「風運」のなさも強さの秘密
スキージャンプは、ジャンプ台から飛び出したジャンパーが、空気の力を利用して飛距離を競う競技だ。空中にいるジャンパーには、常に空気の力が作用する。向かい風はスキー板を押し上げ、追い風はジャンパーを地面へと降下させるのだが、これでは風向きで有利不利が出てしまう。
そこで国際スキー連盟(FIS)は、気象条件の変化に対応し公平に採点するために「ウィンドファクター」を導入した。向かい風ならポイントを減算し、追い風なら加算する。最新の統計データに基づき、風が競技結果に与える影響と、選手の技術的対応力を分析しているのだ。
2021年から2026年の男子の平均ウィンドポイント(加算される点数が多いほど追い風の状況)を算出してみたところ、特定のジャンパーに追い風条件が集中していることが分かった。言ってしまえば「風運」のない選手だ。

ランキング上位の主要な選手で平均ウィンドポイント(編集部調べ)が最も高い選手は、ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪開催時点でW杯総合ランキング1位のドメン・プレブツ(スロベニア)だ。ドメン・プレブツの平均加算ポイントは+4.12ptを記録している。日本勢では同3位の二階堂蓮が+3.45ptで最も高い数値を記録し、同2位の小林陵侑も高いウィンドポイントを得ているのは興味深い。
追い風でも飛距離を維持する高い技術があるからこそ、世界ランキング上位にとどまることができるのだろう。「風運」がないことで、ドメン・プレブツや二階堂蓮は、特に加点幅の大きい条件下で飛ぶことができるという見方もできる。
追い風条件下でも高パフォーマンス、シュテファン・クラフト
加点幅は上位3選手には劣るものの、強い追い風条件下で、高いパフォーマンスを維持するジャンパーがスキージャンプのレジェンドの一人シュテファン・クラフト(オーストリア)だ。「飛距離維持率」という考え方でシュテファン・クラフトの能力を評価するとそのすごさが見えてくる。
飛距離維持率とは、無風状態の時に到達できる飛距離を100%とした場合、追い風などの悪条件において、どれだけの割合の距離を維持して着地できたかを示す数値である。 一般的に、ワールドカップに出場する選手の平均的な飛距離維持率は、追い風2m/s以上の条件下では85%から88%程度まで低下する。さらに追い風が3m/sになると、飛距離維持率は約75%から80%まで下がる。
対してシュテファン・クラフトは、追い風2m/s以上の状況における飛距離維持率が96.2%という数値を記録している。追い風は空気の流速を相対的に下げ、揚力を減少させる傾向がある。シュテファン・クラフトは、テイクオフ直後にスキー板と体の角度を微調整し、空気抵抗を抑えつつ、浮力を生み出す揚抗比(「揚力」を「抗力(抵抗)」で割った値で、空力的な効率性を示す指標)の最適解を維持しているものと考えられる。

データ上の散布図(縦軸:飛距離、横軸:ウィンドポイント)を確認すると、多くの選手は右側(追い風エリア)へ行くほど飛距離が変動するが、シュテファン・クラフトは安定性の高さを示すグラフの右上の領域に位置する。追い風による影響を極めて高いレベルの滑空技術で制御していることが分かる。
ミラノ五輪の会場特性と小林陵侑の勝機
2026年ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪のスキージャンプ会場のプレダッツォでは、周囲の地形により谷風が発生しやすく、競技時間帯によっては追い風が発生する確率が高い。
そしてこの会場特性は、小林陵侑にとってプラスとなる。小林陵侑は、追い風条件下での勝率が高く、2022年北京五輪のノーマルヒルで金メダルを獲得した際も、上位選手の中で加点の多い+5.1ptの追い風を受けながらK点越えを記録した。
小林陵侑のジャンプは、飛行曲線が低く、空中での速度低下が少ない。追い風下では、高い飛行曲線を描くジャンパーほど垂直落下速度が増加しやすく、低空高速滑空は追い風による影響を最小化する。谷風の発生は小林陵侑の勝機となる可能性が高いのだ。
ウィンドポイントで観戦を楽しく
スキージャンプの順位を判断する際、飛距離の数字だけで一喜一憂するのはもったいない。より深く競技を楽しむなら、画面に表示される「ウィンドポイント」に注目してみてほしい。
この数値は、ジャンパーがその瞬間に立ち向かった「風のドラマ」を読み解く鍵となる。たとえば追い風下での加点は、選手がどれほど過酷な状況を跳ね除けたのか、その戦いの大きさを物語っている。
向かい風の助けが少ない中で驚異的な飛距離を記録したなら、それは高度な滑空技術を証明する何よりの証拠だ。ウィンドポイントも気にしながら中継画面を見るだけで、ジャンパーたちの卓越した技術力が、より鮮明に伝わってくるはずだ。
関連記事
・【フィギュア】イリア・マリニンの圧倒的アドバンテージとは 数字から見る4回転アクセル ミラノ冬季五輪
・【カーリング】ロコ・ソラーレでも難しい新ルール 減速を意図したスウィーピングが禁止に ミラノ・コルティナ冬季五輪で知っておきたい競技事情
・【カーリング】試合が進むほど成功率が下がる? スタッツから見る氷上のチェス 冬季五輪で知っておきたい競技事情