仮想欧州VS仮想日本代表
川崎フロンターレが7月20日夜、「エアトリ presents Paris Saint-Germain JAPAN TOUR 2022」の第一戦目でパリ・サンジェルマン(以下、PSG)と対戦して1-2で敗北した。“Jリーグの1クラブ対欧州の強豪クラブ”という構図以上の、示唆に富んだ興味深い一戦になった。
現サッカー日本代表には、田中碧・守田英正・三笘薫を筆頭に、谷口彰悟、山根視来、板倉滉、脇坂泰斗など数多くのフロンターレ出身者がいる。久保建英も幼少期、フロンターレの下部組織に在籍した時期がある。
彼らの多くがフロンターレの鬼木達監督の指導を受けており、森保一代表監督が「無策」だと戦術批判を浴びるなか、フロンターレ出身者の連携が、暗に日本代表のベースになっている。フロンターレ出身者が代表を支えている、と言っても過言ではないほど存在感が大きくなっている。
そんな多くの代表選手を輩出するフロンターレが今回、PSGと激突した。フロンターレは日本代表が多用する4-3-3のフォーメーションを採用。両チームとも多国籍軍で純粋な比較こそできないが、個々の選手の力量やフィジカルの差などを考慮すると、“仮想欧州VS仮想日本代表”とも表現できる興味深い組み合わせになった。
“超個性”は戦術を上回る
いざ試合が始まると、フロンターレは善戦した。左ウイングのマルシーニョがセルヒオ・ラモスが空けたスペースに複数回抜け出してチャンスメイクし、家長昭博や途中出場の知念慶も見せ場を作った。
後半84分には、コーナーキックから山村和也がヘッドで流し込み、PSGを相手に1点もぎ取った。GKドンナルンマの厚い壁を突破できれば、もう1、2点取れたかもしれない。
しかし全体を通して見ると、フロンターレは劣勢だった。キリアン・エムバペ、リオネル・メッシらを中心としたボール回しに翻弄された。
フロンターレの守備陣がちゃんと体制を整えた状態であっても、Jリーガーたちより数センチ短い間合いで突破してきて、技術力やフィジカル(スピードやパワー)を見せつける場面も。1失点目はそんな状況下でメッシにシュートを振り抜かれ(逆足だったが)、2失点目は左サイドから完全に崩された。
フロンターレはシーズン真っ最中だが、PSGはこれからシーズン開幕に向けて調子を上げようとしている最中であり本調子ではない。それでも両チームの差は小さくなく、PSGが試合を支配する時間帯は長く、フロンターレが自陣で苦しむという、Jリーグではなかなか見られない光景が広がった。いくら万全の陣形でも、PSGのように世界有数のトッププレイヤーが揃えば競り負けてしまう。そんな現実を突きつけられた。
見えた課題:攻撃時の判断スピードと守備のルール設定
試合を通じて、フロンターレ側で気になったのは、攻撃時のスピード不足だ。せっかく相手からボールを奪取してチャナティップらがボールを受けても、次の攻撃に至るまでのゼロコンマ数秒もたついて、PSGが守備網を整えてしまう。マルシーニョらFW陣も1テンポ早くシュート・ラストパスをしていれば……という場面があった。攻撃時の判断のもたつきは、日本代表でも長年よく見られる光景だ。
守備対応で気になったのはアドリブ(即興)への対応、全体の意思疎通だ。フロンターレはジェジエウとGK鄭成龍を中心にかなり攻撃をシャットアウトしていたが、エムバペが突然斜めに走りこんで裏抜けするなど、ポジションにとらわれないアドリブの攻撃に手を焼く場面が見受けられた。
守備陣の意思疎通という面で言えば、1失点目の場面でフロンターレの守備陣は早いパス回しで前後左右に揺さぶられた。同様に日本代表も、ボールを見るのか人を見るのか、状況に応じたルール設定をしておかないと、パス回しに長けたスペイン代表に揺さぶられて失点しかねない。
PSGにとって日本ツアーは物見遊山、出稼ぎ出張にすぎないだろう。しかしJリーグのクラブ、ひいては日本サッカー界にとって貴重なレッスンの場である。7月23日の浦和レッズ戦、25日のガンバ大阪戦にも注目だ。
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