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バナナにドリルに相撲部屋?フロンターレが川崎市民に愛される理由

2021 10/13 06:00中島雅淑
川崎フロンターレ,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

天野春果氏が次々に斬新企画

「赤星鷹がフロンターレに?」そんなインターネットの記事を見つけたのは先日のことである。

実はこれ、2013年に川崎フロンターレのホームゲームで行われたイベント「闘A!まんがまつり」での一コマなのだが、赤星鷹と言えば、塀内夏子氏の人気サッカー漫画「Jドリーム」の主人公。この世界では有名なクラッキだ。

等々力競技場前広場、通称「フロンパーク」では、このように一風変わったイベントが企画されており、それもファンサポーターを楽しませる目玉となっているが、イベントを企画している名物GMこそ、天野春果氏(現タウンコミュニケーション部部長)だ。この20年、フロンターレの成長において、同氏が果たした功績は計り知れない。

前記の「まんがまつり」の企画は塀内氏が川崎市出身という縁から生まれた。元々「オフサイド」という高校サッカーを題材にした作品では川崎の高校が舞台になっているくらいである。天野氏がコンタクトを取り、当時まだJ2にいたチームを「応援してほしい」と依頼すると、塀内氏は快諾。03年頃からは、選手たちのアニメイラスト提供がサポーターの間ではすっかりおなじみになった。

閑古鳥が鳴いていたフロンターレ

当時はJ2ということもあり、スタジアムには3000人程度しか観衆が入らないということもままあった。この異業種の提携が功を奏したかは分からないが、スタジアムに閑古鳥が鳴くような状態だった当時から現在の黄金時代に至るまで、チームは大きな転換点を迎える。

まずは04年のJ1復帰だ。神奈川県において横浜Fマリノス、湘南、あるいは横浜FCより後発とまだ見られていたチームはここから強豪の仲間入りを果たす。復帰直後の06年にリーグ2位に食い込むと、07年5位、08年2位と、毎シーズン優勝争いをできる力があることを証明。多くのサッカーファンが川崎の実力を目の当たりにした。

特に、03年に加入した中村憲剛、ジュニーニョ、我那覇和樹らは長くフロンターレサッカーの軸となり、今のチームの骨格を作り上げた。

勝利が積み重なれば、サポーターもスタジアムに足を運ぶ。当時のチームは全てが好循環で回っていた。

強いチームと相乗効果

しかし、ここからが本領発揮である。元々天野氏はワシントン州立大学でスポーツビジネスを学んでおり、さらにアトランタ五輪にはボランティアで、日韓W杯、東京五輪には川崎からの出向という形で携わっているという異色の経歴の持ち主だ。アメリカはスポーツビジネスのいわば本場だ。

決まりきった固定観念からしかモノを生み出せない「日本的な発想」と違い、次々とユニークなアイディアを考えつく源泉は、この過去の経験にあるのだろう。

例えば、川崎市教育委員会と協力して作った算数ドリルやスペシャルサプライヤー「ドール」協力のもと、バナナを一房買うと3円がクラブに寄付され、スタジアム改修費用に充てられるというもの、「イッツアスモウワールド」と題した、川崎市の中川部屋との交流イベントなど、実に多岐にわたる。

根底にあるのは、Jリーグが掲げる基本理念である「地域密着」。常に地域の声を拾い、多角度にアンテナを張っているから色々な企画を生み出せる。これも、過去の経験が糧となっているだろう。

ピッチの上でも結果を出し続けるフロンターレだが、このように様々な仕掛けがあり、「多くの人が次もまたスタジアムに行きたいと思えるクラブ」となっている。簡単なようで、これが一番難しい。

様々な有料放送等でいつでもサッカーの試合を見られるようになった時代。スタジアムに足を運んでもらうためには、ただ「強い」だけでは物足りないということか。

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