J1で初の6連勝「記録にも記憶にも残るシーズン」
今シーズンのJリーグで旋風を起こしているのが九州勢だ。現在J2で4位につける長崎は、最後まで自動昇格の可能性を信じ、頭一つ抜け出している磐田、京都の2強を追う。
J3では、今シーズンより参戦した宮崎が好調だ。実績あるチームを向こうに回し、昇格圏内の2位につけるサプライズを提供している。彼らにはJ2ライセンスがないため、来シーズンもJ3で戦わなければならないが、大きな可能性を感じさせてくれるシーズンとなった。
しかし、彼らよりもホットな1年を過ごしたのは96年からJに参加している九州最古参クラブ、アビスパ福岡だろう。彼らは前節残留を確定、クラブ史上最高の勝ち点を稼ぎ出すなど「5年周期」と呼ばれた呪いからついに解き放たれている。
クラブの歴史は、ここまで決して華やかなものではなかった。これまで4度のJ2降格を喫するなど「エレベータークラブ」のイメージは定着している。今季も「降格候補最右翼」というのが大方の予想だった。しかし…。
前述の勝ち点記録や「J1で初の6連勝」「初の一桁順位フィニッシュ目前」など、この2021年は福岡にとって数々の記録が樹立された、まさに「記録にも記憶にも残るシーズン」なのだ(まだ一桁順位は確定していない)。
フロンターレに唯一の黒星つけた守備戦術
出だしは低調であった。開幕3試合、白星はなし。「またか…」県民、サポーターが疑心暗鬼になる中、しかし、4節で初勝利を挙げると翌5節では鹿島を撃破した。
実は過去の対戦成績で1勝のみと圧倒的に分が悪い相手だった。この勝利によって何かが弾けたのだろう。鹿島に対してはシーズンダブルを達成するおまけ付きだ。
彼らの大物食いは終わらない。26節の川崎戦では、前年王者に唯一の黒星をつけるなど、もはやこれまでの白星供給クラブというイメージは払拭されつつある。
急に別のチームに生まれ変わったように躍動する福岡の好調の秘密はどこにあるのか。注目したいのは「チーム走行距離」の平均値だ。
彼らの数値は20チーム中最下位。走行距離が少ないことをポゼッション型のサッカーと同義語で捉えている人もいるかもしれないが、それは違う。ボールを握りながらゲームを進めるにも、「無駄走り」と言われるスペースを作る動きやボールロスト時の備えなど、一定の運動量は必要だ。
ほとんどのゲームで相手にボールを支配される苦しいゲームが続くが、「割り切って」自分たちの守備戦術にはめ込み、一瞬のチャンスで仕留める。その戦いで多くの勝ち星を挙げている。
もちろん、スカウティングは欠かせない。現在チームの指揮を執るのは2シーズン目を迎えた長谷部茂利監督。理論派と言われる同監督には勝利への道標が見えているかのようだ。
大型補強を出来ないクラブ編成の都合もあるが、32節終了時点で34失点と守備陣が踏ん張っていることが大崩れしていない要因だろう。後ろからチーム作りを進めるのは定石だ。
また、シーズン途中から加入したカメルーン代表FWジョン・マリら発掘した選手が活躍。攻守での補強策がうまくハマったということも言えるだろう。
ジョン・マリ、金森健志、城後寿ら多士済々
とはいえ、今のチームはそうした“外様”の寄せ集めではない。要所は開幕前に鳥栖からチームに復帰したMF金森健志、アビスパの天国も地獄も見てきたアビスパ一筋のベテラン城後寿ら、体にネイビーの血が流れる選手で構成されている。
まさに多士済々。この陣容を煮詰めて行くことが強化への近道だろう。
前述したように6連勝や過去最高勝ち点がニュースになるというのは、昔からJ1に参入しているクラブにしては残念だ。しかし、Jリーグはまだ開幕から30年経っておらず、今まで主役を演じられなかったクラブがこれからの主役に躍り出る可能性は十分にある。
元々九州は高校サッカーを原点とし、激戦区と呼ばれた地域だった。現在すべての県にJクラブが存在していることがその証だ。しかし、J発足では遅れを取り、次第に高校年代の強化でも苦戦を強いられるようになった。
現時点でまだアビスパが優勝できる戦力を有していると言うことはできない。しかし、今季の彼らの戦いはこれまでのイメージを覆すものであったし、九州サッカー界のブラッシュアップにつながる。
近い将来、きっと九州からJリーグ王者が誕生することだろう。そのチームはアビスパ福岡ではないだろうか。
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