阿部勇樹が引退、槙野智章と宇賀神友弥は退団
浦和レッズに激震が走っている。14日に元日本代表MF阿部勇樹が今季限りでの現役引退を発表。さらにはDF槙野智章が今季限りでクラブを離れ、MF宇賀神友弥もこれに続くこととなった。これまでチームの大黒柱だった選手の退団は、このクラブの不確かな未来を暗示しているかのようだ。
2019年がJ1リーグ14位、2020年が同10位と2シーズン連続で下位に低迷したこともあり、今季は徳島で実績を残したリカルド・ロドリゲス監督を招聘。タイトル獲得を目指したが、開幕直後から難しいかじ取りを強いられることになった。
その一つがゲームメーカー、MF柏木陽介の移籍だ。日本代表経験もある男は規律違反によって退団を余儀なくされ、J3の舞台へ去った。これは戦力的に大きな痛手だった。
さらに絶対的エース興梠慎三が度重なる負傷のため戦線離脱を繰り返し、ここまで1ゴールと極度の不振にあえいでいる。9年連続J1で2ケタ得点を挙げている男の離脱はキャスパー・ユンカーを獲得しても完全に埋まったとは言い難いだろう。
6月には仏・マルセイユから日本代表として、また海外クラブでも確たる地位を築く実力派DF酒井宏樹を獲得。経験の還元が期待されたが今シーズンは川崎の独走を許してしまい、レッズはまたしても無冠、ACL出場権の3位以内確保に望みをかけるシーズン残り3試合という状況になってしまった。
コロナによる収入減が影響?
現在のチームはベテランへの依存と下からの突き上げがないことが課題であることを浮き彫りにしたシーズンだったと言えるだろう。話題となった3選手の退団から、漏れ聞こえてくるのは「世代交代」をテーマにチーム作りに着手する方針であることだが、現状は前途多難だ。
過去5シーズン、浦和ユースからトップチームに上がった選手を見てみると、ほとんどの選手がレンタルに出されている。現在トップチームに所属しているのはGK鈴木彩艶とDF福島竜弥らわずかしかいない。もちろん、試合経験を積ませるために出場機会を得られるクラブでプレーすることは大事だが、5年単位で見てもトップチームに帯同できる実力を持った選手はいないということは、ユースチームの質の低下が見え隠れする。
とはいえ、これには同情を禁じ得ない。まず、コロナウイルスによる観客制限により、入場料収入が大幅に減ったことだ。同クラブは19年のデータで入場料収入は23億円を計上しており、これはJ1クラブで断トツのトップだ。もちろん、コロナの影響がなかった時の話だが、これだけの大きな収入が激減するとクラブ経営に多大な影響を与える。
育成組織の運営に予算を投じられなくなることは容易に想像がつく。まずトップチーム、というのは当然の考えであり、下部組織は決められた範囲内での活動を余儀なくされる。タレントが小粒になってしまったことと決して無関係ではないだろう。
高校の下部組織と「金の卵」奪い合い
さらに若年層を取り巻く育成の環境も、昔とは大きく変わっている。
かつては高体連とユースは分離独立した組織で、双方がいいところを持っていたが、Jリーグ発足後以降はユースに所属し、トップチームに上がることこそが最良と考えられていた。しかし、昨今の少子化の影響もあり、今や才能ある子供たちは「取り合い」である。高体連のチームも決して手をこまねいているわけではない。
筆者が初めてこの話を聞いたのは高校サッカー選手権で2年連続ベスト4の快進撃を見せている新潟の帝京長岡高校だ。今や高校にも彼らを若年層から鍛え上げる実質的なユースチームのような組織が存在し、中高6年間、同じ仲間、同じ指導方針で強化を図ることにより、こうして大舞台での結果が得られるという話だった。
かつてはサッカー不毛の地とも揶揄された新潟県だが、「長岡ジュニアユースフットボールクラブ」は地元長岡のレベルアップのために創設された。当初は中学生年代のクラブチームだったが、すぐに高円宮杯県決勝進出など結果を出すようになり、クラブもNPO法人格を取得。今やU-6、U-12まで拡大し、多くの選手に「サッカーを楽しむ」ことを基本として世界に通用する選手を育成するため活動している。
こうした育成組織は各地にあり、3年連続で選手権8強以上に進出するなど、新興勢力として勢いのある埼玉の昌平高校は9年前から「下部組織」の位置づけとなるクラブ、LA VIDAを始動。同校と昌平中学校が主な活動拠点だ。県内では着実に力をつけており、現在はU-13、U-15の年代で強化を進めている。成果は着実に上がっており、同校からプロ入りしたほぼ全員がこのクラブの出身者という。
ユース出身の鈴木彩艶が台頭
今はユースに優秀な若手選手を所属させることすら困難な時代となりつつある。逆に言えば、トップが強くなければそのクラブのユースチームに人材は集まらないのも当然の話だ。
しかし、ある意味「停滞」の象徴となってしまっているベテランにも意地がある。彼らがそう簡単にポジションを明け渡すことはないだろう。
ルヴァンカップではGK鈴木彩艶が9試合に出場、ニューヒーロー賞を獲得し、世代交代を予感させたが、このポジションは非常に難しい。「継続して安定したパフォーマンスを披露できるか」という点において、やはりまだ日本代表で数々の死線を乗り越えてきたベテラン西川周作には及ばない。一時期レギュラーポジションをつかみかけた同選手も、現在は2番手GKとして研鑽を積む日々が続いている。
このほかにも現在、多くの若手選手がレンタル移籍により他クラブで経験を積んでいるが、いつまでもベテランの後塵を拝していては新しい時代は来ない。J屈指の人気クラブもステージ優勝を除けば最後にリーグ制覇したのは実に15年前。その領域に辿り着くにはベテランを凌駕する若手の台頭が不可欠だ。
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