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W杯8強のオシム氏死去に思う…日本代表は森保一監督がベストなのか?

2022 5/5 06:00糸井貢
川淵三郎氏と握手するイビチャ・オシム氏,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

相手チームの担当記者も聞き入った「オシム語録」

ゴールデンウィークの日本列島に、欧州から訃報がもたらされた。Jリーグ市原(現千葉)を強豪クラブに育て、日本代表監督も務めたイビチャ・オシム氏が1日、自宅のあるオーストリア・グラーツで死去。80歳だった。

日本サッカー界に残した氏の功績について、今さら多くの言葉は必要としない。2003年に市原の監督として来日。ピッチの全員にハードワーク、複数ポジションをこなせるポリバレントな能力を求め、05年にナビスコ杯を制した。

チーム強化に長けただけでなく、独特な視点とシニカルな口調で発する「オシム語録」に代表されるキャラクターも秀逸。Jリーグを取材していた当時、相手クラブの担当なのに、彼の監督会見だけは必ず出席していたのを思い出す。

手腕を見込まれ、同氏が日本代表監督に就任したのは、1次リーグで敗退したドイツW杯直後の2006年8月だった。翌07年のアジアカップこそ4位に終わったものの、同年9月にオーストリアで開催された3大陸トーナメントで、最後は強豪スイスを4―3の逆転で下して優勝。「オシムの考え」が浸透し、目指すサッカーのスタイルが見え始めた矢先、指揮官は脳梗塞に倒れ、無念の思いでタクトを置いた。

歴代の日本代表監督はW杯16強どまり

オシム氏が名声を世界にとどろかせたのは90年イタリア大会。国が分裂する前のユーゴスラビアを率いて、決勝トーナメント1回戦で「無敵艦隊」スペインを撃破。準々決勝でも、あのディエゴ・マラドーナ擁するアルゼンチンと互角以上の戦いを演じ、PK戦で敗れ去った。

主力選手の一人で、オシム氏と同じく、後のJリーグに多大な影響を与えたドラガン・ストイコビッチ氏は、師の訃報に接し、当時の甘美な記憶を哀悼の中に甦らせた。

「彼は、私の選手生活に深い足跡を残してくれた。イタリアでのW杯と、そこで経験したすべてが特別な思い出になるだろう」

実は、日本代表監督経験者で、指導者としてチームをW杯ベスト8に導いた実績を持つのは、オシム氏しかいない。日本を16強に進出させたフィリップ・トルシエ氏(02年)、岡田武史氏(10年)、西野朗氏(18年)はもちろん、ハビエル・アギーレ氏(02、10年メキシコ)、バヒド・ハリルホジッチ氏(14年アルジェリア)も、この「壁」を超えていない。

1次リーグの3試合で手の内が明かされ、90分から120分を視野に入れた戦い方を要求され、負ければ終わりとなる決勝トーナメント。全く違うフェーズに突入する1回戦では、監督の力量が勝負のウェートを占める割合が大きい。日本はその大一番で過去に3度、敗れてきた。

02年日韓大会では、雨の宮城でトルコに0―1と敗れ、パラグアイと顔を合わせた10年南アフリカ大会は、スコアレスのままPK戦に突入し、敗れて大会を後にした。記憶に新しい18年ロシア大会では、優勝候補のベルギーに2―0とリードしながら、後半に3点を失う悲劇的な逆転負けを喫した。

スコアだけ見れば、いずれも善戦といえるかもしれない。ただ、内容を吟味すれば、少し印象は変わってくる。

検証と議論を尽くしたのか?

02年のトルシエ監督はなぜ1次リーグと違う1トップの布陣を敷き、初先発の西沢明訓を起用する「奇襲」に出たのか。120分間、点を奪えなかった10年の岡田武史監督は攻撃で、逆に2点を先取した18年の西野朗監督は守備で、戦術もしくは用兵の有効的な「一手」が打てなかったか…。結果論と片付けるのは簡単でも、「壁」にはね返されてきた事実がある以上、日本が飛躍するために、過去を見直すことは必要だ。

そして、日本にとって7度目のW杯となるカタール大会開幕が半年後に迫っている。森保一監督にとっては、監督、選手を含め初めてのひのき舞台。特に20年以降はコロナ禍で海外遠征の機会も限られ、経験値は圧倒的に不足している。1次リーグでドイツ、スペインのW杯優勝経験国と同居。ただでさえ、状況は厳しい。

日本サッカー協会(JFA)は、このまま何の手も打たずに、森保監督に本大会を委ねるのか。あらゆる可能性を追求し、出した結論なら、それでいい。もし、予選の検証もされず、W杯切符を勝ち取った事実だけを見ての起用なら、8強の夢は遠いと言わざるをえない。

前回ロシア大会の直前、協会はハリルホジッチ監督を解任する断を下した。森保監督が「NO」というのではなく、日本サッカー界全体がW杯にベストを尽くす努力を続けているのか。その姿勢が知りたいだけだ。

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