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久保建英の打開策は?天才の覚醒を阻む指揮官の采配と契約の壁

2020 12/3 11:00KENTA
ビジャレアルの久保建英Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

飼い殺される悲しい現実

日本サッカー界の期待を一身に背負う19歳の日本代表MF久保建英。彼の名を日本のサッカーメディアで聞かない日はない。

現在の苦境は様々な論調で報じられているが、所属するスペイン・ビジャレアルと日本代表の試合を観て確信したのは、久保建英は指揮官の悲しい采配とチーム事情により、完全に飼い殺されているという現実だ。

久保建英の持つ日本サッカー史上屈指の才能

まずは久保の特徴を目立つものと目立たないものに分けて整理しておこう。目立つものとしては、左足での正確なコントロール、相手の逆を取る鋭いドリブル突破、守備時に露見するコンタクトの弱さが挙げられる。

目立たない部分ではパスを受ける前の巧みなポジショニングや周囲の状況の認知、パスを出す前の選択肢の多さ、相手の攻撃の狙いを消すプレッシング時の走り、ピッチで起こりそうな景色を先に見る能力、ゲームを読む力などだろう。

久保の才能は目立たない部分にこそあり、サッカーIQの塊と言っても過言ではない。

久保を活かさない「即興劇団」森保JAPAN

久保は10月と11月の日本代表のヨーロッパ遠征に召集され、4試合に出場した。コロナ禍とJリーグの日程の関係でヨーロッパでプレーする選手のみでの構成という今までにない異質なチームだったが、そこでも彼の才能が突出していたことに変わりはない。

しかし、日本代表は2019年のアジアカップ決勝で新興勢力のカタールに敗れて以降、森保一監督の準備力、試合中の修正力、選手の適材適所に関してほとんど改善がみられない。

スコアレスドローに終わったカメルーンとの第1戦。日本は攻撃と守備の狙いが共有されておらず、前半は何がしたいのか全くわからなかった。後半途中から右サイドで出場した久保は、得意とする中央のスペースへのパスコースが空かず、相手のプレッシャーを受けて蹴り捨てることが多かった。

パナマとの対戦となった第3戦でも同じ課題を露呈。押し込まれて守備の時間が増えたため、左シャドーの久保はなかなか自分の特徴を発揮できなかった。日本代表は積み上げることなく、同じミスを繰り返した。まるで同じ展開の即興劇を見ているようだった。

戦術家・エメリ監督の非戦術的采配

ビジャレアルは12月1日現在、スペインリーグで11試合を終え、暫定ながら3位につけているが、エメリ監督はこのところ久保の特徴を完全無視する起用をしている。

4-4-2の左サイドハーフで起用されている久保は本来、右サイドから中へのカットインが得意。期待される縦突破は得意ではないため中へ切れ込む選択肢が多くなるが、そうするとボールを右足に持ち変えてからか左足アウトサイドでラストパスを出すしかない。日本代表、ビジャレアルともに左サイドで起用された際は、非常に窮屈そうにプレーしている。

また、久保の特徴としてペナルティーエリア内への意識の低さがある。エメリ監督はサイドからのクロスに飛び込む動きをサイドハーフに求めるが、久保はペナルティーエリア前方中央のスペース、日本ではバイタルエリアと呼ばれるスペースに走り込むことが多い。

ディフェンダーがケアしづらいこのスペースに入るのは、体格的にフィジカル勝負では分の悪い久保でもパスやこぼれ球を受けてゴールを奪える確率が高いからだ。つまり指揮官が求める戦術的な動きと久保自身が考えた解決策がことごとく噛み合っていないのだ。

ポジションを争うチュクウェゼは2023年まで契約

さらに契約の問題も不利に働いている。

久保と右サイドのポジションを争うチュクウェゼは、21歳のナイジェリア代表のアタッカー。ビジャレアルのアカデミーからトップ昇格し、2023年までの契約がある。試合経験を積ませて成長すれば選手としての価値が上がり、売ればクラブには移籍金が入る。

対する久保は、レアルマドリードから買い取りできない規定でのレンタル加入で、今シーズンまでの契約だ。試合に出して育ててもビジャレアルにメリットはほとんどない。

復活への道筋はヨーロッパリーグ

では日本屈指の才能はスペインでも代表でも、飼い殺されたまま今シーズンを終えてしまうのか?

久保に今最も求められているのは、右サイドや中央でスタメン起用されることもあるヨーロッパリーグでの結果だ。エメリ監督はスペインリーグとヨーロッパリーグではメンバーを入れ替える傾向にあり、ヨーロッパリーグに出るメンバーとより円滑な連携を構築したい。

トップ下で使われたときはリーグ戦でも威力を発揮している。9月2日のソシエダ戦では久保がプレスの先鋒となり、連動した守備を促して相手のミスを誘発させ、得点の起点になった。

加えて契約の問題をクリアすることだろう。ビジャレアルでより成長するためには早々のレンタル期間延長は必須だ。

しっかりしたチーム戦術の中であれば、周りを活かし、周りに活かされ、チームを勝利へ導ける才能を持つ久保。きっかけひとつで一気に覚醒する可能性を秘めていることだけは間違いない。

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