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「海のF1」セールGPは賞金1億円超の“空飛ぶ”高速ヨットレース

2020 3/18 11:00田村崇仁
「海のF1」と呼ばれるセールGPⒸセールGP
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ⒸセールGP

セーリングの国別対抗戦、日本は開幕戦3位

「海のF1」「空飛ぶヨットレース」と呼ばれるセーリングの国別対抗戦、セールGPが2年目のシーズンをスタートさせた。

全長15メートル、重さ2.4トンの細長い船を2艇並べた形のカタマラン(双胴艇)で争われ、最高時速100キロにも達する圧倒的な世界最速のスピード感。公式ツイッターで公開された動画を見ると、5人のクルーが乗り込み、風を受けて水面から2メートルほど浮き上がった艇が甲高い不思議な音を響かせながら疾走する迫力に驚かされる。

「F50」という双胴艇はまさに洋上を滑るように飛ぶ。それも動力が風だけなのだから、その競技性の高さや緻密な戦略性とエンタメ要素も満載だ。

シーズン開幕戦は2月29日までシドニーで行われ、昨季総合2位だった日本は参加7カ国中、1位英国、2位オーストラリアに次いで3位と上々の順位で滑り出した。

選手の技術に焦点、新規ファン開拓も

ヨット界に新風を吹き込むセールGPは米ソフトウエア大手オラクル創業者で世界有数の大富豪ラリー・エリソン氏と、伝統のアメリカズカップ(ア杯)を艇長として3度制した伝説のセーラー、ラッセル・クーツ氏が立ち上げた。

資金力がものをいう世界最古のア杯とは一線を画し、使用する艇は企業の開発競争によるコスト削減のため全チーム統一のモデル。各チームの選手の技術に焦点を当て、高速ヨットにカメラやマイクを設置して選手目線の映像や音声も提供して新規ファンの開拓を図る。世界各地で生中継も実施され、日本ではDAZN(ダ・ゾーン)がLIVE配信を行っている。

高級腕時計ブランドのロレックスなどがスポンサーにつき、世界各地を転戦して年間の総合優勝チームは賞金100万ドル(約1億円)を獲得する。参加国はオーストラリア、日本、英国、アメリカ、フランスに加え、今年からはスペインとデンマークが新たに参戦。4大会連続五輪金メダルのベン・エインズリー(英国)ら名だたる世界屈指のセーラーが9月まで欧米や南半球を転戦し、ファンの目をくぎ付けにする操船技術で頂点を競う。

東京五輪代表の高橋レオも二足のわらじで参戦

日本チームは東京五輪男子49er級代表と二足のわらじを履く高橋レオ(オークランド大)も参戦する。父がニュージーランド、母が静岡出身の21歳だ。世界最高峰のレース、アメリカズ杯出場経験もある父の影響もあってセーリングを始め、セールGPでは水中翼を調整する「フライトコントローラー」や帆を調整するための動力を供給する「グラインダー」としてチームに貢献している。

セーリング界では新興国の日本は、特例で昨年は3人、今年は2人の外国選手の補強が認められている。日本艇を操る2012年ロンドン五輪金メダリストのネーサン・アウタリッジ(オーストラリア)の一流のコース取りや風の読みを間近に体感できるのは、日本人選手にとって将来的に貴重な機会だ。

セールを調整する「ウイングトリマー」は世界ユースを制した経験豊富なアイデン・メンジス(オーストラリア)。「グラインダー」は一橋大のボート部時代に日本一になった経験もある笠谷勇希、オーストラリア生まれで小学生時代に大阪市で過ごしたこともある森嶋ティモシーが務める。

規定では来年は1人減り、再来年は完全に日本国籍選手だけのチームで臨む必要があり、海外を転戦しながら日々技術を習得していく貪欲さも求められそうだ。

新時代のエンタメ、将来は日本開催も

日本チームの最高執行責任者アメリカズ杯でも総監督を務めた早福和彦氏。風の力だけを利用するため環境面にも優しく、スポーツとエンタメ要素も融合した持続可能な新時代の国際セーリング大会に成長する将来性を秘めている。

日本での認知度はまだ高いといえず、普及にはチームの顔となる日本人選手が欠かせない。「空のF1」とも呼ばれた世界最速の3次元モータースポーツ「レッドブル・エアレース」は昨年、突如として終了。「海のF1」は将来的な日本開催も目指している。

東京五輪で金メダル、セールGPでの年間チャンピオンは高橋レオの大きな夢でもある。船の開発にどれだけのお金をかけたかではなく、最高の選手が勝つ。日本や中国のアジア市場にも照準を定め、最先端技術が詰まったエキサイティングなセールGPから目が離せない。