スコットランドと欧州プレーオフ準決勝、勝てばウェールズと決勝
ロシアのウクライナ侵攻による戦闘の長期化は、3カ月になろうとする今も先行きが見えない。
そんな悲惨な現実に打ちひしがれる母国の希望を背負い、11月開幕のサッカー・ワールドカップ(W杯)カタール大会の出場権獲得を目指して運命の決戦を迎えるのがウクライナ代表だ。
平和と反戦を訴えながら、3月から延期された欧州予選プレーオフ準決勝で6月1日にスコットランドと対戦。勝てば、6月5日の決勝でウェールズと本大会出場をかけて戦う。ロシアが国際大会から全面除外されて不戦敗となる一方、戦火を逃れ国外のスロベニアで異例の長期合宿を続けながら4大会ぶりのW杯本大会出場を夢見てキックオフの瞬間を待っている。
予選でW杯王者フランスと2戦2分けと健闘
ウクライナ代表は2021年の欧州選手権で8強入りし、W杯欧州予選では前回王者のフランスに2戦2分けと互角に渡り合った。無敗でプレーオフに進み、本大会出場へ波に乗っていたところで2月24日にロシアによる侵攻が始まった経緯がある。
ウクライナ協会は国内の全てのサッカー活動を停止し、国内リーグも中止に。米メディアによると、当時のペトラコフ監督は「現状では、とてもじゃないが今後のサッカーについて考えることはできない。自国の人々が戦火で命を落としている限り、スコットランドと試合をすることは考えられない」とW杯のことを考える余裕もなかった。
それでも国内リーグの強豪ディナモ・キーウやシャフタル・ドネツクは欧州各地で練習や慈善試合を行い、精力的に反戦を呼びかけた。ウクライナ協会の公式サイトによると、戦火による国内の総動員令で成人男性の出国が原則として認められない中、サッカー代表チームは特別に国外で活動が許されたという。
欧州サッカー連盟(UEFA)のチェフェリン会長が出身地のスロベニアに練習場を確保してくれる全面的な支援もあり、異例の状況下で決戦に照準を定めている。
ロシアの侵攻後初の対外試合に勝利
5月11日、ウクライナ代表はロシアによる侵攻開始後初となる対外試合をドイツのメンヘングラッドバッハで行い、ブンデスリーガのボルシアMGに2―1で勝った。
試合前は選手らが「STOP WAR(戦争をやめろ)」と書かれた横断幕を掲げて反戦を訴え、無料招待されたウクライナ国民を含む2万人超の観衆の声援を受けた。
試合の収益はウクライナ支援のために寄付されるという。国内2部リーグには軍に入隊して闘う選手もいる。ペトラコフ監督自身も侵攻が始まった当時は空爆がやまない首都キーウ(キエフ)にいたそうだ。戦火で命を落とした選手や家族も少なくない。
そんな複雑な状況下、誰もが母国の惨状に心を痛めながら「母国に希望を」と懸命に準備を進める。今後はイタリアのエンポリ、クロアチアのリエカとも親善試合を予定している。
決戦は「単なるサッカーの試合でない」
ロイター通信によると、ウクライナ代表の中心選手であるMFステパネンコは欧州予選プレーオフのスコットランド戦に向け「毎日兵士からメッセージを受け取っている。国民にとって、W杯は希望の光。今回は単なるサッカーの試合ではない。魂を込めて戦わなければいけない」と母国のために闘う決意を語った。
スロベニア合宿にはウクライナの国内リーグの選手23人が参加。欧州各国リーグでプレーするトップ選手も、それぞれのシーズン終了後に加わる予定だ。
ペトラコフ監督は「ロシアへの制裁は最低でも5年間は続くべきだ」と要求し、憤りを隠さない。ウクライナ協会の公式サイトには連日ゼレンスキー大統領の声明と、ロシアとの軍事動向が細かく掲載される。戦火拡大でスポーツ界の「分断」も急速に進む中、運命の大一番は国際的にも異例の注目を集めそうだ。
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