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J1優勝をもたらしたCFGの横浜FM変革はJリーグにも変革をもたらすか

2019 12/13 11:00中山亮
サッカーイメージ画像
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ⒸSPAIA

横浜F・マリノスとシティ・フットボール・グループ

J1最終節の前日、マンチェスター・シティの日本語公式ツイッターアカウントがある動画を投稿した。その動画とは横浜FMに向けてのもの。

横浜FMのプレー映像に加え、マンチェスター・シティ所属のイルカイ・ギュンドアン、バンジャマン・メンディ、リヤド・マフレズ、さらにニューヨーク・シティFC(アメリカ)、メルボルン・シティFC(オーストラリア)、CAトルケ(ウルグアイ)、ジローナFC(スペイン)、四川九牛(中国)に所属する選手などからFC東京との最終決戦に向けての応援メッセージが加えられていた。

これらのクラブは全てシティ・フットボール・グループ(CFG)が所有するクラブである。

横浜FMとCFG。両者の関係は2014年5月、日産自動車が保有する横浜FMの株式のうち19.95%をマンチェスター・シティの持株会社であるCFGが取得したことに始まる。Jリーグ史上初となる資本提携を伴う海外企業との提携である。(その後日本法人シティ・フットボール・ジャパンを設立)

これにより横浜FMはマンチェスター・シティを筆頭に世界中にフットボールクラブを保有するCFGの一員に。CFGのトレーニング方式、メディカルケア、スポーツサイエンス、チームマネジメント、コーチングのノウハウが横浜FMに持ち込まれることになったのである。

CFGが行ったクラブ改革

CFGと提携することになった横浜FMだが、2015年7位、2016年10位、2017年5位、昨年12位とすぐにチームの成績が上向いたわけではなかった。

それでもチーム内では着実にチーム改革が行われていた。

まずCFGが呼び寄せたのはこれまで主にフランスサッカー協会で仕事をしてきたエリク・モンバエルツ監督。彼が行ったのはヨーロッパで主流となっている戦術のスタンダードをチームに浸透させること。

司令塔を中心とした局面で行うサッカーから、グループで優位性を作ろうとする盤面で行うサッカーへ変化させようとしたのだ。現在のアンジェ・ポステコグルー監督によるアタッキングフットボールのベースになっているのは間違いなくモンバエルツ監督が持ち込んだこの欧州のスタンダードである。

とはいえ改革には当然痛みが伴う。素晴らしい選手ではあるが、新しい戦い方に適合できない選手も横浜FMにはいたからだ。かつての中心選手がチームを去ることでサポーターの反発も受けることもあったが、クラブは進むべき方向を明確にし決して折れることはなかった。ブレずに進むことで今季ついにサポーターを納得させる結果を残したのだ。

大きく変化した補強戦略

CFGと提携したことによる最もわかりやすい変化は選手補強面だろう。

日本サッカー界はまだ決して広く開かれた世界ではない。そのため補強戦略でもクラブや強化を担当する人間などの個人の人脈に依存している。

例えば浦和の外国人選手の多くはクラブOBであるロブソン・ポンテがテクニカルディレクターを務めるポルティモネンセから加入しており、C大阪の外国人選手はGMを務めた大熊清がFC東京の強化部だったときに獲得したジャーンが代理人を務める選手がほとんどである。

しかしCFGでは世界中に所有するクラブを使ったネットワークを使い、選手個々人の情報をグループで共有。最終的に交渉するのは代理人だが、クラブの戦い方に適合する選手をクラブが直接見極め交渉へと進捗するのである。

そのため今季加入した選手の顔ぶれも、エジガル・ジュニオ、エリキ、マルコス・ジュニオール、マテウス、ティーラトン、朴一圭、広瀬陸斗と国内外問わず幅広い。加入した選手がすぐに活躍することも多かった。CFGのネットワークをもとに選手の有名・無名に関わらず必要なポジションに必要な能力を持つ選手を直接ピックアップするため、補強の精度が大きく上がったのだ。

CFGが持つ情報網の広さと精度については2018年の板倉滉、2019年の食野亮太郎がマンチェスター・シティに移籍したことで日本でも知られるようになった。移籍した時点では2人とも日本代表に選ばれたこともなく、さらに食野にいたってはシーズン開幕時点ではJ3でプレーしていた選手だったのだ。

Jリーグに世界基準を持ち込む横浜FM

横浜FMが優勝を決めた直後にエティハド・スタジアムで行われたマンチェスター・シティ対マンチェスター・ユナイテッドの試合で、横浜FMの優勝を祝うメッセージがピッチを囲むLED看板に掲出されていた。

圧倒的な情報とノウハウを持った多国籍グループの一員として変革を遂げた横浜FMに、他のJリーグクラブはどのように対抗していくのか。今回の優勝はJリーグにとって大きな分岐点となるかもしれない。