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金満クラブの欧州スーパーリーグ構想、ファン軽視の収益最優先で崩壊

2021 4/29 06:00田村崇仁
ユベントスのクリスティアーノ・ロナウドⒸゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

レアルやマンUなど12クラブが参加表明

欧州サッカー界に激震が走っている。

屈指の名門ビッグクラブ、レアル・マドリード(スペイン)やマンチェスター・ユナイテッド(イングランド)など12チームによる「欧州スーパーリーグ」(ESL)の創設構想が4月18日に発表されたが、ファンや政界も巻き込んだ大騒動に発展し、わずか数日で事実上頓挫。「金満クラブ」の伝統やファンを軽視した収益最優先の新リーグ構想にレッドカードを突き付けられた形だ。

一方で前代未聞のドタバタ劇は新型コロナウイルスに揺れる欧州サッカー界が抱える肥大化したビジネスモデルの課題も浮き彫りにした。

発表数日でイングランド勢など大半撤退

今回参加を表明したのはイングランド・プレミアリーグのリバプールやアーセナルなど6クラブ、スペイン1部のレアルやバルセロナなど3クラブ、イタリア1部(セリエA)のユベントスやACミランなど3クラブという計12の人気クラブ。

欧州スーパーリーグ構想


それぞれ国内リーグは脱退せず、世界最高峰の欧州チャンピオンズリーグ(CL)に代わる大会として新リーグ構想を打ち出したが、世界的な人気選手を抱えた一部の「金満クラブ」に利益が集中する計画に、国際サッカー連盟(FIFA)や欧州サッカー連盟(UEFA)は参加クラブの選手をワールドカップ(W杯)など主催大会に出場禁止とする異例の声明を表明した。

この衝撃的な方針がショックを与えたのか、各方面で批判が殺到すると、一転してイングランド勢の全6クラブが4月20日、早くも撤退を表明。翌21日にはセリエAのインテル・ミラノとスペイン1部のアトレチコ・マドリードも不参加を決め、3カ国の12クラブが創設に合意した新リーグはドミノ倒しのように異例の崩壊劇となった。

米金融大手が出資、コロナ禍が引き金

世界的なビッグクラブを集めた新リーグ発足の動きは、20年前からたびたび取り沙汰されてきたが、今回は新型コロナウイルスの影響による欧州サッカー界の財政悪化が引き金となり、長年の改革案が具体化した。国内リーグの多くの試合が無観客で行われた打撃は大きく、今季は収入減から破産申請したクラブもある。

狙いは「取り分が少ない」と不満を抱えていたUEFA主催の欧州CLに代わる、人気クラブやスター選手が集結する新大会の創設だった。

英メディアによると、米金融大手JPモルガン・チェースが出資し、放送権とスポンサー収入は欧州CLの約2倍に当たる年間総額40億ユーロ(約5200億円)に上ると試算。UEFAの収益分配に改善を求めていた強豪クラブが大胆な「クーデター」を企てたが、一転して撤退が相次ぐと、資金源のJPモルガン・チェースも非難の対象になって4月23日に「サッカー界の受け止め、将来の影響について明らかに判断を誤った」との声明を発表した。

欧州の政界からも反発

今回の大騒動は政界にも及び、英BBC放送によると、英国のジョンソン首相は一部の有力クラブによる新リーグが「サッカー界に損害を与える」と表明。構想が実現すれば小さなクラブが弱体化し、経営が一層苦しくなるためだ。英政府は新リーグ参加クラブを対象に外国籍選手へのビザ発給の拒否も協議して圧力をかけた。

フランスのマクロン大統領も反対の声を上げ、イタリアのドラギ首相は「各国リーグでの競争を保護する必要がある」と懸念を表明。世論の目も厳しく、大手調査会社ユーガブによると英国のファンの8割が構想に反対した。

国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長も「欧州スポーツの既存モデルが脅かされている。全てをビジネスの観点から見ると、スポーツの社会的使命は失われる」と危機感を指摘。一気に外堀が埋まり、計画を推し進める道は事実上絶たれた。

構想の背景に米国人オーナーの経営方針

欧州スーパーリーグは20チームで争い、国内リーグに出場しながら10クラブが2組に分かれて対戦する構想で、2022年の開幕を目指す方針だった。しかし予想以上に強い反発が出た背景には、NBAやNFLなど米国プロスポーツ型の経営スタイルを取り入れようとした点にある。

こうした下部への降格がなく、経営リスクの少ない構想を主導したのがイングランドの名門マンチェスター・ユナイテッドやリバプールの米国人オーナーとされる。今回参加を一時表明したイングランド勢6クラブのうち、半分の3クラブは米国人がオーナーを務める。

ピラミッド式のリーグ戦を中心とする欧州のサッカー文化の伝統を軽視し、地元サポーターよりテレビ視聴する世界のファンを意識した姿勢も反発を招いた形だ。

スペイン・リーグのテバス会長は地元メディアに、創設に合意した12クラブの大半が撤退を表明した欧州スーパーリーグ構想について「現実的には消滅した」と白紙に戻った認識を示した。一方、市場規模の肥大化したサッカービジネスでファンを守りつつ、コロナ禍で直面した収益をどう生み出していくか課題は尽きない。

レアル・マドリードのペレス会長は地元メディアに「これは金持ちのためのリーグではなく、サッカーを救うためのリーグだ」と表明した。世界中のファンに見てもらえる魅力的なコンテンツをどう生み出していくか。名門クラブのオーナーが仕掛けた新リーグ構想の綱引きは、水面下で今後も続きそうだ。

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