存できないという制約が各クラブに課せられた。そんななかで欧州カップ戦の分配金やテレビ放映権料は各クラブとも是が非でも手にしたい「金のなる木」だ。各クラブは出場の有無により、来シーズンの選手獲得、選手への賃金支払いといった予算編成を行う。

他方、選手側にとっても昨今は所属クラブが欧州行き切符があるのかどうかが評価基準の重要なポイントとなっている。今やFIFAワールドカップをしのぐほど肥大化したCLは実質的に世界一の大会と言って差し支えない。ビッグイヤーの獲得はどの選手も喉から手が出るほど欲しい称号だ。リーグ戦しか参戦できないクラブに有能な選手が振り向いてくれることはそうそうないだろう。

プレミアリーグが非常に競争の厳しいリーグとなる過程で、北東の地方クラブは徐々に下降線をたどっていき、08-09シーズンには2部降格の憂き目に。1シーズンでプレミアの舞台に返り咲いたが、その後はかつてのような輝きを取り戻すことはできず、上位に食い込んだとしても暫定的で、すっかり残留争いをするのがおなじみとなってしまった。

サウジアラビアのファンドが買収も

そのニューカッスルがサウジアラビアのファンドグループに買収されたというニュースが飛び込んできたのが先日のこと。巷では大物選手を獲得して、一気にプレミアの上位進出へという気の早い話も出ているが、ここまで述べたように「負け癖」がついている彼らに振り向く「クラッキ」がいるとも思えないし、クラブに混乱を招くだけだ。

冬の移籍市場というのは、「応急処置」のような意味合いが強く、戦術を根幹から変えるような大型補強はかえって事態を悪化させることがある。

例に挙げた2クラブも成功の数だけ大物選手を短期間で放出してきている。選手を乱獲すれば強くなれる程、フットボールは単純なスポーツではない。

まずは要所に国内での経験値の高い選手を据え、じっくりとチーム作りをしていってはどうか。事態を急いてはサポーターも納得できないだろう。ファンも望む、強いマグパイズが帰ってくることを期待している。

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