常勝チームを作る難しさ
かつて極めた栄華は幻だったのか。ジュビロ磐田は2013年のクラブ史上初の降格以来、2度目となるJ2のシーズンを戦っている。
今の若い人達にはピンとこないかもしれないが、1990年代後半から、2000年代初頭にかけて、このサックスブルーの強さは際立っていた。毎シーズンのように、鹿島か磐田の両雄が覇権を握り、日本代表選手も多数、両軍から選出されていた。
しかし、盛者必衰の理ではないが、このサックスブルーのチームは、2002年のいわゆる完全制覇以降、一度もリーグの頂に立っていない。
常に勝ち続けるチームを作ること、強いチームづくりというのは難しい事だ。かつて、あのマンチェスター・ユナイテッドで、まさに「強いチーム」を作り続けてきた、かの名将サー・アレックス・ファーガソンも同様の事を口にしている。勝利のサイクルを重ねている時こそ、「次」への備えをしっかりしておかなければならないということだ。
最強軍団を蝕んだ「マンネリズム」
当時のジュビロのラインナップには他チームが羨むかのような、豪華絢爛、錚々たる顔が揃っていた。田中誠、鈴木秀人、福西、名波、藤田、高原、そしてゴンこと中山である。
しかし、どんな名選手でも引退のときは訪れる。年齢が進むにつれ、パフォーマンスが維持できなくなるのは仕方がないことだ。然るべき時のために常に若手を発掘、育成し、「下からの突き上げ」というカンフル剤により、常にチーム内に刺激を持たせる。これこそが常勝チームを作り続ける方法である。
しかし、当時のジュビロ磐田には無名の新人が入り込むスキなど、どこにも見当たらなかったのだ。GKからFWまで、当時のことを知っている者ならば、すべてのスタメン選手に聞き覚えがあるはずだ。それくらい、各セクションが洗練されていた。
すると、チームというのは不思議なもので、常に同じメンバー、同じポジションでやっていると、まるで「ぬるま湯」に入っているような現象が起きる。
一つのパスのズレ、マークミスだったかもしれない、しかし「マンネリズム」という内なる敵によりチームも、選手たちも、パフォーマンスが下降線をたどるようになっていく。頂点にある時こそ、最高の準備をしなければならなかったのだ。
こうして、残留争いにすら巻き込まれるシーズンも過ごすようになり、2013年にはついにJ2降格の憂き目に。2015年に1部復帰を果たしたが、2019年には再びJ2降格を余儀なくされてしまう。今シーズンもJ2生活だ。
中山雅史、服部年宏らに期待される「ジュビロイズム」継承
まるで、弱小クラブのような今の現状はジュビロの立ち位置にはふさわしくないし、かつての流れるようなパス回しから多くのゴール、多くの勝利を生み出してきた強いジュビロを知っている多くのファンとしては、彼らの復活を一日千秋の思いで待っている。
そこで今季開幕前、クラブは改革に打って出た。かつての栄光を知る、鈴木政一氏を指揮官として招聘、さらにはコーチ陣も元OBで固めたのだ。J1復帰、さらにその先の高みへー。クラブのただならぬ決意が見える。
今季、京都とデットヒートしながらも首位をキープしているが、得点61はリーグトップの数字だ。この得点力に今季から入閣したこの男の存在は無関係ではないだろう。
前述したOBコーチの一人、ゴン中山こと、中山雅史氏だ。
説明不要、ストライカーとしての何たるか、勝利へのこだわりは現役生活で幾度となく見せてくれた。生まれ変わろうとしている若いチームにはうってつけだ。
さらに、ヘッドコーチに服部年宏、コーチに西野泰正両氏の就任も決定した。「ジュビロイズム」とも言うべき魂を受け継いでいる彼らが再び現場に帰還し、愛するクラブのために戦う。
チームづくりにおいて「ベテランと若手がバランスよく配置されているのが理想」と言われるが、彼らはピッチで戦うことはないものの、知恵を授けることはできる。経験を伝えることができる。
そしてジュビロがどういうクラブでなければならないかを知っている、いわば生き字引だ。それが若いチームに脈々と受け継がれる体制が整った今のチームは王国復権へ見通しが明るい。
重要なのはJ1復帰の「その先」
現時点で自動昇格圏外3位長崎との勝ち点差は11。まず間違いなくJ1復帰は決まるだろうが問題はその後だ。
過去J1下位に低迷したシーズンも、結果が出なければすぐ監督交代をするなど、コンセプトは定着しなかった。結果、選手も入れ替わり、またイチからチームを再構築しなければならなくなってしまったのだ。
今のジュビロの用兵には、クラブの本気度がうかがえる。
かつての栄光を取り戻す戦いは、1、2年では結果は出ないかもしれない。しかし、もっと長い目で見て、なるべく現体制を維持し、ジュビロイズムを貫いていってほしい。その時こそ王国復権の日は近いだろう。
【関連記事】
・サッカー日本代表・森保一監督、加茂監督更迭以来の崖っぷち、次戦が最大の正念場
・岐路に立つ名門・東京ヴェルディは育成と結果の狭間で苦境を乗り越えられるか?
・J2の泥沼にはまる東京V、千葉、京都の名門3チーム「苦闘の歴史」