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浦和と徳島が異例の監督争奪戦、ロドリゲス監督が徳島で続けるべき理由

2020 12/6 06:00KENTA
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昇格目前で監督引き抜き報道

J1昇格とJ2優勝に王手をかけた徳島ヴォルティスに激震が走った。11月25日、各メディアがヴォルティスを率いるスペイン人監督リカルド・ロドリゲスは来季からJ1浦和レッズに「移籍」することが決定的と報じたのだ。

ヴォルティスの岸田社長も「浦和からそういったオファーは来ている」と認め、さらに同日、レッズは大槻毅監督が今シーズン限りで退任することを発表。自らの退路を断つかのようなレッズの情報発信は報道の信ぴょう性を高めた。

J1昇格争いの佳境に入ったデリケートなタイミングで、J2首位を走るチームの監督を引き抜くという異例の事態。ともすればチームの団結を揺るがしかねない。ネット上ではヴォルティスサポーターの困惑と疑念が渦巻いていた。

浦和レッズがリカルド・ロドリゲス監督を狙う理由

そもそも「リカ将」(リカルド・ロドリゲス監督の愛称)には、今シーズン開幕前にもいくつかのオファーがあった。就任から3年でJ1昇格まであと一歩のところへチームを押し上げた手腕が評価され、有力クラブが引き抜きを画策したが、リカ将曰く「徳島をJ1昇格させたかった」ために残留を決めたという。この忠誠心もレッズにとっては魅力的だったはずだ。

リカ将は日本人選手への理解が高い監督だ。「インテンシティが足りないのは嘘」「戦術的に戦える」「臨機応変にやれないのは嘘」などの発言からは日本サッカーへのリスペクトが垣間見える。

日本人選手の特性を最大限まで活かしたポゼッションスタイルは非常に魅力的で、なおかつ相手の戦術を読み、その逆を取る賢いサッカーを展開している。

そして野心家だ。代表監督をやりたい、ヨーロッパのトップレベルで指揮してみたいと公言している。浦和レッズで監督として好成績を収めることは、日本代表監督への近道といえるだろう。

浦和レッズは2020シーズンから強化部門の責任者が変わった。土田SDと西野TDがタッグを組み、公式サイトで、どんなチームを作るべきか意思表明している。

ポイントは3点。「個の能力を最大限に発揮する」「前向き、積極的、情熱的なプレーをすること」「攻守に切れ目のない、相手を休ませないプレーをすること」。このチーム像を確立するためにリカルド・ロドリゲス監督の手腕を必要としているのだ。

レッズの特殊な収益構造による誤算

ここまで見てみると、この監督争奪戦で浦和レッズの優位は揺るぎそうにないと思えるが、コロナ禍がこの先の全ての行方を曇らせた。レッズとヴォルティスがそれぞれ交渉で切るべきカードを整理すると、思わぬシーソーゲームになっていることが分かった。

浦和レッズは徳島ヴォルティスより資金力があるのは間違いないが、Jリーグの中でも特殊な構造のクラブ経営をしている。2019年度の事業収入82億円はヴォルティスの17億円の約5倍だが、純利益は6198万円。節税対策もあって抑えているのだろうが、実はヴォルティスの純利益は8700万円と計上されておりレッズを上回っている。

さらにレッズのネックとなっているのは来期にかけられる予算が不透明になっていることだ。6月10日、レッズは公式サイトで経営状況について情報を公表。2020年度の売上高が最終的に10億円前後の赤字になる予想を打ち出した。

レッズの特殊性は収益源にある。2019年度の観客の入場料収入23億円はJリーグ全体で1位。2位の横浜F・マリノスで13億円なので断トツの数字だ。他のクラブの入場料収入は全体の収入源の約18%の割合をしめているが、レッズは28%にも上る。

今回のコロナ禍での観客の入場制限により、その28%が一気に減るという事態が起こってしまったのだ。2019年シーズンに23億円だった入場料収入は今シーズン、13億円になると予想されており、大きな下方修正を余儀なくされた。

新監督を招聘する上では、十分な戦力を用意できるかが重要だ。コロナ禍でどれだけ新選手獲得にお金を使えるか、レッズは試されている。今季、大槻監督の下で別のスタイルのサッカーを展開しているだけに、すでに多くの高額年俸の選手を抱えるチームをどこまで再編成できるのか疑問が残る。

ヴォルティスの武器と未来

その点、徳島ヴォルティスはJ2ではトップクラスの資金力を誇っているし、リカ将が求める能力を持つ選手もすでに揃っている。

ヴォルティスが持つ交渉カードはお金以外の要素が大きいだろう。フロントやサポーターとの信頼関係、生活、安心、来シーズンのJ1での冒険。リカ将はスペイン・マラガ時代に強化部門でフロントの仕事をしていたが、「代理人とお金の話をするのが退屈だった。現場に情熱がある」と公言しており、フットボールへの理想を燃やすタイプとも考えられるので、十分交渉の余地はあるはずだ。

野心家のリカ将は徳島ヴォルティスとともに、来シーズンJ1でさらに躍進するのがベストではないか。そしてそれは現在のパフォーマンスを観ていると、十分に実現させられる力を持っているように思う。浦和レッズと徳島ヴォルティス、両チームの壮絶な監督争奪戦は、果たしてどのような結末を迎えるのだろうか。

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