メダル獲得の大チャンスだった東京五輪
東京五輪の男子サッカーU-24日本代表は、グループリーグを3連勝で突破するも、最終結果は4位に終わり、メダルに届かなかった。選手が優秀であるが故に目立たなかった森保一監督の力量が、2019年のアジア杯決勝や2020年の欧州遠征に続いて浮き彫りになった格好だ。
今回ホームの日本は、オーバーエイジで遠藤航(シュトゥットガルト)・酒井宏樹(浦和レッズ)・吉田麻也(サンプドリア)を招集。22歳でフル代表レギュラーの冨安健洋(ボローニャ)も加え、ほぼフル代表のメンツを揃えて強固な守備網を形成。1ヵ月以上の準備期間を経て、万全の状態で試合を迎えた。
他方、スペインのペドリ(バルセロナ)は公式戦やEUROに出ずっぱりだった。ブラジルのFWリシャルリソン(エバートン)やMFドウグラス・ルイス(アストン・ヴィラ)もコパ・アメリカに出場したばかりだ。本来なら休暇のバカンスに入っておかしくないはずが、五輪のために満身創痍のコンディションで東京入りした。
日本が4-0で圧勝したフランスは、スペインのように五輪のために選手を招集することを強制するルールがなかった。そのため絶対的エースと目されたFWエムバペ(パリPSG)の他、デンベレ(バルセロナ)やMFカマヴィンガ(レンヌ)ら多数の選手を招集できず、当初の想定に比べて2軍以下の戦力しか揃えられなかった。
無観客開催であったとはいえ、日本は自国開催で地の利があり、かつ強豪国の主力が不在または疲弊しているという大きなアドバンテージを得ていた。外的要因だけ見れば、スペインやブラジルに地力で劣っているといえど、メダルを獲得する千載一遇のチャンスだった。運が重なれば金メダルすら狙えた。
森保監督の良かった点は守備の整備、悪かった点は無策
グループリーグを3連勝で突破したのは、森保監督の功績だ。良かった点は守備の整備。4-2-3-1のフォーメーションで前線からの守備を整え、その上で個々の自主性を尊重したことで(無策とも言える)、攻撃陣が伸び伸びプレイできるようになった。これによって選手間の関係が深まり、久保建英(レアル・マドリード)と堂安律(PSVアイントホーフェン)を中心に得点シーンが複数生まれた。
一方、森保監督の悪いところは無策であることだ。これは森保監督の長年の悪癖で、対戦相手が日本の戦術に合わせて対策を立ててきたとき、それに対応しない(あるいはできない)。つまり、“後の先”の戦術を用意していない。これはフル代表での戦い方にも言える。
今回の戦いはテストマッチではない。結果重視の東京五輪だ。メダル獲得が至上命題だった。それにもかかわらず相手の日本対策に対抗しなかったことは、森保監督の無策の証左であり、決勝トーナメントで日本に悪影響を与えた。
メダル喪失の道はNZ戦から始まった
準々決勝のニュージーランドは、明らかに日本対策を敷いてきた。グループリーグを3連勝して勝ち上がってきた日本に対するリスペクトであり、最大限の警戒である。
ニュージーランドは5-3-2のフォーメーションで、遠藤と田中碧のボランチコンビ、そして吉田と冨安にプレッシャーをかけ、日本の生命線であるボール回しを機能不全に陥れた。累積警告で酒井が出場できなかったため、サイドで起点になれる選手を欠いたのも痛手だった。
ボール回しを諦めてロングパスを出したとしても、フル代表の大迫勇也(ヴィッセル神戸)やオナイウ阿道(トゥールーズFC)のように、前線でキープできる選手がいないのも痛手だった。
ニュージーランドは途中で5バックから4バックへ移行し、より攻撃的な姿勢も見せる。これも戦術がハマり、日本を苦しめた。
ニュージーランド戦の誤算は2つある。1つは、森保監督がニュージーランドの戦術に対抗する術を持たず、延長戦を含めて相手に120分付き合ってしまったこと。例えば中盤の1〜2人を後方のボール回しに追加参加させ、早期にボール回しの機能回復させる手立てもあった。早期に板倉を投入してフォーメーションに変化をつける手もあった。
しかし森保監督に具体的な策はなく、選手たちの疲労を蓄積させてしまった。
