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爆買い&古橋亨梧売却のヴィッセル神戸が醸すビジネス的妙味

2021 8/12 06:00桜井恒ニ
セルティックの古橋亨梧,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

古橋を5億円以上で売却、バルサ組が選手ブランディングの副産物

セルティックFCに移籍したサッカー日本代表のFW古橋亨梧が、8月8日(現地時間)に行われたスコットランドのプレミアリーグ第2節に先発出場。20分のリーグ戦初ゴールを皮切りに25分、67分と立て続けに得点を重ねてハットトリックを記録した。

その活躍の裏で、古橋が所属したJ1・ヴィッセル神戸にクラブ経営の妙味が感じられる。神戸は2018年夏、当時J2のFC岐阜で活躍していた古橋を完全移籍で獲得した。チームにフィットすると年々得点数を伸ばし、今季は移籍までに15得点を記録。リーグ得点王(移籍時)として、セルティックへ完全移籍した。

移籍金は、推定5〜7億円。過去にJリーグの選手が欧州移籍を果たした際は、数千万円から高くて2億円前後だった。あるいは久保建英のように0円移籍も少なくない。コロナ禍で欧州クラブも財政に苦しむ中、古橋の移籍金の額は過去トップクラスと見られる。

古橋の移籍交渉で好材料の一つになったと推測されるのが、元バルセロナのアンドレス・イニエスタ、セルジ・サンペールらとの関係だ。移籍前はイニエスタと古橋、サンペールと古橋のホットラインによる得点シーンは何度も見られた。イニエスタ自身も、古橋の実力を認めるコメントを複数出している。ヴィッセル神戸側から考えると「イニエスタが認めた男」という古橋の看板は、移籍交渉でも好材料になっただろう。

イニエスタらバルサ組は、もちろん即戦力としての働きを期待されている。しかし今回の古橋の一件を見ると、若手日本人選手の成長を促し、選手のブランディングにも役立つという副産物も見て取れる。

大迫、武藤、ボージャン……有名FW爆買いでタイトル総取り目指す

得点王の古橋を売却したヴィッセル神戸は、攻撃力が半減する懸念があった。実際に8月9日のJ1第23節・柏レイソル戦では、イニエスタが約1ヵ月ぶりに戦線復帰したものの、田中順也とドウグラスの2トップが不発で古橋不在を痛感させられる試合になった。

しかし、8月に有力選手の「爆買い」を敢行。FWの武藤嘉紀(推定2億円)と大迫勇也(推定年俸2〜4億円)を欧州から連れ戻すことに成功した。さらに元バルサのFWボージャン・クルキッチも完全移籍で獲得。古橋移籍前より豪華な攻撃陣になった。今後、新戦力がヴィッセル神戸の前線に続々と投入されるだろう。

大迫は移籍にあたって「J1リーグ、ACL、天皇杯、ルヴァンカップ全てのタイトルを取り、ヴィッセル神戸の新たな歴史を作るために、全力でプレーし、ストライカーとしてゴールを追求して行きたいと思います」とコメントしている。

チームが噛み合えば、それが夢ではない陣容になりつつある。

現在、J1には川崎フロンターレという絶対王者が君臨する。いくら有力選手を獲得しても、ヴィッセル神戸が野望を実現できるとは限らないが、それでも期待が膨らむメンバーが揃ったことは間違いないだろう。

楽天グループのビジネス拡大中 クラブ経営では買い物上手

ヴィッセル神戸を運営する楽天グループ(以下、楽天)は同じ8月、スマートフォン事業で自社独自の通信サービス「クラウドネイティブモバイルネットワーク」の技術の販売をスタート。日本国内の楽天モバイルは通信エリア収益性にまだ課題があるものの(基地局の先行投資が負担になり、2021年6月中間連結決算は約654億円の赤字)、一部報道によれば同ネットワークシステムをドイツの通信事業社「1&1 AG」に約2000億円で提供する。他にもグループでネット通販、金融、旅行など複数のビジネスを展開している。

サッカービジネス単体で見れば「選手を爆買いして大丈夫か」と心配になりそうだが(クラブによっては億単位の年俸の選手が1〜2人在籍するだけで経営の命取りになることもある)、楽天は本業で文字通り桁違いのビジネスに取り組んでいる。

この楽天が、2014年にヴィッセル神戸の運営会社の全株式を得て以来(楽天の傘下入り)、クラブの全権を担う。運営会社=スポンサーであるため、お上のお伺いを立てる必要がなく、楽天トップの三木谷浩史氏のGoサイン一つで選手獲得などにすぐ動ける。これが現ヴィッセル神戸の強みだ。

さすがに年俸50億円とも言われるメッシ級の選手との契約は二の足を踏むだろうが、日本代表クラスの選手なら、今の楽天にとって高すぎる買い物ではないだろう。加えてコロナ禍での選手獲得レースは、欧州でも財政難で苦しむクラブが多い分、競争相手が少ない。賢い買い物だと言える。

ヴィッセル神戸ならびに楽天は、イニエスタらを獲得したときと同様、今後勝っても負けても話題になるだろう。いずれにせよ、Jリーグに再び嵐を呼ぶことは間違いなさそうだ。

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