2度の手術、2度の移籍、2度の代表選出
横浜F・マリノスの松原健が、日本代表メンバーに2014年以来、7年ぶりに招集された。本人も驚いたというサプライズ選出。まだ「松原健」を知らない人のために、経歴、プレースタイル、パーソナルティをお伝えしよう。
生まれは大分県宇佐市。小中学生時代はFWなど攻撃的な位置でプレーしたが、大分トリニータU-18に在籍したのを機に、現在のポジションである右サイドバックへコンバート。10年に2種登録でプロデビューを飾り、11年にトップチームに昇格した。
最初の転機が訪れたのは14年。当時J1の新潟へ新天地を求めてレギュラーの座を掴み、リーグ戦31戦に出場。ブラジルワールドカップ後の8月には、ハビエル・アギーレ体制下のA代表に初選出されたが、試合の出番は一度も訪れなかった。
翌15年はリーグ戦出場数ゼロ…。「前年11月あたりから、(右膝半月板に)ちょっと違和感があってキャンプで痛みが強くなったので」(松原)、人生初の手術に踏み切ったからだ。ほぼ1年リハビリに費やし、目標だったリオ五輪本戦の代表選考から漏れる。
その直後、同じ箇所に2度目のメスを入れる。「(1回目の手術から)ずっと痛みが残っていたので再び手術をして…。2回目のほうが堪えましたね」(松原)。新潟での3年間は、ほぼ半分をリハビリに費やした。
16年にケガが癒えて復調すると、翌年、F・マリノスが松原に白羽の矢を立てる。移籍理由を「タイトルを取りにきた」と公言し、右SBの座を17年より確保し続けた。
F・マリノス3年目の19年。シーズン当初から右腸腰筋肉離れの負傷により出遅れ、戦列を離れる日々が続いた。先発復帰戦は、約5か月ぶりとなる26節サンフレッチェ広島戦。3-0の完封勝利に尽力し、再びスタメンを勝ち取る。それから最終節まで9戦連続フルタイム出場、8勝1分で突っ走りリーグ王者に輝いた。
昨季は超過密の連戦下において、右SBは明確なローテーション起用が敢行され、新戦力の小池龍太と交互に試合へ出場。また、守備の柱チアゴ・マルチンスがケガで離脱の間は、センターバックを務めて経験値を高める。そしてプロ11年目、28歳で今季を迎えた。
データで目を見張るのは走行距離とタックル成功率
「このチームはSBの出来が、ゲームに与える影響が大きい」(松原)
横浜F・マリノスがアンジェ・ポステコグルー監督の18年就任以来、掲げるアタッキング・フットボール。その戦術の肝と、自他ともに認めるポジションの一つがSBだろう。
まず最低限必要になってくるのが走力。タッチライン際の上下動はもちろん、偽サイドバック的な動きとして空いているスペース次第で左右、斜めへと幅広く動き、パスコースを増やすランが欠かせない。
そのため、昨季のトラッキングデータの平均走行距離ランキングでは11.3㎞とチーム1位に。今季もフルタイム出場したリーグ3戦では、毎試合12㎞以上を走行した。
また、攻撃的SBに見られがちだが、守備能力も年々向上。今季ここまでの総タックル数はチーム内1位の17本と多く、しかも成功率82.4%と高確率でボールを刈り取れる。
オフェンス面で優れているのが「目」と「キック」。具体的には視野の広さ、空間認識能力がずば抜けており、DFラインの背後や隙間といった急所を一瞬で見抜く目を持つ。加えてその急所を突く、高精度のキックを備えているからこそ、頭の中で瞬時に描いた絵(チャンス)を実現できる。
松原は味方に使われるより使う側の“隠れプレーメーカー”。中長距離の縦パス、スルーパスの妙技に刮目を。
内に秘めた日本最高峰サイドバックへの想い
松原のピッチ外での丁寧な対応も、記者陣から好評。コロナ禍以前のミックスゾーンでの囲み取材では、話がひと段落すると、「もう(質問は)大丈夫ですか?」と、必ず記者の目を見ながら気を遣って確認してくれたのが懐かしい。
19年の優勝目前だった33節・川崎フロンターレ戦での4-1の大勝後には、饒舌に話す松原に対し、記者の中から「日本代表も狙えるのでは?」と誘導尋問的な質問が出た。しかし、松原はおだてに乗ることなく、「えーと、僕に何を言わせたいんですか」と記者たちの笑いを誘った。ただ、過去の取材ノートをひっくり返して見ると、18年にこんな崇高な目標を口にしていた。
「F・マリノスで試合に出続け、いいプレーが増えれば、日本代表も見えてくるはず。そこへたどり着くことを常に狙っています」
やはり日本最高の右サイドバックになりたいという想いを、胸に秘めていたのである。14年のアギーレ・ジャパンで止まっていた松原の時計が味わい深さを増し、再び動き出す。今度こそピッチに立ち、縦横無尽に走ってほしい。
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