もう1つは、ニュージーランドが日本陣地でプレイする時間が長くなり、主力の1人である冨安が後半44分にイエローカードをもらう展開を誘発してしまったことだ。この2つの誤算がスペイン戦で尾を引いた。
スペイン戦の守備陣のガス欠は必然
8月3日に迎えた準決勝では、スペインに地力の差を見せつけられ、ボール支配率で負けるものの守備陣が粘る。そして時に久保や堂安が果敢に攻め上がる。得点して勝つチャンスは、少ないがあった。
しかし延長戦に入って森保監督の交代策は、久保と堂安のエース2枚替えというネガティブ・サプライズだった。スペイン紙や国内識者が「驚きだった」とオブラートに包んで表現しているが、あの場面でほぼ唯一機能していた攻撃のキーマン2人を交代させるのは不可解だったと言わざるを得ない。
堂安は「限界だった」と証言しているが、久保は縁深いスペインとの一戦に「150%出す」とやる気がみなぎっていた。たとえスタミナが落ちていたとしても、ペナルティエリア内で久保がボールを触れば何かが起きたかもしれない。ギリギリまで引っ張る選択肢もあったはずだが、森保監督はそれを放棄した。
森保監督のこの2枚替えの背景には、冨安不在も影響したと考えられる。冨安がイエローカードの累積警告でスペイン戦に出場できなかったことで、板倉滉(マンチェスター・シティ)をセンターバックで先発させるしかなく、遠藤と田中碧(デュッセルドルフ)もボランチで120分固定せざるを得なかった。
左右のサイドバックも酒井と中山雄太(PECズヴォレ)が安定し、フレッシュな選手を送り込むには攻撃陣に手をつけるしかなかった。結果、森保監督はカウンター狙いで攻撃陣を代えたというより、消去法を選択したように見える。
守備陣は奮闘したものの、2試合連続の延長戦、後半最後にアセンシオ(レアル・マドリード)の左足を止めるまで数秒のタイムラグができてしまった。結果論に過ぎないが、スペインが温存したオーバーエイジのアセンシオと、疲弊した日本の守備陣の間にゼロコンマ数秒の差が生じ、日本にとって悔しい決勝ゴールが生まれてしまった。もし冨安が先発できて、かつ板倉を温存して途中出場させられたら、結果は違ったかもしれない。
メキシコに完敗…最重要課題は森保監督の成長
日本はその後、3位決定戦でメキシコと再戦する。この日は、グループリーグで対戦した際にMOM級の働きを見せた遠藤が精彩を欠いた。遠藤のファウルでメキシコの1点目のPKを招き、続く2点目、3点目も遠藤がマークする相手に振り切られた結果によるものだ。
しかしながら、中2日で6試合走り続けて疲労困憊の遠藤を責めるのは酷な話だ。田中碧や不発だった久保と堂安にも同じことが言える。
後半こそ三苫薫(川崎フロンターレ)の奮闘で調子を上げたものの時すでに遅し。日本は1-3で敗北し、4位が確定する。
森保監督の数試合に続く無策に加え、対峙した各国監督の日本対策がボディーブローのように日本の選手たちを苦しめた。選手たちは監督レベルの攻防の犠牲者になり、森保監督に頼らず自分たちで試合を組み立てる余力が残されていなかった。
試合後のインタビューで森保監督は「この悔しさを糧に、選手たちには成長してもらいたい」と語っている。だが、選手たちの全体能力は過去最高と言って過言ではないレベルだった。外的要因とチームレベルを鑑みて、金メダルに届きうる可能性を秘めていた。
しかし、世界は甘くなかった。
サッカーは、2つの集団が複雑に絡み合うコンタクトスポーツだ。選手の能力や自主性に任せるだけでは限界があり、優秀な指揮官による全体調整が不可欠だ。あらためて、今回の東京五輪で男子サッカー日本代表がメダルに届かなかった責任は、戦術で対抗できなかった森保監督にあると主張したい。
東京五輪の結果を見て、日本サッカー協会が今後どのような判断を下すか分からない。引き続き森保監督がフル代表の指揮をとるならば、選手ではなく監督の戦術の成長こそが最重要課題だ。さもなくば、日本代表は同じ短期決戦のW杯で再び苦汁をなめるかもしれない。
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