柿谷曜一朗、齋藤学、米本拓司、吉田豊は2007年U-17W杯の戦友
Jリーグ開幕直前、今冬に大型補強を敢行した名古屋グランパス。中でも柿谷曜一朗と齋藤学の加入により既存の米本拓司と吉田豊を含め、約14年ぶりに顔を揃えた2007年U-17ワールドカップの出場メンバー4人に着目したい。
07年夏、若きサムライブルーはセレッソ大阪が生んだ天才・柿谷を筆頭に、「人とボールが動くというコンセプト」(城福浩監督)を体現できる選手が招集され、3大会ぶりにU-17W杯出場権を獲得。「新黄金世代」とも呼ばれ、話題性が高かった。
U-17W杯本番、最終的に大会を制したナイジェリアとフランスの2強に、ハイチを加えたグループで戦った日本。結局、1勝2敗の成績で決勝トーナメント進出を果たせなかったが、すでにセレッソとプロ契約を結んでいた柿谷は爪痕を残す。
初戦ハイチ戦(3-1)と3戦目フランス戦(1-2)で計2得点をマーク。中でもフランス戦でセンターサークルから決めた50mロングループシュートは、世界の度肝を抜いた。
当時から俊英ドリブラーだった齋藤(横浜F・マリノスユース)と、16歳の最年少でメンバー入りしたボランチ米本拓司(県伊丹高)は、スタメン獲得には至らなかったものの共に2試合に出場(先発出場は共に1試合)。吉田(静岡学園高)は、左サイドバックとして3戦にフル出場している。
決して順風満帆ではなかった4人のサッカー人生
あれから約14年の月日が経ち、彼らは三十路を過ぎてサッカー人生の終盤に差し掛かったと言える。U-17W杯後にそれぞれ歩んだ、紆余曲折の道程を振り返る。
柿谷は、09年途中からJ2徳島ヴォルティスへレンタル移籍して武者修行。12年に復帰し、翌年からセレッソのエースナンバー8を背負って躍動すると、14年、ブラジルW杯日本代表に選出された。同年夏にスイスリーグのバーゼルに完全移籍。しかし出番に恵まれず、16年に再び背番号8を付けて古巣へ戻る。だが、近年は定位置を掴み切れず、昨季リーグ戦は1ゴールに終わった。
F・マリノスでプロになった齋藤は、柿谷同様、J2愛媛FCへの期限付き移籍を経てブレイク。F・マリノス復帰後の12年はロンドン五輪に出場し、翌年はA代表にも初選出。14年ブラジルW杯のA代表に選ばれた。だが17年、シーズン途中に右膝前十字靭帯損傷の全治8か月の大ケガを負い、翌年ライバルクラブ・川崎フロンターレへの“禁断の移籍”を選ぶ。フロンターレ在籍3年間では主力になり切れず、昨季リーグ戦は1得点だった。
米本は、プロ1年目からFC東京のボランチの定位置を確保。10年1月には19歳でA代表デビューを果たす。しかしその直後、シーズン開幕前に左膝前十字靱帯損傷などの大ケガに泣かされる。12年に復活し、13年からの3年間は毎年リーグ戦30試合以上に出場したが、16年に再び右膝を負傷。戦列を離れる憂き目にあう。そして19年、10年過ごしたFC東京を離れてグランパスへ。昨季は27戦に出場し、持ち前のボールハント力を証明した。
吉田はJ2ヴァンフォーレ甲府で、プロ2年目から先発の座を掴む。10年にはJ1昇格に貢献するも、翌年J2へ降格。それを機に地元の清水エスパルスに加入し、ここでもコンスタントに出場機会を得たが、15年にサガン鳥栖へ、19年にグランパスへとチームを渡り歩く。昨季は攻守の安定感抜群で、Jリーグ優秀選手賞を受賞。巡り合わせもありA代表とは無縁だが、J屈指の左SBである。
カギを握るのはズバリ柿谷曜一朗の得点力
そんな山あり谷ありの人生を経て、円熟期を迎えた4人が名古屋に集い、リーグ戦とACLの2冠に挑む。昨季リーグ3位のチームに、彼らがどんな化学反応を起こすのか予想したい。
吉田の定位置、左SBは安泰。バックアッパーには、サガンから獲得した左右のSBをこなせるU-23日本代表候補、森下龍矢が控えている。森下は吉田のことを「越えなければいけない壁」と目標に据えており、吉田も気の抜けたプレーはできない。
昨季リーグ最少の28失点を記録した堅守グランパスの心臓がボランチ。昨季の米本は、全34試合フル出場の稲垣祥とコンビを組み、守備に重点を置くマッシモ・フィッカデンティ監督の要求に応えた。今季さらなる戦力として、浦和レッズより元日本代表の長澤和輝を獲得。長澤は元々アタッカーで攻撃力も秘めている。新たなピースが、米本or稲垣とハマる可能性も十分考えられる。
サイドアタッカーの齋藤は、「厳しい競争の中でプレーする自分に賭けてみようと思った」と移籍を決意。昨季のエース格マテウスをはじめ、左利きの技巧派ガブリエル・シャビエル、同じ右利きのドリブラー相馬勇紀らと熾烈なポジション争いを演じることに。彼らとの切磋琢磨で、かつての輝きを取り戻せるか。
そして名古屋でも背番号8を付ける柿谷は、1トップの位置での起用が有力。昨季終盤、右膝に大ケガを負ったFW金崎夢生が夏まで不在だけに、新天地での早急な完全復活が待たれる。本人も「僕のポジションで求められるのはゴールだけ」と役割を認識。より得点に近づくプレーに専念する。
かつて世界で戦った若き日の丸戦士4人が、運命に導かれ今季赤いユニフォームをまとう。ベテランになった彼らが主演を張り、もうひと花咲かせるドラマが見られるかもしれない。
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