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バイエルン・ミュンヘン10連覇はブンデスリーガを退屈にする

2021 10/10 18:00中島雅淑
レオン・ゴレツカ,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

スコント・リガの連覇ギネス記録

「スコント・リガ」というクラブを知っているだろうか。かつて、ラトビアのヴィルスリーガにて、国内リーグ14連覇という金字塔を打ち立てたチームである。

世界のサッカーシーンの最前線とも言われるヨーロッパの一国において、同一チームがここまでの長期間に渡り、リーグタイトルを牛耳るなど信じ難いことであるが、まだソ連から独立して日が浅い同国はUEFAランキング42位という立ち位置が示すように、リーグ自体が黎明期だ。何が起きても不思議はないだろう。しかしー。

強すぎるバイエルンがブンデスを破壊する

来年にはカタールW杯が開催されようという2021年後半、同じような現象が起きようとしている。それはサッカーというスポーツの魅力を奪う危険因子だ。何か手立てはないのだろうか。

現場となっているのは、イタリアとドイツ。共に4度のW杯を掲げ、数多の名選手を輩出してきた「サッカー大国」だ。

しかし、前者では一昨シーズンまで9季に渡り、「イタリアの貴婦人」がスクデットを独占し続けた。昨季、インテルがタイトル奪還し、「一党独裁」の時代にも終止符が打たれたが、さらに悪い状態に陥っているのが、ドイツ・ブンデスリーガだ。

この国では現在、バイエルン・ミュンヘンがこの世の春を謳歌している。

昨季までリーグ9連覇を達成。うち12試合で4得点以上を挙げるなど、国内での実力は抜きん出ており、この強大な力の前に「その他大勢」でしかない彼らはひれ伏すしかない状況だ。

国内では今や「優勝はこの絶対王者で決まり、クラブ経営のためにも、彼らとの戦いは半ば諦め、CL出場権争い、残留争いに全力を注ぐ」という動きも出てきている。

このような、17チーム+1のリーグ戦の構図が構築されつつある状況は、リーグ全体の魅力を削ぐことになり非常に危険だ。選手達からもバイエルン戦に対してネガティブなコメントが聞かれ、それがプレーにも表れているのではなかろうか。

ライバルチームから主力を「強奪」

サッカーはメンタル面が重要な要素だ。全てのゲームを見ているわけではないが、彼らも全てイニシアチブを握り、圧勝しているわけではない。しかし、勝てる試合、勝ち点を取れる試合をミスから落とし、この試合巧者に白星を供給している、というゲームは多いのだ。

「バイエルン」という見えないプレッシャーの前にいつものプレーができなくなった、「その些細な差」がシーズンの大勢を決することすらある。

「一人勝ちが決まっている」という点では彼らの移籍市場での動きも見逃せない。元々、ここ10年でCL決勝に3度進出、2回のビッグイヤーを獲得したクラブだ。魅力がないはずがなく、世界中から名だたるクラッキが集まってくる。

しかし、彼らの移籍マーケットの戦略は特徴的で一貫性がある。10-11シーズン終了後には現在も守護神としてゴールを守っているノイアーをシャルケから、同じく14年冬、絶対的エースのレバンドフスキをドルトムントから獲得した。

そう、最大のライバルチームから主力中の主力を引き抜くことにより、戦力強化だけでなく、ライバルの戦力弱体化も図ることができ、ますます国内で盤石の状態を築いていく。今季の陣容でも、ゴレツカはシャルケから、ウパメカノはライプチヒから「強奪」している選手だ。

現代サッカーの最高峰がCLである以上、それに毎シーズン出場どころか優勝も狙えるクラブに所属したいと考えるのは選手心理としては当然だ。しかし、リーグ全体を見渡せば、他人の畑を荒らすような、このやり方はドイツサッカー界全体に悪影響をもたらすだろう。

リーグ健全化のために

このクラブの存在がドイツサッカーの発展に大きく寄与してきたことは間違いない。歴代OBの名を挙げても、ゲルト・ミュラー、シュヴァルツェンベック、ベッケンバウアー、錚々たる面々だ。しかし、歴史を紐解くと同時期に必ず強大なライバルが存在していた。

70年代にはボルシアMG。バイエルン以外のリーグ3連覇は彼らのみでその歴史は燦然と輝く。90年代から00年代にかけてはドルトムントやブレーメンが鎬を削ったが、後者は2部降格の憂き目にあってしまった。

選手やクラブフロントの奮起はもちろん不可欠だが、「最後はバイエルンが笑う」と分かっているのに、どこにモチベーションを見い出せばいいのか。ファンも、移籍してしまうと分かっているのに金の卵に愛情を注げるのだろうか。

私はこの問題の解決のためには、ラ・リーガのように、サラリーキャップ制を導入するべきだと思う。

今季開幕前、リオネル・メッシがバルサを退団したことにより騒動となったが、あまりに多くのクラッキを保持することができなくなり、育成路線に舵を切らざるを得なくなるだろう。格差は縮まり、リーグ全体もフェアになる。

また、コロナによる収入減は多くのクラブに打撃をもたらした。UEFAは新たにカンファレンスリーグという大会を創設したが、問題は「それにすら出られない」いわゆるプロビンチャーレだ。

彼らは1試合1試合が非常に重要になってくる。上との戦力差が少しでも縮まればアップセットを起こすチャンス、ヨーロッパの大会に出るチャンスは広がる。

ドイツには「強い者が勝つのではない。勝った者が強いのだ」という格言がある。

それは資金力の有無に左右されない、純粋にピッチ上で行われる物語のことだと信じたい。バイエルン10連覇はブンデスを退屈にする。

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