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【カーリング】試合が進むほど成功率が下がる? スタッツから見る氷上のチェス 冬季五輪で知っておきたい競技事情

2026 2/6 11:00SPAIA編集部
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ⒸMichele Ursi/Shutterstock.com

1投を「0から4」で評価

いよいよ冬季五輪が開幕する。氷上で繰り広げられる静かなる熱戦、カーリング。一見すると石を滑らせ、ブラシで掃くシンプルな競技に映るかもしれない。しかし、その実態は「氷上のチェス」と称されるほど緻密な戦略に支配されている。

近年のカーリング界では、野球のセイバーメトリクスやサッカーの走行データ解析と同様に、高度な統計データ(スタッツ)が勝敗を分ける決定的な要素となっているのだ。

カーリングのスタッツにおいて、最も基本となるのが「ショット成功率」だ。これは単に石がハウス(円)に入ったかどうかを測るものではない。スキップ(主将)が意図した『タスク(目的)』がどれだけ正確に遂行されたかを0点から4点の5段階で評価する。

例えば、完璧に意図通りなら「4」、致命的なミスではないが意図と異なる結果なら「2」、完全な空振りなら「0」となる。この積み重ねがパーセンテージとして算出されるのだ。この数字を読み解けば、選手の個性が浮き彫りになる。「ドロー(石を置く)」の成功率は高いが「ダブルテイクアウト(2個以上の石を出す)」は苦手、といった詳細なプロファイリングが可能になるからだ。

興味深いのは、トップクラスのチームでもポジションによって成功率の平均が異なる点だ。ポジションごとに求められる役割と世界選手権や五輪での平均成功率は次の通り。

リード:80%後半から90%。試合の基盤を作る
セカンド:85%前後。相手のガードを払うなど多様なショットが求められる
サード:80%台前半。複数の石を動かす難易度の高いショットを任されるため、成功率は落ちることも多いが、一投のインパクトは絶大
スキップ:70%台〜80%台前半。混雑したハウスに対して「成功しなければ負ける」という極限のプレッシャー下で投げるため、成功率は全ポジションで最も低くなる傾向にある

ゲームが進行するにつれて盤面が複雑化する性質上、後半であればあるほどショット成功率はどうしても下がってしまうのだ。

チームの実力を暴くマクロ指標

個人の技術を超え、チームとしての「性格」を映し出すのが、ハンマー(後攻)効率やスティール効率といったマクロ指標だ。

ハンマー効率(HE):後攻の際に2点以上取る能力。これが高いチームは、エンドを支配しきる攻撃力を持っている
フォース効率(FE):先攻時に相手を1点に抑え込む確率。この数値が高いチームは、ハウス中心を巧みに守る「堅守」のチームと言える
スティール効率(SE):先攻で得点を奪う確率。ガードを多用するアグレッシブなチームほど高くなる傾向にあり、勝利との相関が非常に強い

これらの指標を分析すれば、そのチームが「大量得点を狙うリスクテーカー」なのか、「失点を最小限に抑える守護者」なのかというアイデンティティが見えてくる。

「XP」と「POE」で見える真の貢献度

スタッツアナリティクスの発展は、成功率の裏側にある「ショットの難易度」も数値化した。それが「XP(Expected Points:期待得点)」という概念だ。

XPとは、過去の試合データに基づき、「ある状況で特定のショットを投げた際、そのエンドで最終的に何点取れるか」を算出した平均値だ。

例: ハウスの中心に石を置く簡単なドローなら、成功すれば「期待得点」は高くなる。逆に、相手の石が密集する中に突っ込むような高難度のショットは、失敗のリスクがあるため「期待得点」は低く見積もられる。

このXPをベースに誕生したのが、選手の真の貢献度を測る「POE(Points Over Expectation:期待値を上回るポイント)」だ。算出式はシンプルである。

POE = 実際の獲得スコア - XP(期待得点)

従来の成功率では、簡単なショットを100%決めるリードと、絶体絶命のピンチで針の穴を通すようなショットを決めるスキップを公平に比較することが難しかった。しかしPOEを用いれば、「本来なら失点するはずの難しい局面(低いXP)で、どれだけ得点を上積みしたか」が明確になる。

POEが高い選手:数字以上の「勝負強さ」を持ち、困難な状況を打破できる選手
POEが低い選手:成功率は高くても、簡単なショットしか決めておらず、勝負どころでの貢献が薄い可能性がある選手

このPOEの積み重ねが、最終的に「WP(Win Probability:勝利確率)」を押し上げる原動力となる。WPは「現在のスコア、残りエンド数、ハンマーの有無」から算出される、その時点でチームが最終的に勝利する確率だ。試合中にWPが急激に跳ね上がる瞬間、そこには必ず誰かの「POEの高いショット」が存在しているのだ。

たとえチームが敗北し、WPがゼロになったとしても、POEがプラスであれば「その選手は期待以上の仕事を全うした」と評価される。

試合を左右する「0手目」と「未来予測」

試合は、第1エンドの前からすでに始まっている。それが「LSD(ラストストーンドロー)」だ。これは、試合前の練習直後に各チーム2名がハウスの中心(ボタン)を狙って投球し、中心からの距離を計測するもの。中心に近いチームが、第1エンドの「ハンマー(後攻)」という大きなアドバンテージを手にすることができる。試合開始から有利な後攻でスタートできるだけでなく、同点時の最終エンドで後攻を取る権利にも影響するため、勝利に直結するのだ。

大会を通じたLSDの平均値(最も悪い記録を除外したもの)は「DSC(ドローショットチャレンジ)」と呼ばれ、総当たりの予選で勝敗数が並んだ場合の順位決定に用いられる優先指標の一つだ。DSCの数値が良いチームは、ショットの正確さだけでなく、迅速かつ正確な「アイス・リーディング(氷の状態把握)」が行えていることを意味している。

そして、刻々と変わる試合状況を表すのが、先ほども登場した「WP(Win Probability:勝利確率)」だ。過去の数万エンドに及ぶ膨大な試合データに基づき、「現在のスコア、エンド数、ハンマーの有無」から、その時点での最終的な勝率がリアルタイムで算出される。

2点リードでハンマーを持っている場合など、統計的に極めて優位な状況では高い勝利確率となるが、終盤でリードを許し、かつ先攻の場合などは勝率は極めて低くなる。後攻が有利なため試合開始時は後攻の勝率が60%ほどであることも特徴だ。

スタッツに目を向けるとテレビ画面に映る1投がどれほど困難で価値があるものかが見えてくる。選手の活躍とともに、それらを表す数字にも目を向けて楽しんでほしい。

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