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J3テゲバジャーロ宮崎の躍進を密かに喜ぶ?J2の降格危機クラブ

2021 11/21 06:00KENTA
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にわかに脚光浴びる地方のスモールクラブ

J2残留争いで苦しむチームに奇跡が起こるかもしれない。

今シーズンのJ2はコロナ禍の特例により通常の倍の4チームが自動降格するという史上最も過酷な残留争いとなっている。しかしJ2が残り3節となった今、降格圏をさまよう約8チームが揃って応援する救世主が現れた。J3参入初年度ながら残り3節となったJ3で現在首位に立つテゲバジャーロ宮崎だ。

残留ルールの抜け道

なぜ彼らがJ2残留争い勢の希望なのか。それは今シーズンのJリーグの規定の「救済措置」が関係しているからだ。

今シーズンのJ3大会概要によると、「J3における年間順位の上位2クラブのうちJリーグクラブライセンスの交付判定を受けていないJ3クラブがあった場合は(中略)当該J3クラブはJ2に昇格できない。この場合においてJ3における年間順位3位以下のJ3クラブがJ2に昇格することはない。上記に該当するJ3クラブが1クラブの場合、J2の年間順位19位のJ2クラブは降格しない」とある。

2021年11月現在、テゲバジャーロ宮崎はJ2ライセンスを交付されないことが決定している。つまり宮崎がJ3の2位以内でフィニッシュすれば、J2の19位でフィニッシュしたチームはJ3降格を免れるということになる。J3への自動降格チーム数4が3に減少するという残留ルールの抜け道、裏技が発動するのだ。

J2は39節終了時点で19位・ギラヴァンツ北九州、20位・SC相模原、21位・愛媛FC、22位・松本山雅FCとなっている。自軍の勝利を目指すのはもちろん、宮崎の勝敗も気になるところだろう。

大躍進を支える宮崎流ポジショナルプレー

J2残留争い勢の「救世主」テゲバジャーロ宮崎はなぜJ3参入初年度で大躍進できているのだろうか?その秘密は宮崎が取り組んでいるポジショナルプレーにある。

宮崎のスタイルはデータによく表れている。攻撃回数はJ3全15チームで15位(最下位)と少ない。しかしシュート数は1試合平均14.7本で2位、チャンス構築率12.7%で1位、ゴール数1試合平均1.6点で2位、被攻撃回数1位(最も攻撃を受けていない)、被チャンス構築率9.6%で5位、1試合平均の被ゴール数1.1ゴールで4位。

「攻撃の際にどれだけ相手ゴールに近づけたか」をあらわすAGIという数値は14位(下から2番目)。これは相手ゴールに近い位置でボールを持っていた時間が長い、もしくは攻撃が始まってから相手ペナルティエリアまで到達する時間が短い方が数値が高くなるようになっている。

つまり宮崎はボールを自分たちで保持する時間を長くし、効率のいい攻撃と守備ができていることになる。昨シーズンJ2を制覇した徳島ヴォルティスや、今シーズンのJ1の浦和レッズ、サガン鳥栖、J2のアルビレックス新潟や町田ゼルビアなどボールポゼッションが上手くいっているチームの特徴と酷似している。

「配置」へのこだわり

テゲバジャーロ宮崎は基本布陣4-4-2で守備を行うが、攻撃時はここからフォーメーションが変形する。ダブルボランチの片方が1つポジションを下げ、サイドバックが上がって3-1-4-2のような形へ変わる「可変システム」という戦術を使う。

宮崎の試合をチェックしていて気付かされたのは、彼らはちゃんと相手を見てサッカーをしているということだ。特に攻撃時。相手と自分たちの配置を観察してどこにも優位性がないと判断したら、攻め急がずにGKやCBまでボールを戻してやり直す。そしてボールを動かして相手に綻びが生まれたのを見逃さず、全員で共有し、攻め込む。

宮崎はJ3の中でも予算の少ないスモールクラブ。市場評価の高い選手を獲得しづらいなかで戦う必要がある。そのため「質」をカバーするための「配置」へのこだわりを強く感じる。サッカーでは、選手のポジショニングを整理することによってそのポジションで出すべき技術がハッキリするからだ。

そこを徹底的に突き詰めているように見える。その中で選手が迷いなくプレーし、技術を発揮。ダブルボランチの前田椋介や千布一輝はこの宮崎流ポジショナルプレーで躍動している選手たちだ。J2中位までのチームならなんなく蹴散らしてしまいそうな力さえある。

必然の奇跡

実際のところ宮崎が2位以内フィニッシュできる可能性はどれだけあるのだろうか。

私はその可能性は非常に高いと考える。まずプレッシャーがないことは大きい。昇降格が関係ないため選手や監督はのびのびチャレンジできるだろう。

そしてなにより自分たちで相手とボールをコントロールできる戦術を持っている。どんな相手とどんな条件で対戦しようが関係なく勝ち癖がついているのは強力なメリットだ。

第24節で福島ユナイテッドに敗れ連勝は5でストップしたが、その次の藤枝MYFC戦には引き分けて勝ち点を獲得、さらにその次のカマタマーレ讃岐戦には危なげなく勝利して2位をキープ、直近のFC岐阜には4-3で逞しく打ち勝った。

残る2試合の相手はシーズン前半戦で倒したカターレ富山とロアッソ熊本。3位のいわてグルージャ盛岡は宮崎より1試合多く残すが勝ち点差は4のため1勝では埋まらない。

全J2残留争い勢が応援するテゲバジャーロ宮崎。そしてそのホームゲームを映したテレビ画面には、サッカーファンなら誰もが思わず応援したくなるような光景が広がっている。

スタジアムの奥には特撮ヒーローの戦闘シーンに使われるような更地。ゴール裏には座席はなく、ピクニックのように芝生にサポーターがシートを広げて座る。専用の中継室がないのか、カメラマンは建物の屋上に登って吹きさらしの中でカメラを握る。

昨シーズンまで監督をしていた倉石コーチはS級ライセンスをもっておらずプロチームでの監督はできないため、今シーズンは内藤コーチが昇格して監督を務め倉石コーチはヘッドコーチとなるなどスモールクラブ特有の苦労の痕が滲む。

それでも、彼らは知略で勝つ。サッカーの原風景の中で戦う田舎のクラブがJ2クラブを救うという奇跡が起こるまで、残るはあと3試合だ。

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