コロナ対策に翻弄された混沌の2020年
Jリーグは「2020年度クラブ経営情報開示資料」を7月29日に発表し、コロナ禍での開催となった2020シーズンを総括した。
昨年を思い返せば、3月に発令された緊急事態宣言によってJリーグはすべてのスケジュールがストップ。J1、J2は2月末の開幕節のみ開催となり、その後およそ4カ月間にわたり中断を余儀なくされた。
そして再開後は週2試合は当たり前の超過密日程をシーズン終了までこなすことになり、クラブは様々な規制を守りながら運営をしていかなければならなかった。その結果は衝撃的なものだった。
235億円減収の衝撃
各カテゴリーの全チームを合わせて算出した「営業収益」は、J1は2019年の891億円から2020年は201億円減の690億円。J2は2019年の364億円から2020年は34億円減の330億円となった。つまりJ1、J2合計で235億円というとてつもない減収だ。開催する試合の規模がそのまま収益の減少に出ている形で、J1とJ2では数字が桁違いだ。
最もダメージが大きかったのはやはり「入場料収入」だろう。政府や自治体からの要請を受け各クラブは「スタジアム収容人数の50%」や「上限1万人」「上限5000人」「無観客」などでの試合開催を余儀なくされたため、J1は2019年の166億円から2020年は54億円に激減。クラブを愛するファンやサポーターから支払われる111億円もの入場料収入を失った。
やはりJ1クラブのロスが桁違いだ。特に浦和レッズは23億円だった入場料収入が2020年には4億円になり19億円も減らした。その他、横浜F・マリノス、ガンバ大阪、名古屋グランパス、FC東京など都市部のクラブのダメージは大きかった。
入場料収入で大健闘した3つのクラブ
J1とJ2ほとんどのクラブが入場料収入を減らした中、2020シーズンにJ2に所属していた京都サンガ、ギラヴァンツ北九州、アビスパ福岡の3クラブだけが増収を達成した。
京都サンガは素晴らしい新スタジアムが完成し、ギラヴァンツ北九州とアビスパ福岡は成績面で一気に躍進を果たした。この3チームはおそらくスタジアムにお客さんを呼ぶ以外の試みにも多く取り組んだのだろう。
Jリーグの試合はスポーツイベントなので試合を開催する上でも莫大な経費が掛かる。「試合関連経費」を見ていくと、J1は63億円が35億円になり28億円減った。試合開催にかかわる経費が減るのは収支の面ではいいことなのかもしれないが、その点イベントとしての魅力は失われていく。
もともと入場料収入で試合開催費用を補えることは稀と言われていて、良くて相殺、ほとんどが開催するだけで赤字だという。となると、「1万人」や「5000人」など中途半端にお客さんを入れる方が赤字なのは間違いなさそうだ。入場者数制限をしながらクラブが試合を続けていくのはジリ貧でしかない。
最大収益源「スポンサー収入」も減収
Jリーグの現状、ほとんどのクラブにとってスポンサー収入が最大収益源だ。コロナ禍で各スポンサーが出し渋ることは予想されたが、J1は401億円から352億円と49億円の減少。J2は197億円から192億円と5億円の減少に留めた。
しかし、リーグ全体を通してみるとコロナ禍でもスポンサー収入を伸ばしたクラブはある。J1昇格した柏レイソルは6.9億円、清水エスパルスは8.1億円も伸ばした。ただ、ヴィッセル神戸が1チームで57億円も減らしたため、J1全体の数字を下げた形だ。
スポンサー収入はクラブの生命線だが、おそらく今年から来年にかけてが一番苦戦するのではないかと予想する。これまで蓄えていたものがなくなっていくからだ。
また、国全体を通して経済再生が遅れるとJクラブを応援してくれるスポンサー企業の収益自体が減っていくため、来年度のスポンサー収入が減ってしまう可能性もある。コロナ禍での制限や規制は、スポーツクラブにとってはまさに「血を吐きながら続ける悲しいマラソン」なのだ。
「悲しいマラソン」はいつまで続くか
先日の自民党総裁選で、新しく岸田首相が誕生した。菅前首相は規制緩和の動きを進めていたため、10月からJリーグも入場者数制限緩和やチャント解禁などに舵を切っていこうとしている。
岸田首相も経済再生が最優先事項であることを明言しているが、果たして今後政府はどのように動いていくのだろうか。少しでも早く以前のような活気をスポーツ界に取り戻すことが必要だ。
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